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エピローグ 東の空の星
エピローグ 東の空の星
年が明けて、エーリヒは破滅した。
手を下したのはユリアンではなかった。峠の八人のうち、シリウスを斬り、唯一逃げ延びた一人が三月後に西部で見つかった。その男の証言と、雇い入れの帳簿と、帳尻の合わない献金記録が、同じ日の朝に王室検察へと届いた。
どれも合法的に集められた書類だった。それを集めるのに人の喉を折った回数を、誰も数えなかっただけだ。
審問の日、エーリヒは傍聴席のユリアンを見て、顔を青くした。
その半歩後ろに立っていたものを見て、青い顔が一層白くなった。
獣の目をした、大男。ヴァレンハイト家の名簿にも、社交界の名簿にも、彼の肩書きは載っていない。
ただ、ユリアンの半歩後ろには、必ずその男が立っていた。周りを射殺すような目をして。
それだけで、誰も、二度とユリアンの杯に手を伸ばさなくなった。
◆
春、傷が完全に塞がるころ、ユリアンは医者を呼んで、焼き印を消す算段を話した。
しかし、シリウスは首を振った。
「これは、あなたに拾われた印です」
「檻の中を思い出すだろう」
「あなたがなぞってくれるので、案外と気に入っています」
「はっ……図太いな」
ユリアンは鼻で笑い、それから寝台に腰を下ろして、その鎖骨の下に指を置いた。数字の縁を、あの日と同じようにつうっとなぞった。昔より、ずっと厚くなった胸の上で。
「……ひとつ、訊いてもいいですか」
シリウスが言った。
「なんだ」
「シリウスが夜空で一番明るい星だと、あなたは、知っていましたか」
当然、あなたは知っていただろう。そう言いたげな、確認だった。
「ああ。知っていた」
「なぜ……あなたは、私に、そんな名前を与えてくれたのですか」
「あの日は、冬の夜だった。東の空の低いところに、ひときわ白い星が出ているのが見えた。ただ、それだけ……」
そこまで言って「いや、」と否定した。
「……おまえの、青い瞳を見た時——あの星のように、光ると思ったのかもな。おまえは、私が選んだ星だった」
あの雨の裏通りで、ユリアンは生まれてはじめて、自分で選んだのだ。
シリウスは、それ以上何も言わず、ただその手を取って口唇を寄せた。
◆
——書斎の扉枠には、五本の傷がある。
五本目から上には、もう何も増えていない。シリウスの骨は二十二で伸びるのをやめた。一本目と五本目のあいだの距離を、ユリアンは時々、懐かしむように手で測る。
そこには四年分の食事と、四年分の教育と、四年分の、名前を呼んだ回数が詰まっている。
窓の外、東の空の低いところに、あの星が出ていた。
名を呼ばれるのを待つ犬のように、ひとつきり、白く燃えていた。
(了)
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