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第1話
ChatGPTに紹介された番号にかけ、出てきた男は某寺の住職だと名乗った。
そいつは俺たちが25分も待たされたことを知っているだろう。
しかし、
「そういう問題は、今昔、世界中のどこをも問わずに、もう山のようにあったのですよ。あなた方は変わり者ではなく、ありふれた悩みにとらわれた、ありふれた二人です」
絶句した。
そのあとはよく思い出せないが、ハンズフリーで会話している間も、俺たちはそれぞれに悲しみ、同時に苦しみ、そして住職への怒りを抑えきれず、つい感情的になった。
彼が、
「生まれてきたものはすべて、皆等しく使命を持っているのですよ」
と言ったとき、その怒りは俺の中で爆発した。おそらく蛍 の中でも。
「俺も蛍もそう思いません」
「そんなことはあなた! ぜぇったいにあるのですよ!」
「そうは思いません。平行線ですね」
そこで通話を切った。
*****
夜の中、耳元で吐息交じりに自分の名を呼ばれ、耳が溶けそうだと思った。
思い起こされる、坊主のセリフ。
『皆が心に地獄を飼っているのですよ』
そうなのだろう。
しかしもう、俺たちはその地獄 ごと、消えるほかないのだ。
*****
独房の囚人にはペットがいない。それでも地獄 を飼ってはいるだろう。その透明な目に見えない地獄は、猫のように気まぐれで、日ごろは全く囚人に寄りつかず、気ままに暮らしている。
しかしひとたび自分の要求を通したい、その瞬間だけ、そのペットは媚を売る。
そして欲を満たすのだ。
*****
俺たちの住む街の、その通りは人通りの少ないところ。
夏の名残の長雨が続き、豪雨で各地に災害をもたらした雨は、不幸中の幸いにも、この町には降らなかった。
日が落ちて、夜のとばりが下りるころ、木々の枝葉のあちこちを、彩るように星が光っていた。
もしその中のひとつでも、流れて行ってくれれば、まだやってゆけるように祈れたかもしれない、少なくとも俺ではなく、蛍なら。
何十分もそうして、二人で暗闇の中でじっと天を見上げていたが、一度も星は流れなかった。秋の虫の音が、降りこめるようにあたりに響いて、さやかな涼しい風が、金木犀の香りを運んでくる。
秋を愛する蛍は、…いま、俺の恋人と呼ぶことができない。
*****
蛍が泣いた。
自分は酷いことをしているのだろうかと思い、体がこわばる感覚がした。
「蛍、嫌なのか?」
蛍は泣きながら微笑んだ。
「違うよ、悲しくて泣いたんじゃないんだ」
「じゃあ…」
「幸せだから。僕が今、幸せだからだよ」
その言葉一つで、心がホッとして、俺の先端は蛍の熱へとまた沈んでゆく。
もう、何がどうなっているのか、自分には判らなかった。
確かな快感があって、そして蛍の涙の理由と感情を、自分も今知っている気がした。
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