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第6話
『第6話 迫り来る宿敵と魔王の威光』
第5話で襲来した魔影族(まえいぞく)の刺客・ゼノたちとの激闘から数日。刺客を退けた喫茶『ルナ』には一見穏やかな時間が流れていたが、凱の表情にはうっすらと緊張の色が滲んでいた。
「凱さん……やっぱり、あの時のゼノたちの背後に、もっと大きな存在がいるんですか?」
カウンターで紅茶を淹れ直しながら、奏太が心配そうに尋ねる。
凱は優しく微笑んで奏太の頭を撫でたが、その瞳の奥には深い影があった。
「ああ。ゼノたちが使った毒気と魔法具……あれは魔界でもごく限られた上位貴族しか扱えないものだ。そして、それを裏で引いている男の心当たりが、私にはひとつだけある」
凱が語ろうとしたその時——突如として、店の空間全体が鳴動した。
メリメリと音を立てて空間が亀裂を起こし、漆黒の炎が店内を包み込む。
前回の魔影族の刺客とは比べものにならない、圧殺されるような禍々しい魔気が満ちていく。
「くっ……この凄まじい威圧感は……!」
凱は瞬時に奏太を背中に庇い、極大の魔力障壁を展開する。
亀裂から姿を現したのは、深紅の髪をなびかせ、冷酷な眼差しを向ける一人の男だった。
「ひさしいな、凱。魔王ディルの出来損ないの息子よ」
男の声だけで、店内のガラスが細かく震える。
「……ヴェルザ……! 魔界過激派の頭領自らが、なぜ人間界に……!」
「決まっている。我が姉フェメル、そして我が子マリルを奪ったディル……そしてその血を引く貴様らを根絶やしにするためだ!」
ヴェルザの全身から、渦を巻くような暗黒の魔力が放たれる。
彼はかつて魔界最強と謳われたフェメルの弟であり、その力は姉に次ぐ魔界二番手の圧倒的なものだった。
「神聖力を持つあの小娘……いや、竜神の落とし子の少年か。神魔の融合などという不吉な萌芽、ここで摘み取ってくれる!」
ヴェルザが手を掲げると、店内を破壊し尽くさんとする暗黒の衝撃波が解き放たれた。
「奏太、私から離れないでくれ……っ!」
凱は全力で魔力を高め、奏太の神聖力と共鳴させようと試みる。
しかし、ヴェルザの解き放った魔力はあまりにも巨大で、障壁ごと二人は押し潰されそうになる。
「くっ……ああっ……!」
「凱さん……!!」
二人が歯を喰いしばったその瞬間——。
『——我が息子と、その愛しい妃に手を出そうとは……いい度胸だな、ヴェルザ』
地鳴りのような重厚で絶対的な声が空間に響き渡った。
次の瞬間、ヴェルザの暗黒の衝撃波が一瞬にして散らされ、消滅する。
奏太と凱の前に降臨したのは、漆黒の王衣を纏い、威風堂々とした圧倒的な存在感を放つ男——現魔王・ディルだった。
「父上……!? なぜここに……!」
「ディル様……!」
驚く凱と奏太を背中で感じながら、ディルは静かに、だが逆らいがたい威圧感を込めてヴェルザを見据える。
「ディル……! 自らおでましとは都合がいい! 姉上とマリルの仇、今こそここで果たしてやる!!」
怒りに狂うヴェルザが全魔力を解き放ち、襲いかかる。
だが、ディルは微動だにせず、ただ静かに右手を掲げた。
ドクン——と、ディルの肌に刻まれた太古の刻印が蒼白く輝く。
それは代々受け継がれる継承の力などではなく、かつての世界を統べた『太古の大魔王』と同等の、底知れぬ絶対的な魔力を宿す者だけに現れる正統なる刻印。
「グオッ……!? なんだ……この圧倒的な魔力の質量は……!? 姉上以上の……大魔王と同等の力だと……!?」
ディルが一歩踏み出すだけで、ヴェルザの全魔力が容易く押し返されていく。
「ヴェルザよ。フェメルとマリルの件……言葉で届かぬなら、力で示すほかないようだな。……奏太、凱」
ディルは振り返らず、二人に向かって告げた。
「ここは狭すぎる。この狂王の残党との決着、魔界の裁断場にてつける。二人とも、私について来い。……かつて私と竜神(奏太の父)が望みながらも果たせなかった『真の平和』を、お前たちのその絆で見せてみろ」
「……! はい、父上!」
「ディル様……! 僕も、どこまでもお供します!」
奏太と凱は力強く頷き、お互いの手を固く握りしめた。
ディルが空間を切り裂き、魔界への開かれた扉の先へと足を踏み出す。
宿命の決戦の舞台は、ついに魔界へと移るのだった——。
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