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「あのさ~、先輩」
「あ? なんだよ」
「俺とえっちな事してみませんか?」
あまりにも衝撃的な言葉に、何の気なしに飲んでいた炭酸飲料を盛大に吹き出す。
次いで咳き込んで、涙目になりながら噎せていると、いつの間にか背中を擦られている。
「大丈夫ですか、先輩。大惨事ですけど」
「うっ、ゲホッ、だ、れの、せいだと思っ」
「何言ってんのか全然分かんないです」
青空の下、屋上でペットボトルを片手に息も絶え絶えになりつつ、諸悪の根源といえば何事も無かったかのように平然としている。
吐き出された飲料で床が斑に濡れ、持っていた容器も傾いて殆ど零れており、先程までの平穏で健やかな一時が嘘であったかのような大失態であった。
「落ち着きました? もう、何やってんすか先輩。ドジっ子なんだから」
「ふ、ざけんなっ……、この大馬鹿野郎!!」
「あ、イテ。ちょっとまだそれ入ってるっしょ。何か冷たいんですけど」
「うるせえよ! どういうつもりだ!」
咄嗟にペットボトルで頭を叩けば、痛がる様子もないのに非難だけは一丁前にしてくる。
金網に凭れながら大人しくゲームをしていたかと思えば、何の脈絡もなく告げられた。
趣味の悪い悪戯を不意打ちで浴びせられ、制服も濡れている事に気が付いてげんなりしつつ、仕掛けた本人はさぞや愉快であった事だろう。
「むせる程嬉しかったか~。光栄です」
「お前のそのプラス思考に終わりはねえのか……!?」
「そんなに照れないでくださいよ」
「照れてねえんだよボケ! 怒ってんだろ! こんなにも!」
拳を握り、全身全霊で不満を訴えるも、まともに話を聞いているのかさえ怪しい。
突拍子もない事をするくらいなのだから、普段から何を考えているのか全く分からない。
気が付けば隣に居て、初めは鬱陶しくて追い払っていたが、あんまりにも毎日続くのでいつしか根負けして、今やどうでも良くなってしまった。
時間の経過と共に、少しずつ心と身体も落ち着いて、俺は一体何を言われたんだと忌々しい言葉を冷静に思い出そうとする。
「で、どうです? いつにします?」
「お前な……、俺がすんなり許すとでも思ってんのか?」
「うん」
「うん、じゃねえ!」
「あ~、ちょっと。暴力反対。見るからに不良学生なのに、そんな事していいんすか? 問題になりますよ」
「お前が大人しくしてればこうなってねえんだよ!」
「人のせいにするのは良くないと思いま~す」
「ああ、クソ! ホントにお前ムカつくよな!」
拳を振るえば今度は避けられ、涼しい顔で飄々としている。
生意気にも程がある後輩は、間近で顔を覗き込みながら、いちいち反応を楽しんでいる。
後退して距離を取り、可愛げの無い青年を見つめ、疲労感から自然と溜息が零れ落ちる。
日頃から頭を悩ませている言動の数々は、どうやら自分にだけ行われているらしい。
懐かれている、と何処かで誰かに言われた気もするが、これのどこがと反論したくなる。
「可愛い後輩に何てこと言うんですか」
「可愛い? そんな奴どこにいるんだよ」
「ここに。もっと近くで見ていいですよ。先輩なら特別に無料です」
「ああ、頭イテェ」
額に手を添え、まともな会話すら成り立たない事にがっくりと肩を落とし、何もかもが面倒臭くなってくる。
それが良くないとは自分でも分かっているのだが、言ったところでまず聞かない。
堂々と押し通してくる後輩を前に、抗う事にも次第に疲れてくるものなのだ。
「いいじゃん、人生何事も挑戦って事で」
「いい感じにまとめようとすんじゃねえよ、バカ。その手には乗らねえぞ」
親指を立て、凜々しい表情で後押しをしてくるが、そもそも前向きに検討したくなるような内容ではない。
だってコイツ、なに言ったっけ……?
俺とえっちな事してみませんか? するわけねえだろ! 真夏の怪談か!
恐怖体験でしかねえだろ。
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