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前編

「年上が好みです。ああ、勿論俺が抱くんですよ?」  ここは、友人がママをしているゲイバーで。自分は週三回、フードメニューを出す時にキッチンを手伝っている中年男性だ。  初めてこの店に来た時、彼はカウンターに立つ友人に綺麗な――けれど女性的ではなく、美術品のように端正な顔に、惚れ惚れするような笑みを浮かべてそう言った。若い客や彼を抱こうとした客はガッカリしたようだがその後、年上の客から誘われても断っているので、単なるナンパ避けだったのかもしれない。 (それに、年上って言っても……流石に、二十歳近く離れていると引くかもしれない)  こういう店なので、正確な年齢は解らない。だが、二十代前半に見える彼に対して、自分は四十二歳。丸っこい目のせいで若く見えるらしいが、それでも中年は中年だ。だからこうして、キッチンからほとんど出ずに働いている。  ……けれど、キッチンから盗み見るだけでは我慢出来なくなり。  一度だけでも抱かれたくて、手馴れた素振りで近づいた。気合いを入れる為に前髪を上げ、同じようにスーツ姿で彼の元へと向かう。 「隣、いいかい?」 「……ええ」  そして声をかけた自分に、彼は切れ長の瞳を軽く見張り――次いで、あの一目惚れした笑顔を向けてくれた。  間近で見る彼は、若いのに上質なスーツを着ていて(キッチンからは、そこまでは解らなかった)連れて行かれたのも、ハッテン場やラブホテルではなく高級ホテルだった。 「んっ……」 「……声、我慢しないで?」 「っあ……!」  口調こそ柔らかいが、体中に触れられて舐められて。灯りも消されなかったので、太ってこそいないが筋肉のない体を晒す羽目になり。  みっともない声を上げ、身悶えて達し。恥ずか死ぬと本気で思ったが『こうなった』時の為、家で『準備』しておいて良かったと心底、安堵したものだ。  ……もっとも、流石に指とは全然、違う質量と熱量に貫かれた時は引き裂かれると本気で思ったが。  涙が溢れたのは、初めてが好きな相手とだったからだ。  我ながら重いと思うので、気遣うように問いかけてきた眼差しには「嬉しくて」とだけ答えたけれど。

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