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第1話 まだ、何も知らない

 どうしてこんなことになったんだっけ、ルーカスは茹だった頭で何度も考えるのに、すぐに霧散してしまう。思考を巡らせようとするたびに、ルーカスに覆いかぶさるオルガが邪魔をするからだ。  俺の腰を掴んでいるオルガが、尻の中に突っ込んだチンポで浅い場所にある気持ちいい部分を抉ってくる。 「ッあ、ッ♡♡こんなっ♡あっ♡♡あ゛♡あぎッ♡♡ひぃ♡♡ぃ゛いい♡♡オルガやめ、♡ぇ゛゙う゛、ッ……♡♡」 「やめろ、じゃないだろ」 「ふ、ぅう゛、んッ、あ゛!!♡♡んぎッ♡♡あっ♡♡ぁあ゛♡♡」  ぐり♡ぐり♡と続けてそこを押し上げられ、ベッドにへばりついたまま仰け反ったルーカスの体がブルブルと震えた。  腹の奥が温かくなってきて、溶け出すように頭がふわふわしてくる。何度も味わわされたアレがまたくる。アレがくると気持ちいいのが続いて訳が分からなくなって、何も考えられなくなってしまう。  駄目だと思うのに、体が期待してオルガが動きやすいように腰を上げてしまう。 「っ、腰上がってる……またいく?」  察したオルガに指摘されて、恥ずかしさに顔が熱くなる。汗で湿った金髪を掻き回して感覚を散らそうと身悶えても、体はもう止まらない。ルーカスの気持ちを裏切って、どんどん昇っていく。 「はー…っ♡は…っ♡♡あッ♡♡いっ♡♡いくっ♡♡♡――ッあ、くる、くるっ♡♡あ♡あ♡かってにぃ゛い♡♡」 「ナカだけでイクのはもう慣れたみたいだな……っ」 「あっ♡あ゛ッ♡♡い、ぐ♡い゛ぐッ♡♡♡う゛ぅううう゛……っ!!♡♡♡」  自分でも分かるほど強くオルガのチンポを締め付けてしまいながら、押し寄せてくる絶頂からどうにか逃れようとシーツを掴む。  何とか尻の中のチンポを抜こうとずり上がるのに、オルガはルーカスの腰を掴んで引き留めてきた。 「あッ゛!?♡♡やめっ♡♡♡っ♡ぬいて、ぇえ♡♡」 「奥でもイケるようになろうな……」 「ひぐぅう゛う゛……!!♡♡♡」  ズドン♡と最奥まで叩き込まれ、衝撃に見開いた青い目からぶわりと涙が溢れ出た。  腹の奥を暴かれる痛みと苦しさに、絶頂が混じり合って溶けていく。ただでさえ身の内から込み上がるアクメを持て余しているルーカスは、半ばパニック状態でもがいた。けれどオルガに強く腰を掴まれ逃げることができない。 「あ゛ッ♡♡っお♡ぉ、お゛っ♡♡♡んぎッ……♡♡♡い゛ぅっ♡♡ぁあっ♡あ゛ーッ♡♡♡」 「は、っ……ほら、さっきみたいにゆっくりするから」 「あ゛ッ♡ぁ゛♡やぇえ゛っ♡♡♡そごぉおッ♡♡やめへぇえ♡♡」  腰に食い込むオルガの指が鈍い痛みを訴えるのに、体はお構いなしに腹の内からの快感を拾い上げる。ゆっくり、と言ったとおりに緩慢なピストンを繰り返され、ルーカスは枕にしがみついて耐えるしかなかった。 「あぁ……♡ッあ゛ぅ♡♡ぅう゛ッ♡」 「上手にイケるようになったな」 「や、ぃやだ♡ぁ、あ゛ッ♡♡」 「こんなに気持ちいいのに?ほら、ここだって」  前かがみになったオルガの指先が、ルーカスの乳首を摘まみ上げる。鋭い刺激にビクッ♡と跳ねあがったルーカスの肉壁が、咥え込んだチンポを強く締め付けた。 「あっあっ♡や♡乳首やだ♡ぁ゛うッ♡♡」 「ほら、弄ると締め付けてくる」 「んひッ♡ぃ゛あ♡」  こりこり♡と指先で転がされて、潰されて捏ねられる。すっかり快楽に弱くなった乳首がジンジンとして、それが腹の奥に溜まっていく感覚があった。 「やらっ♡あっ♡あ゛っ♡い、く♡乳首いやらっ♡あ゛ぅう♡いぐ♡♡いくっ♡」 「イッて」 「あ♡いぐ♡ィぐッ♡う゛ッ……ッ♡♡んぅう゛ぅう゛ッ!!!♡♡♡」  深くまで犯され乳首を虐められて、限界を迎えたルーカスはあっけなくメスイキする。射精せずとも腹の奥で続く絶頂は、長く尾を引いた。 「ぅ、あ♡あぁ゛……ッ~~♡♡」 「もう尻に咥え込んでないとイけなくなったね」  未だメスイキから降りられないルーカスに、オルガが囁く。否定したいのに、ゆるゆるとピストンされるチンポに媚びる肉筒がオルガの言葉を肯定してしまっていた。 「ほら、イったばっかりなのにナカがしゃぶりついてくる」  ずるぅ…♡と引き抜かれると反射的に締め付けてしまい、奥へ押し込まれると全身が粟立つ。