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第20話
明紅は久しぶりに自宅へと帰ってきていた。
清陽には報告していたため、すぐに清陽のもとへ向かう。執務室にいるだろうと思って執務室に行くと、そこはからっぽだった。
「誰もいないのか」
居室にいるのだろうか。そう思って振り返った。
その瞬間、目の前に憤怒を顔全体に表している真っ赤な鬼の顔がすぐそこに現れた。心臓が飛び跳ねる。
「うわあ!?」
後ずさりをしたときに足元を崩し、その場に崩れ落ちる。
「ぷっ」
その醜態に鬼は笑った。よくよく見てみれば、鬼の面を被っているだけだ。
「あははっ、ははっ!」
笑い声を聞いて、明紅は唇を噛んで下から睨みつけた。
「明櫻!」
「兄さん、ごめん。いや、驚かそうとしただけなのに、こんな驚くとは思わなかった」
そう言って手を差し出される。明紅はその手を掴んで立ち上がり「まったく」とため息をついた。
明櫻はお面を外し、明紅に笑いかける。
「おかえり、兄さん」
「ああ。ただいま」
執務室を出て、明紅は「じいちゃん知らないか?」と聞いた。
「ん、こっち。みんな待ってるよ」
「?」
その言葉にいまいち理解できていなかったのだが、行った部屋を見て明紅は嬉しさがこみあげてきた。清陽、春蕾、朱亮がそろっていた。
「みんな、ただいま」
「おかえりなさい」
「おかえり」
予定より長引いた修行に戻ってきた紅陽を皆笑顔で出迎える。
朱亮は嬉しさのあまり尻尾を隠し切れずに出して、左右に勢いよく振っていた。そんな朱亮に明紅は微笑みかけて頭をなでる。
「この前も来てたのに」
「ここに帰ってくるのとあっちに行くのとでは話が違います」
「そうか?」
「はい!」
犬の妖怪だが、やはり犬である。
明紅は後でたくさん構ってやろうと思ったのだった。
その日は皆で食事をし、明紅は久しぶりに過ごす賑やかな食卓を楽しんでいた。
食事を終え、明紅はひとり部屋で酒を持って晩酌をしていた。
酒を飲んでいると『もしもし』と明然から念言術がかかってきた。
目を閉じ、意識を集中させて声をかける。
『なんだ?』
『今日戻ったんだよね』
『そう』
『明日会いたい』
その純粋な言葉に思わずふっと笑みをこぼした。
『いいけど、どこで?』
『んー、兄さんを僕の家に招待する』
『迎えに来ることができたら行ってもいい』
『分かった』
明然はまだ神通力を使った移動は苦手だ。だからこそ、こうして難題を与える。
しかし、いつも明然は容易く難題を乗り越える。今まで苦手だとか、嫌いだとか言っていたのがうそのように。
『また明日ね』
明然の言葉に同じ言葉を明紅は返した。
そして目を開けると、気配もなく目の前に明櫻が座っていた。
また心臓が飛び跳ねたが、今度は平然を装った。
「誰?」
「誰……弟みたいなかわいいやつ」
「弟は僕だけだよね?」と明櫻が言う。
出会ったころの明櫻はこんなではなかった。もっと大人びていて、ちょっと悪っぽいような雰囲気を持っていた男だったというのに。
なぜか、今では少し面倒くさい。
「弟はお前だけだよ。今連絡をしていたのは弟“みたいな”やつ」
「それでも嫌なんだけど。ていうか、ただの弟じゃないでしょう」
「なんで?」
「楽しそうだった」
「そうか?」
「そう」
明然と話すのは楽しい。それはそうだ。
明然は兄のように慕ってくれているし、なによりも弟のように可愛らしいのだから。
しかし、それが気に障るのだろう。明櫻は不満そうな顔をしていた。
「兄さんとお酒飲みたかったのに、気分じゃなくなった」と言って席を立つ。
「そうか? 私は今、たった一人の実の弟と酒を飲みかわしたい気分だったんだけれど」
そう言って酒を杯に注ぎ、一人で酒をあおると、明櫻は唇を尖らせて勢いよくその席へと座り直したのだった。
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