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白熱する選挙戦に、この想いを込めて―㊳

「ですが十年以上前のこととはいえ、この悪事を暴いてくださった日頃大変お忙しいであろう週刊文藝春冬さんの記者の方や、自分の母親に感謝いたします。こうして公の場で、謝る機会を作ってくれたのですから」  声を張り上げながら姿勢をびしっと正し、大勢の有権者を見据えるように右から左へと視線を流してから、もう一度深く頭を下げる。 「本当にすみませんでした!」  数秒後に頭を上げた陵はまっすぐ前を見つめて、さらに大きな声を張り上げた。 「やったことは覚えていないなどとは言わず、もちろんその大きさに関係なく、自分のおこなった悪いことは悪いんだときちんと認めて、しっかり頭の下げられる議員になります。そして今後このようなことが二度とないように、クリーンな政策を推し進めることのできる議員を目指していきますので、どうぞよろしくお願いいたします」  言い終えた瞬間に、二階堂が拍手をした。それに倣って俺も拍手を送る。すると群衆の中からも拍手がしはじめ、それが大きなものになって陵を包み込んだ。  一瞬だけ嬉しげに瞳を細めたが、すぐに表情を引き締めてから軽く頭を下げて踵を返し、ワゴン車に乗り込む。 「二階堂、俺はこの映像をダビングするから――」  長居は無用という空気がそこはかとなく流れはじめているのを肌で感じたので、ワゴン車に向かいながら二階堂に話しかけた。 「承知しました。では僕は報道関係者に、いい場所だからこそいい絵がばっちり撮れてる映像があることを、ここぞとばかりに宣伝しておきます」  楽しそうに告げた二階堂が右手を上げてハイタッチする仕草をしたので、遠慮なくその手を思いっきり叩いてやった。  こうしてそれぞれの仕事をこなし、選挙当日を迎えたのだった。

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