シーツに縋りついて堪えるルーカスを、オルガは容赦なく揺さぶった。 「ぁはッ♡あ゛ッ♡あ゛ッ♡ぁ゛ッ♡あ゛ッッ♡」  トン♡トン♡と小刻みにノックしながら責められれば、すっかりオルガを受け入れたアナルが柔らかく蠢く。オルガの言うとおり、肉筒は熱いチンポをみっちりと締め付けて蠕動し自分で気持ちよくなってるみたいだった。 「あぇっ♡んお゛ッ♡♡ちがっ♡♡」 「違わないだろ……素直になれよ」 「ゃ、やだ♡あっ♡やだっ♡ぁぁ゛ッ♡」 「可愛いな、ルーカス」 「~~~~ッッお゛、ッッ……!!!♡♡♡」  耳元に落ちてきた甘い囁きに、腹の奥の何かがゾワッと沸き立つような感覚があった。どちゅっ♡と腰を強く押し付けられると全身に電流が走ったみたいに痙攣し、頭の奥で何かがはじけて真っ白になる。途端に抗えない大きな波が広がり、湧き出る多幸感に意識が蕩けた。 「ぉ♡♡ぁ……ッ♡♡ッッ……♡♡」 「覚えが良くてよかった……ルーカスは優秀だな」  全身をブルブルと振るわせて絶頂に耐えるルーカスの身体は、アクメに達しながらも健気にオルガのチンポを締め付け、胎内の痙攣で扱くように阿る。その撓む背中をいたわるようにオルガが何度も口づける。 「ふぅ゛ッ♡♡っぐ……♡♡……ぉ゛……♡♡」  ずるぅ♡とゆっくりカリ首近くまで引き抜かれたチンポが、またゆっくりと押し込まれる。メスイキの痙攣が残る肉壁の感触を愉しむようなピストンは、絶頂を引き延ばしてルーカスを苦しめた。  それでもどこか心地よくて、理性もプライドも快楽に蝕まれて崩壊しそうになる。けれどそれを享受してしまえば、後戻りできなくなるのではという底の見えない恐怖がある。自分の体に起きていることが怖くて、このまま変になっていくのではないかという不安がある。ルーカスは必死に自分の理性に縋った。 「や、ぇ゛ぇ……ッ♡とまれッ♡オルガ♡♡腰、止め……ッぉ゛♡♡」  枕にしがみついていた片手で背後のオルガを押し退けようとするが、逆に腕を掴まれて軽々と引き寄せられる。 「あッ♡♡ぉお゛……♡♡……ッッ♡♡」  背後にオルガの熱い体が密着し、 大きな手がルーカスの下腹を引き寄せながら自分の腰を押し付けてくる。痩せ型のルーカスの薄い尻を押し潰すように密着し、チンポが奥の奥を拡げていく。 「ぉ゛……ッ♡おぐっ♡っほ、ぉ……ッッ♡♡♡」 「奥まで入ってる……」 「ッぅう゛……♡」  内臓を押し上げられるような感覚。肉筒全体がオルガの形に拡張され、チンポを擦り付けられるたびにゾクゾクと快感が湧き出た。 「あっ♡ぁぇ、っ?♡あぇ、っお゛、ぉ♡♡」 「ルーカスに才能があって嬉しいよ」  オルガの手のひらが下腹を撫で回す。熱い体温が下腹に沁み込むうちに、腹の深い場所が疼くような気さえしてくる。短いストロークで奥を突かれると、疼きは甘い刺激になって脳髄へ突き抜けた。 「ぉ゛ん゛ッ♡んッぅ゛♡お゛ぐっやだ♡ぅ゛う゛……っ♡♡」 「そうか?ナカはそんな風に言ってないけどな」 「っ、……――ッお゛!!!♡♡♡」  笑みを含んだ声が耳元に落とされ、ぱんっ♡と軽く腰を打ち付けられる。たったそれだけで、ルーカスは駆け上がる強い快感に背が折れそうなほど反り返った。 「ほら……な?」 「や、おるが♡もぅ、やめ♡ッ♡」  振り返った先のオルガの情欲に満ちた目に、この淫虐がまだ続くのだと察して半ば恐怖を感じて視界が滲む。腰に回る腕を振り払おうと掴んでも、騎士団で鍛え上げられたオルガには敵うはずもなかった。 「ルーカスは口より体の方が正直だから」 「ぃやッ、だ♡ぁ、そこ♡……ッぁ、あ♡」  両脇から手を差し入れたオルガが、ルーカスの両胸の乳首を摘まむ。散々弄り回されぷっくりと大きくなったそれを、人差し指と親指で挟んで揉みしだく。 「あっ♡♡やめへ♡おるがっ♡やぇえっ♡♡」  柔い乳首を捏ねられる感覚が、下腹の疼きと一緒にルーカスの快感を高めていく。逃げようと腰を揺すれば、深々と突き刺さったチンポに内壁を擦られ、ビリビリと腹の奥から電流が駆け抜ける。 「っ、あっ♡あっ♡あ゛っ♡あっ♡……」 「乳首も気持ちいいもんなぁ」 「ぁあ、やっ♡……ッ♡♡ぉお゛ッ!♡♡ッお、ぐっ♡」  グッと引いた腰が叩きつけられ、衝撃に揺れたルーカスのチンポから押し出されるように先走りが跳ね散った。 