1 / 7

第1話

 『第1話 ~prologue~』 ☆ 竜神は、サイとガイの父である魔王ディルとの「魔界と神界の戦争」で、唯一彼と互角に戦える神聖力と戦闘力を兼ね備えた、神界最強の戦士であった。元々二人はそれぞれの世界で並ぶ者のいない絶対的な力を持ち、お互いを唯一無二のライバルとして認め合っていた。しかし、周りの幹部や勢力たちの争いが激化し、ついに避けることのできない「魔界と神界の戦争」へと突入してしまう。お互いが望まぬ戦いの末、勝利を収めたのはディルだった。 戦いに敗れ、神界を追われた竜神を、ディルは人目を忍んで人間界へと逃がした。 人間界で暮らし始めた竜神は、やがて一人の人間女性と出会い結婚。翌年には奏太が生まれた。奏太は神族の父と人間の母との間に生まれた子であったが、奏太本人はその事実を知らない。 奏太の髪は母親譲りの綺麗な黒髪。そしてその瞳は、深く澄んだグレーがかってみえる神秘的な色をしている。それは、かつて神界最強と謳われた父親譲りの瞳だった。 奏太が5歳の誕生日を迎えてすぐに母親が病で亡くなり、葬儀の場にディルが幼い凱(ガイ)を連れて現れた。 ☆ 『竜神、久しぶりだな』 『ああ、ディルお前も。久しぶりの割には全然変わってないな』 差し出された手を強く握り合う二人。ディルは真剣な眼差しで切り出した。 『率直に言おう、竜神。お前の力が必要だ。余の右腕となり、共に世界の平穏を支えてくれぬか』 『感謝する、ディル。だが……申し訳ない。私はもう神界にも魔界にも行けない。妻も亡くなり、幼い奏太を一人にはできないんだ』 竜神は楽しそうに遊ぶ奏太と凱を見つめながら首を振った。 『実は……私にはもう神族としての神聖力はない。妻と生きていくと決めた時、神族としてではなく人間として生きる道を選んだ。すべての神聖力は、奏太の中に封印したのだ』 『神聖力がないだと!? どういうことだ!』 『今の私には人間としての寿命しかない。さらに言えば、あの戦いの傷が私の身体を蝕んでいる。……そう長くは生きられない』 愕然とするディルに、竜神は穏やかに微笑みながら言った。 『ディル、私を無二の親友と思ってくれているなら頼みがある。奏太には、自分に神族の血が流れていることも、力の封印のことも話していない。私が逝った後、どうか奏太を頼みたい』 『頼むなどと言うな! 無二の親友の息子だ、我が子同様に大切に育てよう』 『ありがとう。……だが、奏太の中に眠る神聖力がいつ開花するかは分からない。それまでは人間界で普通に暮らせるようにしてやってほしいんだ』 『承知した。彼の中の力が目覚めるまでは人間界で見守り、目覚めた後も奏太自身の意志を尊重しよう』 ディルは竜神の胸に拳を当て、固い約束を交わしたのだった——。 『ありがとうディル。これで安心して残りの余生を奏太と楽しく幸せに過ごせるよ』 竜神は、自分の胸に当てられているディルの拳を自分の手で強く握りしめていた。 『いつの間にか、息子同士仲良くなっているな』 ディルが言いながら見つめる先を竜神も見つめ、楽しく遊んでいる息子たちを優しい眼差しで見守っていた。 Iwalk with you 『あのね、僕ね、お兄ちゃんのお嫁さんになる』 『ああ。その時が来たら迎えに行くよ』 ★ (父さんが亡くなった。母さんも僕が5才のときに亡くなり、喫茶店を経営していた父が僕を男手一つで育ててくれた。その父さんもいなくなり、僕一人になってしまっ……た。 両親の親、僕の祖父母に当たる人もすでに他界している。つまり、僕は天涯孤独の身だ。 そんな時、父の喫茶店でお手伝いをしていた凱さんがこの店の権利を含めたすべてを買い取りお店を引き継いでくれた。そして、僕のことも……) 「凱さん、どうして僕の面倒を見てくれるの?面倒を見る理由なんて、何にもないのに……なぜ?」 奏太は、自分が世話になっていたオーナーである父の息子というだけで親族でも何でもないのに凱が面倒を見てくれる理由が解らなく、不安が過っていた。 「理由?理由なんてないよ。ただ、僕が君の面倒を見たいと思ったから。それじゃ、だめかい?」 凱は、優しい表情で奏太に言った。 「でも……」 奏太が俯き加減に呟くと、凱は奏太の頭をわさわさと撫でまくりながら言った。 「そんなに考えすぎなくていいんだよ!素直に、お願いしますと言えばいいんだよ!」 凱は笑いながら、奏太の頭を更にくしゃくしゃに撫でまくりながら言った。 「いっ、痛いよ。凱さん、痛いってばあ。