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第8話
皇太子は話をはじめた。
「皇帝が人ならざるものだと感じたのは、2年前のことです」
☆☆☆
2年ほど前、私は先帝の弟でもあり、今の帝の弟でもある皇弟と手を組みました。それは、現政権を打倒し、皇弟である叔父を即位させるためです。
私は実の息子であるため、父が今どこで何をしているのか、調べようと思えば簡単にできます。もちろん、皇弟である叔父も調べることは可能でしたが、父は自分の弟が王座を狙っていることなどずっと前から知っていたので警戒していたのです。警戒していることを知っていた叔父は、私に調査を一任しました。
そして、調査結果の末、後宮で妃と共に過ごしている時間程度しか隙がないことに気が付きました。
後宮に入ることが許されているのは、皇帝の実子のみと限定されているので、私だけになります。
「私が殺します」
私は叔父にそう言いました。しかし、優しい叔父はこう言ったのです。
「かわいい甥の手を血で染めさせることはできない。やるときは私がやる。もし私が死ねば、そのときは頼むよ」
私は叔父が大好きでした。だから、叔父が必ずやりとげてくれると思っていたのです。
だからこそ、時間をかけて綿密に計画を立てていました。
そんなときに、私は流行り病にかかり倒れてしまいます。叔父が仕事の合間を縫って看病しに来てくれていました。その時機と、父が見舞いに来た時機が重なった時がありました。
そのときです。叔父は、私に目で合図をしました。そして、私の顔に布団をかぶせたのです。
剣が鞘から抜ける音がしました。
しかし、剣と剣がぶつかる音は聞こえません。代わりに聞こえたのは、叔父のうめき声でした。
心臓の鼓動が激しく、息も苦しかったのを覚えています。
ゆっくり布団を顔から下げてみたのは、上半身が跡形もなく消え、下半身だけ立っている叔父の姿でした。
目の前にいた父は、人の姿ではありませんでした。あれは──。
☆☆☆
「あれは、化け物です」
あまりにも話がうまいので、明紅はひとり鳥肌を立てていた。
噺家になるか、なんて言いそうになったが、また怒られそうな気がしたのでその言葉は喉の奥で閉じ込める。
「一つ聞きたいのだけど、祈祷の際に言っていた伯父は先帝で、裴弦の父親にとってみれば兄で、今の話に出てきた叔父は裴弦の父親からしてみれば弟ってわけだね?」
「はい、そうです。間違いありません」
小さく何度も頷いて頭の中を整理した。
皇帝は人間ではないと仮定して、叔父と伯父を殺したということになる。だからこそ、この皇太子の実父でもある皇帝への恨みは強い。
人ならざるものであるのであれば、ただの人間を差し向けるのは自殺行為である。
だからこそ、この皇太子は慎重になるしかなかったのだろう。
2年前までは子供だからと思いとどまり、そして実行に移せば実父の正体は化け物だった──、と。
どうすればいいのか悩むのも当然だ。時間はかかる。
「では、なぜこの場所が分かった?」
「女官たちの噂です。女官や宦官の中には、逢瀬をしているものもいる。このあたりは格好の場所なんですよ」
「そうか。分かった」
なにか違和感がある。嘘をついているのは明らかだった。
今まで自信がある様子で話をしていたのにも関わらず、視線がゆらゆらと揺らいでいる。呼吸も浅い。
今詰めれば答えを変えるだろうと確信していたが、この場所をどこで知ったかなど、さほど問題ではない。
「あの……ところで、やってもらえるのでしょうか」
「ああ、任せてほしい。でも、少し調査したい」
「あ、でも、今部下の人が迷子になっているんですよね。そっちを片付けてからで構いませんよ」
「ありがとう。1週間後にまた会おう」
「はい」
姿を一度消してからその場から立ち去った。
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