「ルーカス、俺もイっていいよな……?」  湿った声で囁かれ、ダメだと頭の隅が冷たくなる。なのに下腹はぎゅうッ♡と引き絞るように熱く疼いて、腹の中のチンポを締め付ける。 「ふふ、ナカは俺の子種が欲しいって」 「ちが、ぁ゛♡っちがぅ゛……ぅ゛あ゛ッ♡あ♡ッあ゛♡♡」  オルガの手が、ルーカスの身体に巻きついて肩と胸を押さえ込んだ。どうにもならない圧迫感と、満たされるような安心感が同時に訪れる。 「ッお、ぁ゛♡お゛っ♡だめっ♡」 「駄目じゃないだろ、……っ」  緩慢に刻まれていたオルガのピストンが、射精を目指して激しさを増す。チンポが抜き挿しを繰り返すたび、媚びるように肉襞が吸い付き、掻き出されるように粘液質な水音が響いた。 「オルガっ♡ぁ、あ゛ッ♡あっ♡♡ぉお゛ッ♡あっ♡あ゛ッ♡」  強く突き上げられても、ルーカスが縋れるのは拘束するように体に絡みつくオルガの腕しかない。腹の底から押し寄せる快感を逃すために爪を立てるシーツも枕もなく、揺さぶられるまま喘ぐしかなかった。 「やだっ♡やぇ゛えっ♡っだめ、ぁ♡だめ、ぁ♡あッ♡あ゛ッ♡あ゛ぁッ♡」  絶対的な力の差、体格の差に泣きたいような惨めな気持ちになる。  圧倒的な雄に屈して、メスのように鳴き媚びるしかできない自分にも。屈辱的なはずのそれが理性すらぶち壊してしまいそうなほどの快感を与えられ、心のどこかで悦んでしまっているのもだ。 「ルーカス、ッ……ルーカス……」 「ッやらっ♡ひぐっ♡♡ぅ゛う゛♡っぉ゛お゛……♡」  オルガの呼吸が荒くなり、噛み殺したような喘ぎが落ちてくる。肩口に吸い付かれ、頬擦りされる。ルーカスの身体を好き放題弄んでいるくせに、乱暴な腰つきも強く抱きしめてくる両腕もオルガの強い執着を感じさせた。 「あ゛ッ!♡や、だ!♡♡♡っほ、お゛ぉ゛……ッ!!♡♡♡」 「もっ、と、奥まで……ルーカス……」  オルガの膝がルーカスの足の間に押し込まれ、グイ、と大きく開かされる。身体に巻き付いていた両手がルーカスの腰を強く掴み直して、己の欲に突き動かされるまま激しく腰を叩きつけ始める。 「お゛ぅッ!!♡♡ひぃ゛っ!♡あ゛ッ!♡う゛ッ!♡うぅ゛う~~……ッ!!♡♡」  オルガに支えられて起こしていた上半身は、突き上げの強さにあっさりとベッドに崩れ落ちた。さっきまでしがみついていた枕に顔が埋まり、押し付けられる。 「んぶっ♡♡んぅう♡お゛ッ……♡い、ッぅぐ♡♡♡ふぅ゛うう♡」  グジュ♡ヌチュ♡と粘着質な音と、肌を打ち合う音がひっきりなしに響く。慄く肉壁をオルガのチンポが押し拡げて擦り上げ、前立腺を抉って奥を叩かれた。柔らかく蕩けてまとわりつく媚肉を巻き込みながら引き抜き、また突き上げる。 「ぉお゛っ!♡あ゛っ!♡い゛っ♡♡ぁあ゛っ♡お゛ッ♡お゛ッッ!♡」  オルガが突き上げるのに合わせて、ルーカスの喉からは悲鳴のような嬌声が迸った。尾てい骨から脳髄を駆け上がっていく恍惚が、頭の奥で感電するように弾ける。 「ぐっ♡あ゛ぅっ♡ひぐっ♡ぅ゛♡♡おるがっ♡」  潰されたカエルのような格好でベッドに這いつくばるルーカスに、オルガが体を倒して覆いかぶさってきた。熱を持ったルーカスの耳元で、男の荒い息混じりの声が響く。 「出していいか、ルーカス……」 「ゃだっ!♡ぁあ゛っ♡やめっ♡なかやだっ♡」 「っ……中に注いでやるから、もっと感じろ」 「い゛やっ♡あっ♡あ゛ぁ゛っ!♡♡」  耳に溶けた言葉に、腹の奥が熱く疼いた。言葉とは裏腹に、ルーカスは腰を上げオルガのチンポに媚びて締め付けてしまう。 「あッ!♡♡ああっ♡ぃ゛っ♡やっ♡ぁ、あぁあ゛っ!!♡♡」  どちゅっ♡と奥を何度も叩くような激しいピストン。内臓が圧し上げられて苦しいのに、その苦しさがねっとりとした熱を引き連れてルーカスを満たしていく。  上から肩を掴まれて押さえ込まれ、逃げ出そうと伸ばした手はシーツを握り締めるだけだった。 「ひぐっ!!♡♡ぃ゛あ、あ゛っ!!♡♡おくだめ゛っ♡そこっ♡♡ぉお゛っ♡♡♡」 「イくぞ、ルーカス……っ!」  射精に向けてオルガがラストスパートをかけ始める。ピストンの激しさが増していくのに伴って、肉筒に擦れるチンポはさらに硬さを増して膨張していく。 