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白熱する選挙戦に、この想いを込めて㊵

 彼らの会話にずっと耳を傾けていたいのは山々なれど、つけっぱなしにしているバラエティー番組の隅に映し出されるであろう、開票速報の音も同時に探していた。  画面の中でわいわい楽しそうに騒いでいるお笑い芸人のギャグを見ても、頭の中にまったく入ってこない。開票速報の結果が知りたくて、うずうずしながら膝に置いてる両手を握りしめたときだった。 「秘書さん、あの……」 「どうした、二階堂?」  先ほどよりも低音で覇気のない二階堂の声に反応して、克巳さんが優しく話しかけた。  それまでとは違う雰囲気を感じて、視線をふたりにロックオンすると、メガネのフレームを押し上げた二階堂が、克巳さんの顔をじっと見つめていた。 「陵さんを奪ってみせますと言いましたが、おふたりの絆の強さを見せつけられたせいか、それが無理そうだなと思いまして」 「このまま、諦めるということだろうか?」  一重まぶたの瞳をちょっとだけ細めて訊ねた克巳さんの態度は、俺から見てもどこか挑戦的な感じに映った。 「そうですね、諦めざるを得ないと言ったところですので」 「そうか。君の情熱は、その程度のものだったのか」  しらけた笑いを皮膚の上に浮かべた克巳さんの視線を避けるように、二階堂は無言のまま顔を俯かせた。 「だったらチャンスをあげようか。どうする?」 「チャンス、ですか?」  ちょっとだけ首を動かして顔を上げた二階堂の表情が分からなかった。メガネのレンズが蛍光灯に反射するせいで、驚いているのか困惑しているのかすら判断ができない。 「選挙プランナーを辞めて、陵の補佐をしてほしいと思ってね」 「なっ!?」 「この選挙に絶対陵が当選すると、俺は予想している。だからこそ、その後のことを考えた結果だ。二階堂、政治家に顔の利く君がいれば、陵がしたい政策がしやすくなるだろう」  克巳さんからの意外な提案に俺だけじゃなく、二階堂も開いた口が塞がらない状態だった。

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