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中編
友人の店のキッチンは、あくまでも副業で。普段は、昼のランチタイムにだけ洋食屋を開いている。
今日は定休日だが、いつものように早い時間に目が覚めた。
まだ眠っている相手に内心、安堵しながら細心の注意を払って回された腕から抜け出す。
足りないかもしれないが五万円をテーブルに置き、着替えて部屋を後にした。そしてだるい体でタクシーに乗り、自分の家へと帰った。
女性になりたいとは思わないが、恋愛対象が女性ではなく男性ということだけは子供の頃から気づいていた。
女装こそしないが、学生時代からオネェ言葉を使っていた友人とは違い、自分はずっと隠し続けていて。
孫の顔を見せられないことに対して、親に負い目を感じていたが――三十歳になった時、両親を事故で失った時に罰が当たったのだと思った。
「そんなんで罰当たってたら、アタシの親の会社なんてとっくに潰れて日本経済激震よ!?」
店を休業し、引きこもった自分をそんな風に励ましてくれたのは友人で。
自分の料理を好きだと言ってくれて、夜のバイトに誘ってくれた。そして、自分の作る料理を美味しいと言って笑ってくれた。
おかげで立ち直ることも出来て、ランチタイムだけではあるが(一人で、夜まで切り盛りするのは無理だったので)両親の遺してくれた店も営業を再開した。
(ずっと、一人だと思ってたけど……好きな相手と、結ばれた)
連絡先などは、教えていない。多分、彼も一度抱いて満足しただろう。逆に、精一杯背伸びをしていたのでこれ以上、一緒に過ごしたら幻滅されるだけだ。
彼から離れた今、棘を刺されたように胸が痛むけれど――彼との恋の証なので、この痛みすら甘く愛しいと思う。
明日からは洋食屋のオヤジに、そしてゲイバーのキッチンスタッフに戻る。
けれど『彼』と過ごした夜を宝物にし、この痛みを抱いて余生を過ごしていこうと思った。
ピーンポーン……ピンポンピンポンピンポンッ!
……そんな自分の決意は、突然のピンポン連打により吹き飛んだけれど。
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