「ひぐッ♡ィ、ぐぅッ♡♡あ、くるッ♡きちゃ、ッ♡いぐ、いぐっ♡♡♡ッひ、ぃい゛っ……!!」  頭の中がスパークして、熱いものが腹の底から込み上げてきた。激しく揺さぶられながら、全身を甘く痺れるような快感が襲う。じゅわり♡と脳髄が蕩けるようなメスイキの陶酔感に、全身が震えて止まらない。 「ぁぁ……ッ♡♡……~~ッ♡♡♡」 「――ッは、……ぅ゛、ッッ!!」  ぎゅうぅッ♡と締めつけた媚肉に、オルガも低く呻く。奥に押し付けられたチンポからザーメンが噴き上がり、ルーカスの腹を満たしていく。 「――ッ!!♡♡♡♡ぉ゛ッ♡♡ぉお゛……ッッ♡♡♡」 「っ、ふー……っ♡は、ッ……」 「ひぃ♡……ッ♡♡や、おるがっ♡」  最後の一滴まで絞り出そうとするように、肉筒の中でチンポを出し入れされる。肉壁を擦られて身悶えるルーカスの腰を掴んで押さえつけながら、無慈悲に。 「あッ♡あぁ♡まだイってるっ♡やだっ♡こするなぁ、ぁ゛う♡」 「ルー、ルーカス……こっち見て」  じゅぶ♡じゅぽ♡とザーメンを擦り込みながら、オルガはルーカスの肩を引いて振り返らせた。見上げたオルガの顔は、満足げな恍惚が浮かんでいるのに目だけはまだ飢えたようにギラついている。 「ぁ゛……♡♡♡おるが♡は、ぅ、んぅ゛……ッ♡♡♡」  後頭部を掴まれ、顔を背ける間もないうちに口づけられた。半開きの唇に舌が入り込んで、濡れた口腔を舐め回す。舌を絡め取られ、ちゅく♡と音を立てて吸われる。柔く噛んで、唇を舐められて口内を犯されて。 「ンッ♡っ、♡ぅ、♡ぅう♡♡」  オルガの好き放題に弄ばれているのに、メスイキの余韻に耽溺したルーカスは抵抗できない。間近で揺らめく緑色の瞳が、やけに印象的だった。 ***  ルーカスが初めてオルガに出会ったのは、まだ生まれたばかりの頃だった。オルガの母親はルーカスの乳母として雇われ、その縁もあり5歳のオルガも屋敷に招かれた。  もちろん物心がつく前のルーカスは覚えていないが、ルーカスの母親も、オルガの母親もこぞってその時のことを嬉しそうに語ってくれた。 「初めまして、オルガ」 「初めまして奥様」  オルガはとても礼儀正しい子供だった。5歳にしては落ち着いていて、聡明で、周りをよく見ていた。丁寧に頭を下げて挨拶をした彼に、ルーカスの母親は手招きをして呼び寄せる。  足音を立てずにそっと近寄ってきたオルガは、ルーカスの母親に導かれるままその腕に抱かれて眠るルーカスを覗き込んだ。 「この子はルーカス、あなたの方がお兄さんね」  呼吸すら、潜めているようだった。手を伸ばすわけでも声をかけるわけでもなく、オルガはじっと赤子のルーカスを見下ろす。  白い肌、金糸のような柔らかい髪。ふくふくした頬と、赤い唇。幼い頃のルーカスは、天使のような可愛らしい赤子だった。 「よろしくね、オルガ」  音もなくルーカスの目が開いた。大きなまん丸い青い瞳が、午後の光を浴びてキラキラと光る。 「あ……」  ジィッとルーカスを見ていたオルガと、起きたばかりのルーカスの視線が交わった。静かな緑色の瞳と、澄んだ青い瞳。 「ん、んぅ……」 「まあ」 「あらあら」  喃語を漏らしながら伸びてきた小さな手が、オルガへ向かう。傍で見ていたオルガの母親も、ルーカスの母親も物怖じしないルーカスの様子に頬を緩めた。 「ルーカス……」  オルガのまだ子供の手が、ルーカスの手をそうっと握る。お互いの体温が伝わって、オルガは小さくため息をついた。 「初めまして、僕はオルガ。よろしく、ルーカス」  小さな囁き声で、オルガは握った手を少しだけ揺らしながらルーカスに声をかけた。それが刺激となったのか、ルーカスは足をばたつかせながら、にぱぁ、と満面の笑みを浮かべた。  それから、オルガは片時もルーカスのそばを離れなかったと聞いた。世話に関しては乳母であるオルガの母親を手伝うということしかできなかったが、その献身っぷりはオルガの母親を凌ぐほどだったらしい。  それは成長しても、変わらなかった。小さな子供にありがちな直情的なあからさまさはなりを潜めたが、それでもオルガは誰の目で見ても明らかにルーカスを可愛がっていた。  それから時が経ち、ルーカスが6歳になった頃だ。  夏の暑い盛りに食欲が落ちたルーカスを、療養のために母親と領地内の別荘へ向かうことになった。