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第13話

 家に着くと、お姫様抱っこのまま寝室へと連れていかれる。 「セラード、もしかして」 「もしかしてってなんだ?」  そのままベッドに押し倒されるのかと思いきや、ベッドの縁に座らされる。  隣に腰を下ろすセラードを目で追っていると、視線が合い、微笑まれた。  身体が熱を帯びていくのと同時に、腹部の痣もほんのり温かくなっていく。 「なんでもない」 「起きた時、ソリスが隣にいなくて、心臓が止まりそうだった」 「魔法の痕跡と、首の紋章から感じる熱を頼りにあそこまで向かったが、も し、ソリスがあいつに殺されていたらと思うと……」 「セラード。俺は、何があってもセラードより先には死なないって約束する。 それに……」 「それに?」 「寂しがりやのセラードを、一人で残して逝けないよ」 「ソリス……。もう、呪いとか、魔法とかどうでもいい」 「セラード……」 「ソリスとずっと一緒にいたい。棺桶に入るまでずっと」 セラードの震えている手が、頬に触れる。 「キスしていいか?」  返事の代わりに、赤い顔をして近づいてくるセラードの首に腕を回して引き 寄せる。  熱い吐息が唇にかかり、紫色の瞳に至近距離で見つめられる。  唇が、重なった。  首筋でもなく、額でもなく。  百年、遠回りした場所に。  一度離れて、もう一度触れる前に、ソリスは言った。 「セラード、愛してる」  セラードの動きが、止まった。  紫の瞳が、大きく見開かれる。 「……ようやく聞けた」  掠れた声だった。 「俺もだ。ずっと前から愛している」  セラードはもう一度唇を重ねた。  今度は、絶対に離さないと言うように深く口付けられ、ベッドへと押し倒さ れ、覆い被さられる。  見上げると、頬に手を添えられ、その感触を確かめるように、親指で優しく 撫でられる。  紫の瞳が、静かに揺れている。 「綺麗だ」  呟きながらセラードはソリスの額にキスを落とした。  それから、目尻へと唇が下がっていき、左右の頬からゆっくりと鼻先に、そ して顎の先に。  一つひとつのキスは、これまでの想いを込めるように、丁寧で優しかった。 「セラード……」  腰に腕を回しながら、名前を呼ぶと、セラードは喉の奥で小さく笑った。 「積極的だな。ソリスのそういうところも好きだ」  指先がソリスのシャツのボタンにかかる。ひとつ、ひとつ、ボタンを外しな がら、セラードは露わになった鎖骨に唇を寄せた。 「気持ちいい」  ソリスの身体が快楽で震える。腰に回した腕は求めるように、無意識にセラ ードを引き寄せる。 「俺もだ」  セラードの声は驚くほど優しかった。手つきも、慎重で。壊れ物に触れるみ たいにソリスのシャツを脱がせていく。 「俺も、脱がせてくれ」  セラードがそう言うと、ソリスは彼を見つめて微笑み、そのシャツに手をか けた。  ボタンを外すたびに、自分のと同じくらい速い、胸の鼓動が伝わってくる。  シャツを脱がせ終わると、セラードの身体が露わになる。  鍛え上げられた胸板や、割れた腹筋が、やけに色っぽく見える。  温泉で見た時とは違って見えて、恥ずかしさに思わず目を逸らすと、セラー ドはソリスの手を取って、自分の首の紋章に押し当てた。  紋章が温かく、心地よい熱を持っていた。 「ソリス。俺を見ろ」  恥ずかしがりながらも、ゆっくりと顔を戻すと、セラードが唇にキスを落と してくる。  唇は鎖骨へと降りていき、胸元から臍へ、そしてゆっくりと腹部の痣へたど り着いて、優しくキスを落とした。 「んっ……」  甘く、くぐもった声を上げながら、セラードの首筋の紋章を撫でる。  紋章と痣が共鳴して、温かく強い光を放ち、やがて、その光は二人を優しく 包み込んでいく。  光が引くと、セラードの首の紋章が消えていた。 「ソリス。俺とずっと一緒にいてくれ」  肌に触れる唇が、言葉を紡ぐたびに震える。  紋章が消えたセラードの首筋を、愛おしさを込めて優しく撫でると、セラー ドは身体を震わせた。 「セラードと、何があっても一緒にいるって誓うよ」  ソリスが腕をセラードの首の後ろに回すと、セラードは顔を上げてまっすぐ にこちらを見つめてから、身を起こして覆い被さり、腰に腕を回して抱きしめ てきた。  