2 / 3

第2話

思ったよりあっけなく、薬は手に入った。 繁華街でふらついていると売人が向こうから近寄って、声をかけられた。 ハルシオンを一シート買った。 もしかしたらもっと量が必要なのかもしれないが、持ち合わせがなかったので仕方なく諦めた。コンビニで酒も買った。 どこにしよう、と訊いた。 「どこがいい? 蛍」 「どこでも…でも、海がいいな。できたら…」 「そうか。そうしよう」 荷物はしまい、バイクにまたがって、フルフェイスのメットをそれぞれにかぶって、一番近い海を目指した。 蛍の手が冷たかったので、手を掴んで俺の両ポケットに入れた。 蛍は俺の胴体に、そっと抱きついた。 いとおしいという感情がほとばしる、でも…もう戻れないだろう。 ***** 目的地まですぐだった。 もう腹は決まっていた。 俺たちは案外、もしかするとある意味では、幸せ…なのかもしれないと思った。 星々が美しかった。 市街地からそれほど遠くないところに、あるのだ。 リセットボタン、あるいは逃げるためのトンネルのようなものが。 見上げて、すでに蛍も星を見ていることに気づいた。 「きれいだね」 「そうだな」 蛍のほうが。 それから二人でコンビニで買っておいた酒を持って、薬を分け合い、酒で飲み下すと、互いの手を握り締めて砂浜に仰向けで横たわった。 ***** 前後不覚。 不思議な夢を見た。 見知らぬ僧侶が白装束に笠をかぶって、見えない顔で 「どこへ行くのですか」 と肩に触れた。 蛍も振り向いた。 「天へ…」 「そうなのですか。あなた方は覚悟の上でしょう」 「あなたのような坊さんに、背中を押されましたよ」 嫌味っぽく聴こえた、自分のセリフ。 いや、実際に嫌味を込めていたのだ。 しかし意外な返事が返ってきた。 「それは申し訳ないことをしました。この世の全ての僧を代表して、わたくしが謝罪します。申し訳ございません」 俺は狼狽した。 「いいえ...そんな、だって...もう…」 「あなた方の飲んだ薬は、致死量に足りません。助かるでしょう」 「あなたは僧侶で医者なのですか?」 「違います。しかし過去には僧だったのです。でも、わたくしには分かるのです」 俺たち、俺と蛍は見つめ合った。 俺の瞳と蛍の瞳に、迷いや希望、不安と疲労が見えた。 「もしそうだとしても、また繰り返すよ」 「うん」 蛍も同じ気持ちだった。 俺たちはまた、僧侶を見た。 「あなた方のいる、この世界を、どうかごらんなさいませ」 その時初めて、自分たちが大きな川の前にいることに気が付いた。 1km? いくらかありそうな川幅だった。 俺は有名な映画の主題歌をぼんやり思いだした。 水面(みなも)は暗く、しかし濃い水色をして光っており、遠くに簿明があるようで、彼岸もこちらの岸も、似たような同じ景色だった。 それはただ暗いのだ。 しっとりとした墨汁のように、滴るように、闇があった。光っているのはその僧侶と、俺たち、そして時々波立っては静まる川面ばかりだった。川の、輝きが変わらない。 「いまならまだ...引き返せます」

ともだちにシェアしよう!