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第27話
数日後、僕はまた仕事で坂下教授の部屋に嫌々来ていた。教授は冷ややかに見つめる僕から視線をそらし、へらへら笑っていた。
「秋川さんが押しに弱いとか、ビッチだとか、嘘ばっかり僕に吹聴しましたね」
僕が冷たい声で抗議すると、あらぬ方を向いたまま教授が言った。
「だって、お前が稔に一目惚れするのはありとして、まさか稔もお前に一目惚れするとは思わなかったから、なんか面白くなくてさあ。ちょっと嫌がらせしたかったんだよ」
稔さんが僕に一目惚れ、のくだりで緩みそうになった顔を引き締めて、僕は口を尖らせた。
「ったく、あの日も実際は面白がってたでしょう。木原さんと二人きりになったと聞いて、僕がオロオロするの見て。もし、あれが原因で別れたら、あわよくば自分が、とか思ってたんでしょう?」
「当たり前じゃんか。稔と付き合うなんて僥倖、お前には勿体無いんだよ」
恩師とは思えない、冗談とも本気とも分からないセリフを、恥ずかしげもなく口にする教授に、僕はニンマリ笑って答えた。
「ホントにそうだと思います。じゃ、今日はこれで失礼します。これからデートなんで。稔さんから誘われたんです」
〈了〉
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