二人の身体が、隙間なく重なる。 「もう一度、キスしていいか?」  ソリスは答えの代わりに、自分から唇を重ねた。  長い口付けの終わりに、名残惜しそうに唇にもう一度キスを落とす。  それから、お返しに、額、瞼、左右の頬へ。顎の先へ。一つずつセラードの 存在を確かめながらキスを落としていく。 「ソリス……」 「ん?」 「これ、すごく照れるな」  耳まで赤くしながら、涙目で見つめ返してくるセラードに柔らかく微笑んで から、首筋に顔を寄せ、紋章があった場所を見つめた。  唇が首筋に触れる。  セラードの体温が心地よい。  唇を離すと、セラードは胸元に顔を埋めて、しばらく動かなかった。  二人の心音が重なるのを確かめるように、じっと耳を澄ませている。 「ソリスとしたいこと、たくさんある」 「また、温泉行こう。今度はちゃんと朝食まで食べて朝風呂に入った後に、牛 乳も飲もう」  優しく髪を梳くように撫でると、セラードは目を細めながら、頬を胸に擦り 寄せてくる。  セラードの頭が動き、唇が乳首に当たると、ソリスは首の後ろに回している 手に力を込めた。 「セラード……そこ」 「嫌か?」 「違う。……気持ちいい」 「なら、もっとだな」  勃ち上がった乳首をセラードの舌で転がされながら、もう片方の先を指先で 弄られる。  熱くてざらりとした舌の感触に、下半身がじんわりと熱を帯び始め、腕に力 が入らなくなっていく。 「セラッ。あっ……んっ」  ソリスの口から甘く、小さな声が漏れた。  乳首を優しく吸われ、時折歯で甘噛みされながら、もう片方を指先で押した りつまんだりして転がされる。  全身が甘く痺れ、脚が無意識に開いていくのも気にならないほど、セラード から与えられる快感に溺れていく。 「セラード……っ、そこ……」 「ここか?」  乳頭の先っぽを舌先で転がしながら、顔を上げたセラードと目が合う。 「ソリス。目とろんとさせて、エッチだ。ソリスの可愛い顔、もっと見たい」  紫色の瞳が、ソリスを見つめている。セラードは唾液で濡れた 乳首を、指先で転がした。  それから、胸元にキスを落としながら、下へと唇を滑らせていく。  肋骨の一本一本をなぞるように舌を這わせ、臍のあたり、脇腹、腰骨へと下 りていく。 「セラード……っ、そんなにされたら……んっ」  唇を落とされた場所が熱い。  ズボンと下着をまとめて脱がされると、今度は脚へ。太ももの内側、膝の 裏、ふくらはぎ、足首、爪先。丁寧に。  ソリスは片腕で顔を覆ったが、セラードは腕にキスを落として、それを優し くほどいていく。 「……ソリスの可愛い顔、見せてくれ」  セラードの指先がソリスの下腹部をゆっくりと滑り、陰茎に触れた。  息が喉の奥で詰まる。 「……っ」  セラードは竿を手のひらで包み込むようにして、ゆっくりと扱き始める。  焦るでもなく、急かすでもなく、ただソリスの反応を一つひとつ確かめるよ うに。 「ソリス」  耳元で名前を呼ばれ、ソリスは肩をびくりと震わせた。セラードの指の腹が 繊細に動く。  竿を刺激する長い指が、優しく、しかし確実にソリスの身体の芯を溶かして いく。 「ソリス。恥ずかしがらないで。俺に全部見せて」  セラードはそう言ってソリスの首筋に唇を寄せた。そこを吸いながらも、一 定のリズムで少しずつ強さを変える手の動きは、止まらなかった。 「あっ、んんっ……セラード」  ソリスの腰が浮く。手の中の変化を、セラードは見逃さなかった。 「ソリス。ここ、ぐちゃぐちゃだな」  セラードは小さく笑い、親指で鈴口をなぞった。ぬるつく液体が指に絡み、 動きが滑らかになる。  ソリスはシーツを握りしめ、爪先を丸めた。 「んっ……」 「ソリスの声、もっと聞きたい」  セラードの指に、少しだけ力がこもる。ソリスの背中が弓なりに反った。 「あ……セラード」 「いい。そのまま」  セラードはソリスの反応を見ながら、扱く手を少しずつ速めていく。同時に もう一方の手でソリスの乳首を転がした。  二つの刺激に、ソリスの呼吸が乱れる。快感が腰の奥から全身に広がってい く。 「セラード、もう……」 「イッてる顔、見せてくれ」  セラードの声は、限りなく優しかった。  その声に、理性が溶かされていく。 