息子の体調を心配し、両親で話し合った結果だと聞かされはしたが、その実、当主になるための英才教育を受けている兄の邪魔であったのだろうとルーカスは今でも思っている。  ルーカスは公爵家の次男で、4歳上の兄ファオスはルーカスと同じ6歳の頃にはすでに跡目を継ぐための教育が始まっていた。そして2年後の12歳になる頃には寄宿舎付きの学び舎に入るための試験が待っている。そのために、ファオスは専属の家庭教師たちと毎日勉学や運動に励んでいた。  そんな家に、夏の暑さごときで体調を崩しかける弟がいれば、当主の父親としては邪魔に思っても仕方ない。乳母とその息子だけを付けて別荘へ追いやるのも当然と言えば当然だ。母親がついてきただけ大事にされているとも思えた。 「オルガ!湖だ!」 「落ちるなよ、ルーカス」  それでもルーカスは、オルガと一緒に居られることが楽しかった。11歳になるオルガも試験を控えており、ファオスと同じく勉強や鍛錬に忙しくてあまり会えなくなっていたからだ。  もっとも、代々騎士を輩出している男爵家のオルガは兄のファオスとは違い、訓練兵として騎士団に入団する予定だった。寄宿舎があり、外出も管理されていることからしばらくは会えないと言われていた。  深い森の中に立つ別荘は、貴族が使う建物にしては珍しく1階しかない低層の館だった。木々によって日光を直接館に当てないことを目的に作られたらしく、館の中はいつでもひんやりとしていた。だがその反面、室内はいつも薄暗い。  ルーカスはこの別荘があまり好きではなかった。昼でも廊下は灯りがいるほど暗いし、木の床はときどきギシリと軋む音がする。どこか陰鬱として、子供の恐怖心を煽るには十分だった。  その屋敷から徒歩で行ける場所に、小さな湖があった。広さはないが、桟橋も設えてある。訪れるものが少ない湖はいつも澄んでいて、晴れた日にはキラキラと太陽の光を反射させる。  その日は、ルーカスの発案で、湖の側の木陰でピクニックをすることになったのだ。 「ルーカス、あまり湖に近づいてはダメよ。日も当たるし、あなたはまだ泳げないのだから」 「大丈夫ですお母様!少し見るだけですから」  涼しい館での生活で、ルーカスはすぐにいつもの調子を取り戻した。数少ない、心を許せる者だけがいる空間が心地よかったのもあるだろう。食欲も睡眠も、すぐに戻っていた。 「オルガ、ここに魚はいる?」 「ああ、いるよ。こんな大きなのが」  桟橋の突端に膝をついて湖を覗き込むルーカスに、オルガは大きく手を広げて見せる。今思えば、小さな湖にそんな大きな魚がいるわけないのに、その時のルーカスは真面目に信じ込んだ。 「お前なんか一飲みだ」 「そ、っそれは、……嫌だな」 「そうだろう?ほら、もう戻ろう。昼飯が先だ」  ギ、と木の軋む音をさせてオルガが戻っていくのを感じ、ルーカスもあわてて立ち上がった。腰が上がり切る前に踵を返した瞬間、バランスが崩れて体が後ろへ引っ張られる。背中を向けているオルガに手を伸ばしたが、届くはずもなく視界は青い空一色になり強い太陽の光が差し込んだ。 「っあ……!!!」  眩しさに目を瞑ると同時に、ルーカスは冷たい水の中へ落下する。仰向けに沈んだ身体が、一瞬にして冷えた水に包まれた。水面に揺れる青い空と太陽の光を見ながら、必死に手足をバタつかせる。  だが濡れた服が体にまとわりついて手足が上手く動かない。泳ぎ方を知らないルーカスは上手く浮かぶことができず、すぐそこに水面があるのにそれ以上身体が上がっていかなかった。 「ッ……!ッゴ、ボっ……!!」  ふと浮かんだのは、さっきのオルガの言葉。大きな魚に、一飲みにされてしまう。恐怖からパニックになって、ジタバタと足を動かした。けれどルーカスの思いとは逆に、身体はゆっくりと沈んでいく。  死、という言葉が、ルーカスの脳裏に浮かぶ。それは全身を浸す水よりも冷たく、魚に食べられてしまうより恐ろしい言葉だった。 「ルーカス!!」  劈くような大きな声と共に、腕を掴まれ身体が急激に引き上げられる。力強い腕に抱き込まれると同時に、水面から顔を出すことができた。 「ぶはっ……!!ッ……ゲホッ、……!!」 「大丈夫だルーカス、もう平気だ。しっかり掴まれ」 「お、おる……ッごほ!!」  