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第7話

 明紅は座ったまま青年に問いかけた。 「君は祈祷した皇太子で間違いないかな」 「はい。裴弦といいます」 「裴弦、いや……ここでは皇太子殿下と呼ぶべきだね。君はなぜ皇帝である実父を今殺したいんだ? 今の皇帝が即位したのは7年前と聞いている。本当に暗殺されたのだとしたら、なぜ今なんだ?」  ずっと気になっていたことを口にする。すると、皇太子は苦虫を噛みつぶしたような表情をした。  なぜだと感じたとき、ふとあることに気が付く。  心を読めない。  神通力を持つ者たちは、心を読むことは容易くできる。  しかし、今神像のそばにいて加護を受けやすいところにいるというのに、彼の心を読むことができないのだ。  全く意味が分からない。こんなことは滅多にない。  今まで読めないものは何回か会ったことがあるが、それは天界のかなり上位の神だった。たかが人間の心も読むことができないのは異常だった。  明紅の動揺など知らない皇太子は、渋々口を開いた。 「あの頃は、まだ子供過ぎたからです。何も知らない、ただの子供でした。でも今は……」 「今は、なんだ?」 「今は誰になにを頼むべきか、よく分かっています」 「その様子だと、私たち以外にも頼んでいる人がいるのかな」 「……はい」  なにか大きなことをしようとしている。しかし、この皇太子相手では神通力すべての能力が使えない。  未来も見えない、心も読めない。  これでは会話をして嘘をついているかついていないか、その程度しか分からない。 「では、天狐さまではなく、その人物に殺害も依頼すればいい」 「それはできません」 「なぜ?」 「……皇帝は人間ではありません」  その答えに思わず「は?」と言ってしまった。 「そうなるとその子供であるお前も人間ではないことになるぞ?」  ほとんどなにも考えることなく口にした言葉に、皇太子は白い目を向けてきた。 「あなた真面目に仕事してるんですか」 「真面目に仕事はしている。でも、本当ならば皇太子殿下も人間ではないということになるじゃないか」 「私は人間です」 「それは証明できるのかな? だって、父親である皇帝は人間ではないのだろう?」  そういうと、皇太子は口を一つに固く結んだ。  証明できない。  それもそうだ。自分が人間であるのか、自分が妖怪であるのか。混血が進む今、それを明確に答えられる人間など少ないだろう。 「では、あなたから見て私は人間ですか」  そう言われても、力が使えない相手に対してなんと答えればいいのかなど分からない。  心や未来を読み取ろうとしたときと同じように、なにかに阻まれているような感覚に陥るのだ。 「皇太子殿下、あなたは少し特殊だ。人間か妖の類なのかは分からない。普通、見れば分かるのだけれど」 「じゃあ、私は……人間ではないということですか」 「人間であるかどうかも分からないし、妖や鬼の類とも分からない。判断ができない。読めないんだ」  そう言い切ると、皇太子は寂しそうな顔をした。 「皇太子殿下。それほど血が重要ですか」 「……重要ですよ。だって、あいつと同じ血が流れていると思うと……」 「皇太子殿下。あなたは同じ血が流れているそいつを殺そうとしている。同じ血が流れている父親が消えるのに、なにを悩んでいるんだ」  まさか怒られるとでも思っていなかったのだろう。皇太子は目を丸くした。 「種族がどうとか、人間だとかよりも、あなたにとって重要なことなのは皇帝と同じ血が流れているということだろう。同じ血が流れていたとしても、裴弦は裴弦あなたしかいない。例え鬼だろうが妖だろうが、なんだろうが……この世界に生きているからには皆等しく生き物だ」  口を開けたまま、皇太子は固まる。  さすがに説教じみたことをしてしまっただろうか。  じじいの説教なんて今時の若い者たちからすれば鬱陶しいだろう。見た目は若くても、1400年も生きている明紅はどうみてもこの皇太子からすれば「じじい」である。  そして、皇太子は泣きそうな顔をしてうつむいた。  あ、やばい。これはかなりやばい。そう思って慌てて「ごめん!」と謝る。 「説教するつもりはなかったんだ」 「いや。すごく、感謝しています。背中を叩いてもらった気がする」 「……そうか」  ほっと安堵していると、皇太子は顔をあげた。 「話を戻しましょう」 「ああ」  そういえば、と明紅は自分が余計なことを口にしたので話がそれたんだと思い出す。しかし、この皇太子の胸のつかえが取れたのであれば、それは良いことだった。

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