「あ……っ、セラード……!」  身体が大きくしなった。鈴口から勢いよく噴き出した精液が、セラードの手 を濡らしていく。  荒い息をつきながら、ソリスはセラードの首にしがみつく。  セラードはソリスの背中を優しく撫で、髪にキスを落とした。 「イッた時のソリスの顔、可愛かった」 「セラードばっかりずるいよ」  ソリスは顔をセラードの胸に埋めた。セラードの心臓が、さっきよりもずっ と速く打っている。 「ソリスと、ひとつになりたい」  セラードはソリスの耳元で囁いた。 「挿れていいか?」  ソリスの身体が、また小さく震えた。  セラードの指がソリスの脚から太ももへと滑り、やがて尻たぶの奥のつぼみ に触れる。ソリスは息を呑み、無意識に脚を閉じかけた。 「怖いか?」  セラードの声は静かだった。ソリスは首を横に振る。 「……全然」  ソリスはそう言うと、枕元の引き出しに手を伸ばし、小さな瓶を取り出し た。蓋を開けると、ほのかに甘い香りが漂う。 「これ、滑りをよくするやつだから、使って」 「分かったけど、なんでこんなもの……」  セラードの目が丸くなる。 「一人でする時に使ってた」  ソリスは顔を赤くして、少しだけ気まずそうに目を逸らす。  つられて赤くなったセラードが、ごくりと生唾を飲み込んだ。 「想像した。もう、限界……」  セラードは瓶を傾けて手のひらに液体を出すと、指先に絡めてから、ソリス の後孔に触れる。 「ひ、ぁ」  セラードの指がゆっくりと円を描く。液体が体温で温まり、少しずつソリス の緊張を溶かしていく。 「挿れるからな」  一本目の指がゆっくりと中に入ってくる。  ソリスの足の爪先がシーツを蹴った。 「んっ……セラード」  セラードはソリスの額にキスをしてから、内部を確かめるように、丁寧に指 をゆっくりと動かした。  ソリスの呼吸が少しずつ深くなっていく。 「痛くないか?」 「……平気」 「無理するなよ。もう一本、挿れる」  ソリスが小さく頷くと、二本目の指が入ってくる。  圧迫感が増し、ソリスの中がセラードの指を締め付けていく。  セラードはソリスの中が馴染むまで、指をゆっくり動かして広げていき、そ の間もずっとソリスの頬や首筋や胸にキスを落とし続けた。 「んんっ……あんっ……あっ」  指がゆっくりと引き抜かれ、また入れられる。  そのたびに、ソリスの腰が少しずつ揺れた。 「三本目、挿れるな」 「……あ」  指が三本に増え、ソリスの中を丁寧にほぐしていくと、柔らかくなった内壁 が優しく指に絡みついてくる。 「ソリス。中、熱いな」  ソリスは恥ずかしくなり、脚を閉じようとする。  でも、セラードは指を止めなかった。 「脚、閉じないで、全部見せてくれ」  耳元で、甘く囁かれる。 「ソリスの全部が知りたい」  返事を待たずに、セラードはソリスの唇を塞いだ。深く、長く、舌を絡め て。片手でソリスの頬を包み込む。角度を変え、何度も何度もキスをした。ソ リスの腕がセラードの背中に回り、抱きしめる手に力が込められる。 「……っ、セラード、もう、挿れて」  セラードはソリスの額にキスを落とし、身体を起こすと、ソリスの脚をゆっ くりと開かせ、その間に身体を収める。  液体を手に取って自分のものに丁寧に塗り込め、ソリスの後孔にも、もう一 度、指で優しく塗り広げる。 「力、抜いて」 「うん」  セラードの先端がソリスの入り口に触れる。ぐっと少しだけ押し当てて、様 子を窺う。  ソリスが息を吐くと、セラードはゆっくりと腰を進めた。 「……ぁ」 「痛いか?」 「平気。もっと、来て」  セラードが慎重に少しずつ中に入れていくと、ソリスの内壁がセラードを迎 え入れるように広がっていく。  半分ほど入ったところで、セラードは一度止まり、ソリスを見つめる。  目が合うと、ソリスは微笑んだ。 「平気だから。全部ちょうだい」  ソリスがセラードの額にキスをすると、セラードは最奥まで、ゆっくりと腰 を沈めていった。  完全に繋がった瞬間、二人同時に息を吐いた。セラードはソリスの上でしば らく動かず、額をソリスの額に寄せた。 「ソリス。やっと、ひとつになれたな」 「うん。嬉しい」  ソリスの目から涙が一筋こぼれた。  セラードはその涙を唇で吸い取り、それからゆっくりと腰を動かし始めた。  