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第19話
明然の家がどこにあるかを知る由もない明紅は、ひとまず月沈国にある天狐さまの廟がある場所へとやってきた。
「コツをつかんだか?」
「いいえ」
明然は申し訳なさそうな顔をする。しかし、一度も成功したことがないのだから、コツを掴めるわけもない。
「まあいいか。とりあえず皇族を一人で歩かせるわけにはいかない。宮廷はどこにある?」
「こっちです」
二人で歩きながら、宮廷のほうへと向かった。
町中を歩いていたが、町の人たちはこの少年を見てもなにも驚かない。
皇族ではあるが、表に立つことはないのだろう。
そして、それは服装を見ていればわかる。それなりにいい素材を使っているよだが、高貴な身分にしては安物である。この少年はなにか問題を抱えているような気がした。
宮廷へとやってくると、明然はなぜか立ち止まった。
「この先だろう?」
「いいえ。私は宮廷には出入りすることが許されていません」
「なぜ?」
「……父の愛人の子供だからです」
「そうか。じゃあ、家まで送るよ」
明然が歩く後ろをついていくと、宮廷の外にある一つの屋敷にたどり着いた。
「ここです。明紅さま、ありがとうございました」
頭を下げた明然に、明紅は「いい」と言う。
そして頭に手を置いて、ぽんぽんと撫でた。
「なにかあったら念言術を使うといい」
「はい。でも、できるかな」
「できるようになるまで練習しなさい」
「はい」
にこりと笑った明然に、明紅は頷いた。
そして、その場を離れ、明然は修行していた場所へと戻ったのだった。
それからというもの、明紅は誠実に修練に取り組み、山にこもって10年以上が経過していた。
明然とはすぐ念言術で連絡を取れるようになり、ほとんど毎日話しかけられていた。暇だからというが、あまりにも暇すぎるのではないかと思うほどだった。
そんなとき、明然から頼みごとをされた。
それは明然が22歳を迎えた年であり、明紅が山にこもり始めて14年が経過したときのことだった。
そのときには、明然は時々明紅の山に来るようになっていた。ほとんど修行をせずに神通力を使いこなせるようになっていたのだ。
修行もせずにほとんど使いこなせるというのは異例だった。しかし、絶対にありえないわけではないのだ。明紅もそうだったから──。
「兄さん、今度宮廷で働くことになりました」
「どんな仕事だ?」
「……なんか、雑務全般です。解決できない案件を全部引き受ける部署があって……まあ、ただ厄介ごとを適当な理由をつけて解決させてしまうっていうような部署なんですけどね」
そう言いながら、明然は茶をすする。
この頃の明然ははじめて会ったときよりもずっと大人になり、甘い顔立ちで女子から人気の出そうな見た目をしていた。そのせいで言い寄られて困っているようだが、結婚に困ることはないだろう。
しかし、22歳になっても明然は結婚するような相手がいるということも聞いたこともなく、それどころか浮ついた話も一切ない。むしろ心配になるほどだ。
「手伝ってやろうか」
「本当に?」
「そろそろ私も下界に降りないと」
「兄さんが手伝ってくれるなら!」
嬉しそうに笑った明然に、明紅は笑みを浮かべた。
そのとき、明紅は少し頭を貸してやるだけのつもりだった。まさか過去と今が繋がることになるなど、一つも知る由もない。
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