わかったよ、わかったってばぁ」 奏太は、自分の頭を楽しそうに撫でまくっている凱の手を払いのけながら言った。 「わかったって?」 凱は、奏太の手を掴み優しい表情で奏太の目を見て言った。 「お願いします」 奏太も凱の顔を見て、改まった感じで言った。 「よし、お願いされたからには任せておけ!これからは、私に何でも言うんだぞ。相談でもなんでも、困ったときもだぞ」 凱が嬉しそうに奏太に話していると、奏太が言葉を遮って聞いてきた。 「あのぉ……」 「なんだ?何でも言ってごらん」 凱は奏太の言葉を嬉しそうに待っていた。 「高校はこのまま行ってもいいの?」 奏太は、戸惑いながら凱に向かって言った。 「もちろんだ。そうだ!奏太は、大学進学希望していたな。大学ももちろん、行っていいんだからな」 凱は奏太の両肩を掴み、向き合う格好で言った。 「えっ!いいの!ありがとう‼」 奏太は嬉しそうな笑顔で、凱に向かって言った。 ★ 「ただいま」 奏太が、高校から帰ると辺りはコーヒーのいい香りが漂っている。 「おかえり」 凱は手際よくコーヒーを淹れている。このお店は奏太の父竜神が経営していたころからネルドリップが主で、凱の淹れるコーヒーは竜神から受け継いだ淹れ方で彼に劣らずその豆本来の香りや味が抽出されておいしいとコーヒー通にも評判である。そして、凱の容姿のせいか女性客の比率がとても多い。 (今日も、凱さん目当ての女性が多いなぁ。仕方ないかぁ、あの容姿だもんなぁ) 奏太は納得してうなずき、凱を見ながら思っていた。 凱は、大学に入ったばかりの時に、奏太の父の経営していたこの喫茶店にアルバイトできていた。そして、そのまま卒業してからもここで働いていた。奏太の父も凱に劣らずの素敵な容姿をしていたので、その頃からこの喫茶店には女性客が途切れなかった。奏太の父が亡くなり、凱が店主となった今も相変わらず繁盛している。 凱は大学を卒業してまだ3年だが、年齢より落ち着いた雰囲気を持っている。肌も色白だがひ弱に見えない鍛えられた体つき。実際は褐色の肌をしているが、これも魔力で色白にしている。長身で髪はサラサラのライトブラウンで瞳はグリーン(父親譲り)。でも、瞳は魔力でブラウンに見えるようにしている。容姿端麗でこの長身。モデルスカウトは数知れずである。 「ほんとに、彼女いないなんて信じられないよなぁ」 奏太は、独り言のように凱を見ながらつぶやいていた。 「奏太、何ぶつぶつ言ってるんだ。よかったら手伝ってもらえるか?」 凱は、独り言を言っている奏太に微笑みながら言った。 「いいなぁ、奏太君は凱さんにあんな素敵な笑顔で言ってもらえて」 凱目当ての女性客が羨ましそうに奏太に話すのも、いつものことだ。 「そういえば、奏太くん今日学校早かったんだね」 「ほんと、久しぶりに奏太くんに会えてうれしい」 二人の女性が奏太に話しかけていた。 奏太は高校が早く終わった日は、凱のお店のお手伝いをしている。しかし、めったにいないので奏太が店にいるときはラッキーデーと女性客の間では言われている。 奏太も男子にしておくのがもったいないと思えるほど、髪は母親譲りで少し癖のある綺麗な黒髪。大きな黒い瞳は、光の当たり具合によって深く澄んだグレーがかってみえる神秘的な色をしている。可愛いという言葉が何よりも似合う容姿だった。 通っている高校は男子校だがこの容姿なので、高校では告られることも多々あるようだ。でも奏太は全くその気もなく、毎回うまくかわしている。ある日、奏太に告白して断られた先輩に「やっぱり、女の子の方がいいの?」と聞かれたことがある。すると、奏太は「特に考えたことはないです。付き合うとか僕、今は興味ないので」と答え、これでみんなが諦めてくれると思っていたようだが、誰とも付き合っていないことがわかると返って拍車をかけて奏太を落とそうとする輩が多くなったほどである。 (僕が誰にも興味がないわけじゃないよ。どうしてもある人と比べてしまうんだ。あの時のお兄さんと……) 奏太には忘れられない人がいる。奏太が小さいころに一度だけ会ったお兄さん。名前も知らない、とても優しく僕の頭を撫でてくれた健康そうに少し焼けた肌に緑の瞳で笑顔の素敵な人だった。確か、父さんの知り合いの息子さんということまでは記憶にあるが十三年経った今も忘れられないでいる。 (……母の葬儀のときに会ったきりで、その後は全く会っていない。そのお兄さんのことを思い出すと胸の鼓動が早くなる……) ……『あのね、僕、お兄ちゃんのお嫁さんになる』…… 「ふふっ、お兄ちゃんのお嫁さんになる……か。