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12 名を呼ぶ③※

「あっ……、ひ、あぁ……ッ!」  入ってくるとき、痛みはあった。この男は、屋敷の誰より、夜会に集まる誰より、背が高い。つまり、そのサイズに比例して、固くなったそれは、狂暴なほど大きかった。  シリウスは途中で二度止まり、二度とも汗の落ちる音が聞こえるほど動かなくなった。ユリアンが「止まるな」と言うと、首を振った。 「壊してしまいます」 「壊れない」 「壊れます。あなたは、私よりずっと、細いので」  かつて、痩せぎすで小さかった男がそう|宣《のたま》った。今は、この男の腕の中で、確かに自分のほうがずっと小さかった。ユリアンは小さく噴き出して、その腰に脚を回した。 「おまえからしたら小さく見えるかもしれないが、こう見えて、私は屋敷の中でおまえの次に背が高い」 「しかし」 「壊してみろ。……おまえに、壊されてみたい」  悪戯に口唇の端を上げ、そう言った瞬間。太く長いそれが、奥まで入ってきた。 「あー……ッ!」  ユリアンは息を吐ききった。繋がっているところより、抱きしめられている背中のほうが熱かった。胸と胸のあいだでは、シリウスの新しい傷跡が押しつけられている。そして、丸に二七の焼き印。  自分のために裂かれた肉と、他人につけられた烙印が、ちょうど心臓の高さで重なっていた。  シリウスが動きはじめると、思考が続かなくなった。  深く。ゆっくり。それから、こらえきれなくなった獣の速度で。剣術のときと同じだ、とユリアンは朦朧と思った。型を覚えて、それからその型を破るまでが早い。 「ぁ、っ、シリ——っ、う、ス、」 「はい」 「っ、あ、待て、まっ……!」 「もう、待ちません」  耳の後ろに歯を立てられ、腰を掴み直され、逃げようとした身体を引き戻された。汗で滑る背中が寝具を擦り、燭台の火が視界の端で揺れ、そして——。 「ユリアン」  名前を、呼ばれた。  敬称も、爵位も、何もつかない、ただの名前を。  その時、視界がチカッと白く飛んだ。指の先まで痺れて、喉から出たのは言葉にならない音で、そのあいだじゅう、大きな腕が背中を抱えていた。落ちないように。壊れないように。  遠くで、シリウスが息を詰める音が聞こえた。  ◆  しばらく、どちらも動かなかった。シリウスは、ユリアンの隣に寄り添うように寝転んでいた。視界を遮っていた身体が退いたから、天井が見えた。天蓋の刺繍も、燭台の影も、元の場所に戻っていた。  横で、シリウスが身を起こそうとするのを、ユリアンは腕を伸ばして止めた。 「……行くな」 「湯を持ってこようと」 「行くな」  ユリアンの口から零れたのは、拗ねた子どものような声だった。シリウスは動きを止め、それから、そっと腕の中に彼を引き寄せた。互いとも、汗と、薔薇油の匂いがした。 「……明日の朝、後悔されますか」 「するかもな」 「……そうですか」 「して、それからどうすると思う」  シリウスは答えなかった。ユリアンは、その胸に額をつけたまま言った。 「何度でも、おまえの名を呼ぶ。飽きるまで、ずっと」  腕の力が、強くなった。痛いほどに。

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