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白熱する選挙戦に、この想いを込めて――㉛

「文藝春冬で記者をしている斎藤と申します。明日発売される記事について、少しだけお訊ねしたいことがありまして」 「はい、どんなことでしょうか?」 「高校生のときにモデルをしていた葩御 稜さんが、学校のお友達と一緒に喫煙したり飲酒をした揚げ句に、その場にいた酔っぱらった女のコと淫らな行為もして大騒ぎをしたという情報を、身内の方からいただいたんです。未成年での問題行動が事実なのか、本人に確認したかったのですが」  ――身内の方から流された情報!? 彼の身内と言えば、母親しかいないじゃないか……。 「秘書さん、大丈夫ですか?」  受話器を持ったまま固まってしまった俺を見て、二階堂が声をかけてきた。  その声にハッとして意識を現実に戻してから、斎藤と名乗った記者には少々お待ちくださいと告げて保留ボタンを押す。 「稜、君の母親が高校生のときに起こしたことを、文藝春冬の記者に流したらしい。記憶はあるだろうか?」 「高校生のときに起こしたこと?」  眉をひそめて、小首を傾げながら考え込む。 「……友達と一緒に、喫煙したことやお酒を飲んだこと。そして――」  最後の行為を濁した俺の言葉を聞き、稜の顔色が見る間に青ざめていった。 「明日発売の文藝春冬に、そのことが掲載されるという連絡だった。未成年での問題行動が事実なのか、本人に確認してくれって……」 「秘書さん、事実無根だと言って切ってください。そんな記事が出回ったら、選挙に影響が出てしまうでしょう。記事の差し止めの交渉もしてください」  メガネのフレームを光らせて立ち上がった二階堂が、悲鳴に近い声で叫んだ。 「はじめ、落ち着きなって。このタイミングで母親があの話をリークしたのは、俺に対する復讐だろうね……」 「稜?」 「稜さん、それって……」  切なげに顔を歪ませた稜が、両手で頭を抱えてしゃがみ込む。迷うことなく傍に駆け寄って、後ろから抱きしめてやった。 「当時の俺が悪さをしたのは事実なんだ。事務所の社長だった母親がお金をばらまいて、それをないものにした。それで円満解決したはずだったのに」 「分かりました。週刊誌とのやり取りは僕がしますので、秘書さんは稜さんの傍にいてあげてください」  立ち上がるなりテキパキと指示をして、二階堂が電話での交渉をしてくれたのだが、残念ながら雑誌は次の日に発売されてしまい、それをもとにワイドショーが展開されてしまったのだった。

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