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第22話

 昼休憩に入り、久しぶりに桐江の連絡先を引き出す。電話に出られるか分からないが、出なくても良いと思いながら発信ボタンをタップする。  コール二回目に桐江は電話で出てくれた。 『久しぶり。元気にしてた?』  優しく柔らかい口調が耳に心地よく響く。 「はい。桐江さんも、お元気そうで」 『おやおや、もう名前では呼んでくれないんだね』 「しっ、仕事中ですよ!!」  電話越しにくっくっと笑いを堪える声が聞こえる。 「今日、篠塚さんに辞令が出たんです。もしかして梢さんと関係があるのかと思いまして」 『あぁ、それね。そうだよ。こっちでは結構揉めたんだけどね。でも梢も最後には認めて自主退職した。本当は篠塚にももっと早く辞令が下る予定だったんだけど、やっとか』 「篠塚さん、怒って帰っちゃいました」 『良いんじゃない? 他の社員も迷惑がってたし。会社でセックスなんて以ての外だし、仕事にも貢献しないんじゃいる意味ないでしょ』 「もしかして梢さんと連絡が取れなくなったのも、関係してます?」 『してるんじゃない? 篠塚との関係が大きく辞令に関わってたし。これに懲りて、今後は真面目に働くんだね』  電話をかけるのは緊張したけれど、いざ桐江の声を聞くとリラックス出来た。ご飯を一緒に食べに行った時みたいに。  あの夜の話はどちらからも切り出さず、時間の許す限り他愛ない話で盛り上がった。 「また電話しても良いですか?」 『勿論、待ってるよ。俺も帰ってきて忙しかったけど、少し余裕が出来てきたからまた電話する。じゃあね』  終話をタップし、スマホを胸に抱えた。たった一時間弱の会話でこんなにも満たされる。  やはり桐江の側で仕事がしたいという夢を叶えたくて、雪乃はそれからも仕事に打ち込んだ。  篠塚は数日有給を取ったかと思いきや、その後、辞表を提出したようだ。地方に行けば遊び難いし、なかなか帰って来られないからだろう。  会社側も辞表を即認めたようだ。有給も殆ど使い果たしていた篠塚はそのまま姿を消した。 ♦︎♢♦︎  そして翌年……。 「宇井くん」  課長に呼ばれる。近くのミーティングルームに呼ばれ二人きりになると、一枚の紙を手渡された。 「君に本社への移動の声がかかっている。行く気はあるかい?」 「僕が……良いんですか?」 「本社からの指名なんだ。こんなチャンスは滅多にない。断るのは勿体無いと私は思うがね」 「行きたい……行きたいです!!」  勢いよく立ち上がり、受諾する。  書面を受け取ると、深々とお辞儀をした。  きっと桐江が推薦してくれたのだ。そうに違いない。  終業後、急いで自宅マンションへと帰る。ベランダから、満月を見つけた。 「君が願いを叶えてくれたの?」夜空に向かって話しかける。  昔読んだ雑誌の占いコーナーに『満月は願いを成就してくれる』と書いてあった。信じているわけではなかったが、それを思い出した時だけ雪乃は満月に願いをすることがこれまでにもあった。  今回ほど強く願ったことはなかったから、もしかすると今までのは念が弱かったのかもしれない。  満月を眺めながら桐江に電話をかける。  聞いて欲しい話が山ほどあるのだ。  一晩かけて、語り尽くそう。 〜完〜

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