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白熱する選挙戦に、この想いを込めて――㉘
***
予定していた時間よりも少しだけ遅れてしまったが、商店街の遊説を行った。
駅前での罵倒に気落ちしていた稜だったが、そんなことがあったことを見せず常に笑顔で有権者と向かい合い、握手をかわしながら自分をアピールしていた。
その姿をちょっと離れた場所から凝視しながら心底安堵していたときに、ポケットにしまっているスマホが震えて着信を知らせた。
慌てて取り出して画面を確認したら二階堂からの電話で、タップしながら稜に背中を向けて耳にスマホを押し当てる。
「もしもし」
『二階堂です。あれから稜さんは大丈夫ですか?』
やはり稜のことが気になったのだろう。開口一番でそのことを訊ねてきた彼を安心させるべく、目の前の様子を伝えてやる。
「最初はふさぎこんでいたが、今は笑顔で商店街の遊説を行っている最中だ。それと君のことを心配していた。あれからどうなった?」
「さすがは秘書さんですね。稜さんの心の傷を、瞬く間に治してしまったようで良かったです。その後、人に紛れて男をつけました。予想通りの展開でしたよ」
電話の向こう側で笑う二階堂に、眉根を寄せてしまった。どこの誰かが分かって、後をつけたというのだろうか。
「二階堂、それって――」
「男は、元村陣営の事務所に入っていきました。よくある嫌がらせの手です」
有権者の中に紛れてあんな罵声を浴びせるなんて、卑怯なことをしてくれる――
「証拠の写真を撮りましたが音声が入っていない以上、残念ながら今回は証拠になりません。これからはビデオカメラ持参で、遊説にでかけましょう。秘書さん、すぐに用意はできそうですか?」
「ビデオカメラは用意できるがやはり今回の件は、注意をすることもかなわないのか?」
「牽制を込めて、してもいいんですけどね。でもあえてそれを見逃して油断させ、同じ過ちを繰り返したところを捕まえるのが得策だと僕は考えてます」
さすがは百戦錬磨の選挙プランナー。傷ついた稜の気持ちを考えて、注意を促した自分が恥ずかしい。
「捕まえたあかつきには名誉棄損罪や他にも何か罪状をつけて、警察に突き出し、元村陣営に打撃を与える予定でいます」
「それは徹底的に、向こう側の痛い行為につながるだろうね」
「でも間違いなく、その男をばっさり切りますよ。関係ないって。だから後援会にいる、頭の悪そうなヤツを使ったんだと思います」
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