最初は浅く、ゆっくりと。次第にソリスの反応を見ながら少しずつ深く奥に 進めていく。  ソリスの脚がセラードの腰に絡み、内側からも締め付ける。 「セラード、セラード」 「ここにいる」  セラードの動きが少しずつ速くなるにつれ、ソリスの甘い声が大きくなる。  セラードが強く抱きしめたまま、体重をかけると、より深く繋がっていく。  二人の息遣いが重なり、汗が混ざり、体温が溶け合う。 「愛してる、ソリス」 「俺も。セラード、愛してる」  お互いを求めるように唇を重ねながら、二人はほとんど同時に果てた。  身体の最奥にセラードが放った熱を感じながら、貪るように何度も唇を重ね る。  しばらく、二人は動けなかった。  セラードはソリスをそのまま腕の中に抱き寄せる。 「大丈夫か?」 「……うん。でも、幸せすぎてちょっと、ぼうっとするかも」  セラードはソリスの髪にキスをした。  ソリスは、セラードの頬に自分の頬を擦り寄せた。 「ソリス」 「ん?」 「幸せだな」  セラードは腕に少しだけ力を込めた。 「うん」  ソリスが顔を上げると、唇にセラードの唇が落とされる。  祝福するように、窓から差し込む陽の光が二人を照らしていた。  本当ならば、今日が呪いの期限の日だった。  朝、目を覚ますと、隣でセラードが寝息を立てていた。  銀色の髪の隙間から、首筋が見える。  そこにはもう、何もない。  赤黒い紋章があった場所は、ただの白い肌に戻っていた。  ソリスは、自分の腹に手を当てた。  痣は、まだそこにある。  触れると、ほんのりと温かかった。  昼過ぎ。  セラードと薬草の調合実験をしている最中に、退院したジグナードが、温泉 の宿泊券を持って家にやってきた。  セラードはかなり警戒していたが、ジグナードは謝罪をして帰っていった。  立ち入り禁止の森は、近々、棺桶を撤去して、誰でも入れるようにするらし い。  帰り際、なぜかソルヴァンの好きな花を聞かれたが、追及するのはやめてお いた。  ジグナードが去った後、本棚の上で、老人の日記がかすかに光っていた。  開くと、最後のページに、見覚えのない文字が書き足されていた。  インクはまだ乾いていないように見えた。 『呪いが解けたのを、遠くで感じた。  ようやく、終われる。  干したりんごの礼を、やっと言える。ありがとう』  それきり、日記はもう光らなかった。 「……あの爺さんのせいで、干したりんご食べたくなってきた」  後ろから覗き込んだセラードが、ぽつりと言った。 「これから、買いに行こうか?」 「いいのか?」  ソリスは、そっと日記を閉じて、棚へとしまった。  買い物から帰ってくると、玄関の前にあの猫が座っていた。 「ニャーッ」  ソリスが駆け寄ってしゃがみ込むと、猫はまっすぐその膝に頭を擦り付け た。  温泉に行く日にソルヴァンに預けてから、ずっと姿が見えずに心配していた が、これでやっと飼うことができる。 「今日からここが、お家だからね」 「家族が一人増えたな」 「ニャーッ」  ソリスは猫を抱き上げて、家の中に入れた。 「名前、何にする?」 「饅頭」 「……」 「りんご」 「食べ物から離れよう」 「じゃあ、マズル」 「セラード」  猫が、ソリスの腕の中で大きくあくびをした。 「テラ」 「……てら?」 「昔の言葉で、大地って意味。俺の名前は太陽で、セラードは」  ソリスは、銀色の髪を見上げた。 「月みたいだから」 「なんだそれ」 「太陽と月の間に、帰る場所があるといいなって」  セラードは何か言い返そうとして、口をつぐんだ。  耳が、赤くなっていた。 「テラ」  ソリスがもう一度そう呼ぶと、猫は目を細めて、一声鳴いた。 「……決まりだな」  セラードは、少し照れくさそうに笑った。  その夜は、ポトフを作った。  テーブルに皿を二つ並べて、床に餌を入れた猫の皿をひとつ置く。  向かいに座ったセラードが、何も言われないうちに、手を合わせた。 「いただきます」  初めて会った夜、この人はその言葉を知らなかった。  ソリスも、手を合わせる。 「いただきます」  窓から差し込む月明かりが、二人を静かに見守っていた。

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