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白熱する選挙戦に、この想いを込めて――⑥

 自分の意見を言うため、克巳さんの動きを止めたことに、少なからず心に引っかかりがあったせいで、つい彼の動きを目の端で捉えてしまう。  だから気がついてしまった。俺と同じように、克巳さんの動きをチェックしている女のコに―― (あのコは確か、幹部の娘さんだっけ。学生時代から、選挙活動のお手伝いのウグイス嬢をしているから、ぜひ使ってくださいって紹介された……) 「相田さん、ここは私が片付けておくので、あそこにまとめられている段ボールの移動、頼んでいいですか?」 「ああ、いいよ。これからは力仕事、どんどん引き受けるから、遠慮せずに声をかけてくださいね」 「わぁっ、すっごく助かりますぅ」  ……克巳さん、女のコに頼られてデレデレした顔してる――俺といるときよりも、楽しそうに見えるのは気のせいかな。微笑み合って、なかなかいい雰囲気じゃないか。 「まったく……稜さん、時間がないと自分から言っておきながら、手が止まっていますよ」  唐突に告げられた、はじめの怒気を含んだ声にハッとする。克巳さんの動きに気をとられて、手元が疎かになってしまった。 「恋人が傍にいることで、自分のモチベーションが上がる分には、いいと思いますが、異性と喋ったくらいで不機嫌になられると、周りが気を遣うことになるんですよ」 「不機嫌になんて、そんな……むしろ、他の人と仲良くしてくれるお陰で、団結力が増すなぁって、見ていただけなんだよ」  心の中では、克巳さんに対しての不満をぶちまけていたけれど、表情でそれを出していなかったはず。顔色ひとつで心情を読み取られ、足を掬われないための、芸能人のワザを披露していたんだけど。 「作り笑いすると、目が笑っていないこと、ご存じないのでしょうか? あからさまに出ていました」  ――やり手の選挙プランナー。よく観察していたな…… 「そっかー。じゃあこれからはしっかりと目が笑うような、作り笑いの練習をしておくよ。教えてくれてありがと」  その場から身を翻し、目聡いはじめから離れようとしたら、素早く腕を掴まれてしまった。 「僕なら……稜さんにそんな、作り笑いなんてさせませんよ」 「は? 何それ」  行動を止められたことの不機嫌を表すべく、目力を強めながら睨んでやる。これをすると大抵の人は、恐れおののいたからね。

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