噎せるルーカスを片腕で抱き、オルガが水面を蹴って泳ぐ。桟橋から上がることは不可能だと判断したのか、湖の岸の方へと移動していく。 「っげほ……!お、おる、っ……おるが」 「大丈夫だルーカス」  底に足が届くようになってもルーカスはオルガにしがみついたまま、オルガもルーカスの身体に腕を回したまま離さなかった。水を含んだ重たいはずのルーカスを抱き上げたまま、オルガは岸辺にたどり着く。そこまで来てようやくオルガはルーカスを地面に降ろし、へたり込むルーカスの背中を撫でた。 「気持ち悪いなら吐き戻していい」  言われるまま、込み上がってきたものを吐き出す。びちゃびちゃと音を立てて溢れるのは、飲んでしまった湖の水ばかりだ。吐き気が収まらず、何度も嘔吐いた。 「大丈夫だ、ルーカス」 「う、っうぅ……ぅ、……ッひ、……おるが、っ……」  背中を撫でるオルガの手の温度と感触が、ルーカスに生きている実感を与えた。それはルーカスの緊張の糸を解すには十分で、泣きじゃくりながらオルガにしがみついた。自分と同じく全身ずぶ濡れのオルガの身体は、それでも暖かかった。 「大丈夫だ」  オルガは冷たいルーカスの体を抱きしめて、大丈夫だと言い続けた。オルガの言葉は呪文のように、ルーカスに染み込む。 「だ、大丈夫?!ルーカス!」 「オルガ、ルーカス様はっ……」  照りつける日差しの暑さと揺らぐことなく抱きしめてくれる温かいオルガの身体に、ルーカスは徐々に落ち着きを取り戻していった。だが駆け寄ってきた母親と乳母に顔を覗き込まれてもオルガから離れることはできなかったし、オルガの腕が離れることもなかった。 「すぐに屋敷へ。湯の準備を」 「はい!」  母親の声に乳母が先んじて屋敷へ駆け戻る。腰が抜けたのか上手く歩くことができないルーカスをオルガが抱え、母親の先導で屋敷へと戻った。  風呂の準備ができたとき、ルーカスは全裸で何枚ものタオルに包まれたうえでオルガに抱えられていた。オルガも濡れた服を脱いではいたが、下穿きとタオルを肩から掛けただけの軽装だった。 「傍にいたのに、ルーカス様を危険な目に遭わせてしまいました……申し訳ありません」  オルガはルーカスが落ちてしまったことで罪悪感を覚えているようだった。浴室の入口でオルガの母親である乳母と一緒に頭を下げるオルガに、母親はゆっくりと首を振る。 「オルガ、それは違うわ。あなたが助けなければルーカスは今ここにはいない。謝罪をしなければいけないのは私よ、あなたにルーカスを任せてしまった私なの」  オルガの言葉を遮るように、ルーカスの母親は強く言い募った。ルーカスが幼い頃からオルガと接していることを知っているからこそ、母親もオルガがルーカスを守ってくれると思っていたのだ。 「ですが」 「お母様、僕が悪いのです。オルガは注意してくれたし、戻ろうと言ってくれてた。僕がよろけてしまって……ごめんなさい」 「えぇ、えぇそうね。誰も悪くないのよ。ルーカス、あなたが無事でよかったわ」  水に落ちた恐怖を思い出して泣きだすルーカスのまだ濡れた頭を撫でながら、母親は微笑んだ。 「さあ、早く体を温めないと。本当に風邪をひいてしまうわ。ゆっくり浸かるのよ」  母親が立ち去り、湯気が立ち込める浴室の中でオルガはルーカスを包むタオルを全て捲り取ってから浴槽へ向かった。 「僕、一人は……」 「ああ、俺も一緒に入る」 「いいの?」  普段ならあり得ないことだ。使用人と主家の子供が一緒に風呂に入ることは禁止されていた。そのことに気が付いて不安を滲ませるルーカスに、オルガが答えた。 「風呂の中でも、溺れないように隣に座るだけだ。さあルーカス、手を」 「うん」 「ゆっくり、湯の中に」  湯に足をつけた途端、寒さに縮こまっていた体が弛緩する。それを見ていたオルガはゆっくりとルーカスの体を浴槽に座らせる。 「冷えてるな」 「オルガは、寒くない?」 「俺は鍛えてるからな」  まだ11歳でありながら、オルガは周囲の子供よりも体格が良かった。日々の鍛錬のおかげもあるだろうが、元よりオルガの家の男はみな背が高く筋肉のつきやすい性質のようだった。 「日に焼けてる。僕は真っ白」 「外で鍛錬するから。ルーカスだってその内こうなるかもしれない」 「僕も?」 「ああ。だってルーカスは次男だろう?