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白熱する選挙戦に、この想いを込めて――㉙
つまり、一筋縄ではいかない相手ということか――
「二階堂、これからこっちに合流するんだろ?」
腕時計を睨めっこしながら訊ねてみた。
「はい、そのつもりでいます。商店街の遊説が終わる頃までには、顔を出せると思います」
「稜の気持ちを立て直すのに、ちょっとだけ時間が押してしまったんだ。スケジュール通りにはいかないだろうから、焦らずに戻ればいい。疲れていないか?」
二階堂の躰を思いやる言葉を告げると、電話の向こう側で息を飲むのが伝わってきた。
「どうした? 大丈夫なのか?」
「ライバルに情けをかけるなんて、秘書さんは余裕があるんですね。残念ながら僕は大丈夫です。それじゃあ」
まくしたてるように喋りきった途端に、通話が切られてしまった。
いつも冷静でいる二階堂が慌てた様子に、思わず口元に笑みが浮かんでしまった。
ライバルだからこそお互い万全な体勢で挑みたい気持ちがあるから、二階堂の様子を訊ねただけなのに。
「情けをかけるなんてことを絶対にしない。そんな余裕なんてまったくないというのに、変に勘繰られてしまったな」
こそっと独り言を呟き、乗ってきた車に戻る。
これから必要になる物品や注意しなければならないことなどをメモにまとめて、合流する二階堂を待った。第一声は、ねぎらいの言葉をかけてあげなければと思いながら――。
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