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第5話
『第5話 迫る影と共鳴する絆』
昨夜の激闘と甘やかな誓いから一夜が明け、喫茶『ルナ』にはいつもの穏やかな時間が戻っているように見えた。
カウンターの奥で手際よく珈琲を淹れる凱の横顔を、奏太は愛おしそうに見つめる。
昨日傷ついた凱の左腕には、服の下にまだ綺麗に包帯が巻かれているはずだ。
(僕が……もっと強くなれたら。凱さんを不安にさせないくらい、自分の力をちゃんと扱えるようになれたら……!)
「奏太? どうしたんだい、そんなに私の顔を見つめて」
「あ……っ、いえ! 凱さん、腕の痛みは本当にもう大丈夫ですか?」
「ふふ、大丈夫だよ。君が手当してくれたおかげで、痛みなんてとっくに消えてしまった」
凱は優しく微笑むと、奏太の頭をそっと撫でた。その手つきの優しさに、奏太の胸がキュッと温かくなる。
しかし、その平穏は長くは続かなかった。
昼下がりの営業が終わり、準備中の札を掲げた直後のことだ。
店の周囲の空気が重く澱み、窓の外の街並みが歪んだ。
「……空間結界……!? この重圧は……」
凱の表情が一変する。
店の扉を破ることもなく、影のようにゆらりと店内へ侵入してきたのは、漆黒の外套に身を包んだ二人組の男たちだった。
その瞳は濁った紫色に光り、全身から狂気孕む魔気を放っている。
「見つけたぞ……神界の生き残り、竜神の落とし子を」
「魔王ディルの息子・凱よ。貴様がその異端の存在を匿っていたとはな。神と魔の血が再び交われば、惨劇が繰り返される。……今のうちにその命、断ち切ってくれる!」
「魔界の過激派……!」
凱は瞬時に奏太の前に立ちはだかり、漆黒の魔力を展開する。
「私の前で奏太に危害を加えようなど、身の程を知りなさい。……一歩でも近づけば、灰も残さず消し去ります」
氷のように冷徹な凱の威圧感に、刺客たちは一瞬気圧される。だが、彼らは懐から異形の魔法具を取り出すと、不気味に嘲笑った。
「くくっ……ルシフェリアの筆頭と正面からやり合うつもりはない。この神魔を殺す毒気を受けろ!」
刺客が掲げた魔法具から、どす黒い紫の毒霧が噴き出し、瞬く間に店内に充満していく。
それは生物の生命力を直接苛む、凶悪な魔界の毒気だった。
「くっ……!? 奏太、息を吸ってはいけない!」
凱は速やかに極大の魔力障壁を張り、奏太と自分を包み込んだ。
しかし、その毒気は障壁すらもじわじわと侵食し、凱の腕の傷口に激痛を走らせる。
「ぐっ……!」
「凱さん……!? ダメです、僕を庇って凱さんが傷つくなんて嫌だ!」
奏太は凱の服の裾を強く握りしめた。
恐怖で足が震えていた。けれど、凱の背中を見つめているうちに、胸の奥から温かく強い力が込み上げてくる。
(逃げちゃダメだ。僕は、もう護られるだけの存在じゃない……! 凱さんの『妃』として、大切なこの場所と凱さんを僕が護るんだ!)
ドクン——と、胸の奥で黄金の波動が脈打った。
奏太は凱の手を固く握りしめた。
「奏太……!?」
「凱さん、僕の力を……僕の『神聖力』を使ってください! 凱さんの魔力と、僕の力を合わせれば……!」
見つめ合う二人の瞳が交差する。
奏太の瞳は、純粋な決意と愛に満ちた輝きを放っていた。
凱は目を見張り、そして愛おしそうに静かに微笑んだ。
「……分かった。君の全てを、私に預けておくれ」
凱が奏太の手を強く握り返すと、奇跡が起きた。
奏太の解き放った眩い黄金の『神聖力』と、凱の纏う漆黒の『魔力』が反発し合うことなく、美しく溶け合い、螺旋を描いて高まっていく。
対立するはずの二つの極大な力が、重なり合う波長によって増幅されていくのだ。
「な……なに……!? 神聖力と魔力が……融合しているだと……!? そんなバカな!!」
刺客たちが驚愕の叫びを上げる。
「奏太……私と共に!」
「はい、凱さん……っ!」
二人が放った圧倒的な光の波動が、店内に満ちていた毒気を一瞬で浄化し、刺客たちを飲み込んだ。
「グアアアッ……!!」
閃光が収まった時、結界は散り散りになり、刺客たちはその場に崩れ落ちて気絶していた。
静けさを取り戻した店内で、奏太は肩で息をしながら、重なり合った自分と凱の手を見つめた。
「……できた……。僕たちの力……合わさった……」
「ああ……見事だったよ、奏太。君の強い意志が、私に力をくれた」
凱は愛おしさに耐えかねたように、奏太を胸の中へと強く引き寄せた。
「君はもう、ただ守られる存在ではないな。……私の自慢の、愛しい妃だ」
「凱さん……っ」
首筋に落とされた甘い口づけに、奏太は顔を真っ赤にしながらも、嬉しそうに凱の背中に手を回すのだった。
だが、凱の眼差しは静かに冴え渡っていた。
刺客を送り込んだ黒幕——魔界過激派の真の頭領との決戦が、刻一刻と近づいていることを感じ取りながら。
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