家はファオス様が継ぐことになるだろうし、ルーカスは大人になったら他の仕事を探さないと。ずっとあの家にはいられないだろう?」 「……そっか」  浅黒く日焼けしたオルガの腕を眺めながら、ルーカスは少し寂しくなった。  父親は領地の経営と次期当主の兄の教育に忙しい。次男のルーカスとの交流は少なかった。母親もルーカスの世話は乳母に任せることが多く、普段は父親の手伝いや社交に励んでいる。  家族と過ごす時間が少ないルーカスは、オルガもいつか自分の傍を離れてしまうのかと思ったからだ。 「騎士団には俺がいるよ。ルーカスも入るか?」 「でも、僕体を動かすのは好きじゃなくて……」 「そうだったな」 「それに、危険な仕事じゃないの?お母様が言ってたよ」 「そうだな。でも騎士になれば、俺は何でも手に入れられる。守りたいものが守れる」  オルガはいつになく真剣な目をしていた。 「僕も守ってくれる?」 「もちろん」  迷う素振りすら見せない即答の裏にどんな意味があるかなんて6歳のルーカスに見抜けるわけもなく、彼の答えを親愛の情として受け取った。 「だけどルーカス、今日の振る舞いは良くなかったの、わかるだろう?」 「うん……」 「次期ご当主のファオス様に何かあったときの予備として、ルーカスがいるんだ。ルーカスは公爵家として遜色ない振る舞いをしなければならない。それができないのであれば、ルーカスは予備としての役割さえ失ってしまうよ」  父親は時折顔を合わせても、聞かれるのは勉強の様子や普段の行いが良いかということばかりだった。  役割を失う、そう言われて泣き出しそうな不安に襲われる。 「反省してる……」 「そうだな。ルーカスは分かってくれると思ったよ。母君に謝ることができたのも偉かったな」  頭を撫でられて、ルーカスはほっと息を吐き出した。 「もう、湖には近づかないことにするよ……」 「しばらくはその方が良いな。まあ、もし二度目があっても、また俺が助けるよ」 「ほんと?」 「ああ。何度でも」  この頃のルーカスにとって、オルガは年上の優しい友人で、頼りになる兄のような存在だった。実際の兄ファオスとは同じ家に住んでいてもほとんど顔を合わせることも、親しく話すことも少ない。ファオスと同じように忙しい毎日を過ごしているはずなのに空いた時間があれば顔を見せてくれるオルガに、ルーカスが懐くのも当然と言えた。  湖での事件後も、オルガは空き時間にはよく顔を見せてくれた。ルーカスの勉強を見てくれたり、一緒に体を動かしてくれたりと甲斐甲斐しく面倒を見てもらったと思う。  とはいえ、ルーカスも公爵家の人間としてオルガと遊んでばかりはいられない。幼い頃から、それなりの社交術を身に着ける必要があった。その前段階として、同年代の貴族の子供たちとのお茶会が開かれるようになっていた。  少し人見知りの気があるルーカスはそれが億劫で、予定が合えばいつもオルガを同席させていた。 「だから僕は使用人に言ってやったんだ。お前みたいな者は必要ないって」 「それでどうなさったの?」 「それで終わりさ。アイツはクビ。新しい使用人がすぐにつけられた」  今日の相手は伯爵家の嫡男と公爵家の御令嬢で、嫡男の方はまだ5歳になったばかりだというのに自分が貴族だという自覚が強いのか、普段の口調も振る舞いも尊大だった。逆に言えば、貴族として適切な振る舞いが身に付いているということだ。ルーカスの兄ファオスほどではないが、その年の子供としては教養にも長けている方だろう。 「新しい使用人はちゃんとした方なの?」 「当然だろ。前の奴とは違う」 「それは良かったですね」  話を聞く限り、平民の子供に対して暴力を奮ったようで、それを咎められたからクビにしたようだ。子供の些細な喧嘩、と言われればそれまでだが、平民を下に見ている節があった。  サンルームは個室ではあるが、それぞれが連れてきた使用人が控えている。個室であるからと言っても、使用人には平民もいる。そんな場でする話ではないなと、ルーカスは思う。  階級意識がきちんと根付いているのは悪いことではないが、そこで芽生えてしまった選民意識を隠しもできずに露呈させてしまうのは子供なら仕方ないのかもしれなかった。 「そういえば、オルガはもうすぐ騎士団の訓練兵になるんだろう?」 