まだお子ちゃまで何もわからないから言えたことだよなぁ。だから、迎えに行くからなんて気を使わせて言わせてしまったんだな」 奏太は、名前も知らない一度きり会っただけの人の言葉を忘れないでいる。 「年齢的には、凱さんくらいになってると思うんだよなぁ」 奏太は、コーヒーを淹れている凱の横顔をカウンターの端から頬杖を突いて見ながら呟いていた。 「お待たせしました。オリジナルブレンドです」 耳に優しく響く、低音の声。容姿だけではなく声も素敵と, 女性客はいつも凱の声を聴き耳立てて聞いている。 (ふふふっ、面白い。みんなの動きがこんなに揃ってるぅ) 凱が話すたびに持っているカップの動きが止まり、耳を傾けている女性客の姿が滑稽に見えて奏太は面白がっていた。 「ん~っ、いい香りだ。手に取るように分かる。それに味もまろやかだ。相変わらず手を抜かず丁寧な仕事をしているな」 コーヒー通の老紳士が、毎日凱のコーヒーを飲みに来ている。 「ありがとうございます。伊藤様に褒めていただくと、淹れがいがあります」 凱と老紳士とのやり取りを頬杖を突いたまま奏太は見ていた。 「奏太、その恰好を女性客が嬉しそうに見ているぞ」 凱が奏太の傍に来て耳打ちするように伝えた。「えっ!」と言うと頬杖を突いている手を解放し、周りを見るとさっきまで凱の声を聴き耳立てて聞いていた女性客が、奏太の方を見て「かわいい~っ♥」と喜んでいた。 「ぼっ、僕、部屋に戻るね」 奏太は恥ずかしそうに足早に部屋に向かった。 ★ 「ガイ、その後どうだ?まだ相手に体の変化は見られないのか?」 「サイ兄さん。もうじきだとは思いますが、変化の切っ掛けになることが奏太にとっては何なのか分からないので。もう少し様子を見させてください」 凱は、魔界の兄と定期的に連絡を取り合っている。 「お前も、魔王ディルの息子であり私の弟でもある。周りも、ガイがこのまま妃がいないのはダメだと言って妃候補を探し始めているぞ」 サイは、魔界での様子を伝えていた。 「すみません。サイ兄さん。もうしばらく時間をください。奏太は私の妃にふさわしい人物です。そして、秘めたる力を持つ者として彼の中に潜在能力としてある力が開花すると信じています」 ガイは、兄に自分の気持ちを正直に伝えた。 「そうか。父上も親友のご子息だから心配はしている。できれば、奏太がガイの妃になればと願っている。しかし……」 サイが言葉を詰まらせた。 「わかっています。奏太の御父上、父上の無二の親友である竜神殿の親族たちのことでしょう」 凱は、サイの言わんとしていることを察して先に答えた。 「そうだ。最近向こうの親族たちの動きが騒がしくなっている。奏太が竜神殿の忘れ形見であることが知れるのも、時間の問題かもしれない。そうなれば、まだ潜在能力が開花していない奏太はただの人間だ。神族に太刀打ちできない。凱、奏太を守れるのはお前しかいない。人間界に竜神殿の親族が奏太を連れ戻しに来ることも十分考えられる。こちらも、すぐに応援に向かうが万が一の時は……」 「私の命に代えても、奏太を守ります!」 サイが言葉をつづけようとしたときに、凱は遮るように力強い口調で言った 「万が一なことが無いように、こちらも相手の動きをしっかり見ていく。だからガイも連絡を常にこちらにくれ。頼んだぞ」 「はいっ、兄上」 凱はサイとの交信を終えた。 (確かに、今の奏太は竜神殿の神聖力を体内に潜在能力として忍ばせていても、それを開花させていない。ただの人間の奏太だ。もし、今竜神殿の親族が襲ってきたら兄上たちがすぐ来てくれたとしても、それまでの間は私一人で奏太を守らなければならない。兄上程の強い魔力は私には無い。それでも、奏太は私が守る……この命に代えても、愛する未来のわが妻になる奏太を……) 凱は強い決意を改めて心に宿した。 ★ 「それは、まことか⁈」 「はい、まだ微かにしか見えないのですが、竜神様と同じ波長のオーラが」 「ということは、その方が竜神様の忘れ形見、ご子息と言うことになるのだな?」 「まだ、確信が。ご子息は人間として長い間生きておられるので。それと」 「なんだ」 「ご子息の回りに強い魔力を感じます。ご子息を守っている感じが……それから、キラル様が申していたこと。あれは、本当のことではないのですか?」 「何を言っておる。竜神様とディルが親友?そんなことがあるか!お前もくだらないことを考えず、このまま見張っておれ!」 「ははあ」

ともだちにシェアしよう!