「はい」  嫡男が、ルーカスの隣にいるオルガへ話しかける。オルガは失礼にならない程度に言葉少なく頷いた。 「騎士団と言えば、オルガのお爺様も騎士団長だったんだろう?じゃあもう剣の鍛錬もしているの?」 「ええ。木剣ですが」 「へえ、すごいな。僕は剣なんか持ったこともないよ」 「オルガは強いんだ」  ルーカスが思わず口を挟んだ。剣なんか、という言葉に、貴族特有の嘲りを感じたからだ。  オルガの家は代々騎士を輩出しており、王様に認められるほどの功績を残した人物が何人もいる。父親は剣術や武術が得意でなかったために士官となっているが、叔父は王直属の近衛騎士団員として立派に勤めていた。  この頃、特に上級貴族の界隈では、武力で民を守る騎士団や兵団のことを野蛮だとこき下ろすのが流行っていた。すでに戦の時代は終わり、これからは産業や貿易で国を支えていかなければならないという風潮が広まっていたからだ。王に近い貴族たちが、そういう者たちであったからだろう。 「この前だって、」 「ルーカス、いいんだ。大げさだよ」  言い募ろうとしたルーカスの言葉を、他でもないオルガが遮る。テーブルの下で分からないように手を握られ、ルーカスは口を引き結んだ。  話しかけた話題が気になった嫡男が促しても、オルガは微笑んで首を横に振るだけだ。話すつもりはない、と言外に告げている。 「何だい?話してみなよ」 「大したことじゃないです。私はまだ訓練兵ですらないので」 「ふぅん。……まぁ、興味もないけどね」  面白くなさそうに鼻を鳴らす嫡男に、オルガはただうっすらとした笑みを浮かべるだけだった。  ルーカスにはわかる。オルガは謙虚にへりくだっているように見えて、内心を悟らせないよう表に出さないことに決めたのだ。それこそが貴族のやり方で、振る舞いでもある。  6歳のルーカスにできないことが、11歳のオルガにはできる。大した運動もできない、しない貴族の子供たちとは明らかに違った体つきも、堂々と伸びた背筋もルーカスの憧れになるには十分だった。 「ねえオルガ、どうしてさっきは止めたの。あまり喋らないし、おかげで面白くない話をずっと聞かされる羽目になった」  皆が帰った後、ルーカスはケーキの残りをつつきながら聞いた。頭では分かっていても、やはりオルガを下に見られるのは我慢ならない。 「俺は男爵家の人間で、爵位が上の方々には自分から話しかけることができないんだよ」 「……それは、知ってるけどぉ。でもオルガは僕の兄弟みたいなものじゃないか」 「ルーカス」 「僕はオルガのことを兄上みたいだと思ってるよ。いつも頼りになるし、助けてくれる。色々教えてもくれる」  オルガはルーカスの座る椅子の側に跪くと、ルーカスの手をそっと取った。大きな手に包まれて、ルーカスの手もじんわりと温かくなる。 「ありがとう、ルーカス。嬉しいよとても」  蕩けるような笑みは、さっき伯爵家の嫡男に見せたものとは雲泥の差だった。彫りが深く意志の強そうな切れ長の目がやわらかく解けて細められ、薄い唇が緩む。それだけで、オルガの印象はガラリと変わる。けれどそれが向けられるのはルーカスだけだった。 「ルーカスは優しいね。けれど、貴族がみんなそうではないというのは分かるだろう?」 「う……ん」 「貴族として暮らすなら、社交は必要だ。でも心を開いて親しくなる必要はない。身分が下の俺を受け入れてくれるルーカスを、蔑むようなことを言う人間もいるだろう」  今日の伯爵家の嫡男だって、男爵家のオルガを下に見ていた。蔑むとは言わないまでも、騎士団の訓練兵になることを大したことじゃないと言わんばかりの様子だった。  ルーカスとオルガが仲良くしていれば、分不相応だとか、貴族としての自覚が足りないとか言い出すかもしれない。ルーカスはそう思って、想像だけで嫌な気持ちが込み上げる。 「そんな奴は……」 「そうだ。そんな奴に心を開く必要はない。上辺だけを撫でて、それなりに付き合っていけばいいんだよ。彼らの言葉の有益な部分だけを拾って、心を動かされる必要はない」  わかる?と聞かれて、ルーカスは頷いた。オルガがそう言うなら、そうするのが正解だ。幼い頃は、本気でそう思っていた。

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