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第33話 続きの夜
その翌日の夜、真壁修司が風呂から上がると、澄川律はリビングのソファに座っていた。
澄川は仕事帰りにそのまま真壁の部屋へ来て、二人で夕食を済ませていた。先にシャワーを借り、持ってきた服へ着替えている。
今日は、昨夜より口数が少なかった。
真壁は髪を拭きながら寝室へ入り、部屋着のシャツへ腕を通す。
その途中で、背中に身体が触れた。
澄川の腕が腰へ回る。
「澄川さん」
「はい」
「どうしました?」
返事の代わりに、背中へ当たっていた額が少し深くなる。
「責任取ってください」
真壁は手を止めた。
「何か悪いことをしましたか?」
「しました」
「何を?」
「昨日、途中でやめたでしょう」
ようやく意味がつながった。
昨夜、触れ続けてほしいと言われながら、自分から手を止めた。明日も仕事だからと、それ以上は進まなかった。
「今日、ずっと思い出してました」
真壁が振り向く。
澄川の腕は離れず、そのまま腰へ残った。
「仕事中も?」
「はい」
「それは困ります」
「だから責任取ってください」
「どうすれば?」
澄川は迷わなかった。
「今日は途中でやめないでください」
真壁は澄川を見る。
「真壁さん、明日は休みですよね?」
「はい」
「俺も午後まで何もないです」
「そこまで考えて来たんですか」
「はい」
「最初から?」
「はい」
返事に迷いがない。
真壁は息を吐いた。
「ずるいですね」
澄川が少し笑う。
「真壁さんに言われたくないです」
それでも腕は離れなかった。
腰へ回る力がわずかに強くなる。
「今日は全身見てください」
真壁の目が止まる。
「昨日の続きですか」
「はい」
今度は真壁が先に近づいた。
唇が触れる。
短く終わらせるつもりはなかった。
澄川の腕が首へ回り、すぐに距離がなくなる。触れている時間が伸びるほど、呼吸が浅くなった。
一度離れると、澄川は追うように顔を上げた。
真壁の手が背中へ回り、そのまま腰を引き寄せる。
澄川の腹に一瞬力が入り、すぐに抜けた。
「……真壁さん」
声が低い。
首の後ろへ触れると、肩がわずかにすくむ。そのまま真壁の指へ預けるように首を傾けた。
昨日より反応がはっきりしている。
真壁がそれを見ていると、澄川も気づいた。
けれど、目を逸らさない。
むしろ自分から少し近づいた。
また唇が重なる。
背中へ回った手がゆっくり下りると、澄川の身体がその動きを追うように反った。
息が漏れる。
今度は隠そうとしなかった。
真壁の指が同じ場所へ戻る。
澄川の腕に力が入った。
「……そこ、もっと」
掠れた声だった。
真壁は聞き返さず、そのまま触れ続ける。
澄川の背中がゆるく反り、次の息が途切れた。
身体はもう正直だった。
触れた場所から力が抜け、真壁へ預けられる重さが増えていく。
「律」
澄川の身体が止まった。
真壁自身も、呼んでから少し遅れて気づく。
ずっと名字で呼んできた。
澄川がゆっくり顔を上げる。
「……もう一回」
真壁は頬へ触れた。
「律」
今度ははっきり呼ぶ。
澄川の指が真壁のシャツを強く掴んだ。
呼吸が大きく乱れる。
さっきまで残っていた余裕が、その一言で崩れた。
それでも隠れない。
真壁を見る目だけは逸らさなかった。
次のキスは深くなった。
澄川の身体が真壁へ押しつけられ、背中へ回した腕にも力が入る。
真壁ももう、反応を読むだけではいられなかった。
澄川が息を乱すたび、自分の呼吸まで深くなる。
欲しくて触れている。
そのことを隠す理由もなかった。
唇を重ねたまま、真壁の手が澄川の服へ掛かる。
澄川も止めない。
離れかけた距離を埋めるように身体を寄せ、真壁の手が動けば、それに合わせて向きを変える。
真壁の服にも澄川の指が掛かる。
気づけば、互いの身体を隔てるものは少なくなっていた。
どちらが先だったのか、もう意識していない。
近づくために邪魔なものを外していく。
それだけだった。
肌が触れ合った瞬間、澄川の身体が小さく震える。
真壁の掌が背中を滑ると、その手を追うように身体が反った。
呼吸が崩れる。
声も、もう完全には抑えられていなかった。
真壁がもう一度同じ場所へ触れる。
澄川の指が肩へ食い込む。
「……気持ちいいです」
小さな声だった。
けれど迷いはなかった。
真壁の呼吸が止まりかける。
澄川は熱の残る顔のまま真壁を見ていた。
身体は震えているのに、言ったことを恥じる様子はない。
その正直さの方が、真壁には堪えた。
「律」
名前を呼ぶ。
澄川の息がまた大きく崩れる。
もう服は残っていなかった。
それでも隠れようとはせず、真壁の身体へ腕を回す。
近さだけでは足りないように、さらに引き寄せた。
真壁の手が頬へ触れる。
澄川はその手へ自分の手を重ねた。
目が合う。
「今日は止めないって言いました」
「はい」
それ以上、言葉はいらなかった。
真壁は澄川の身体を抱き寄せ、もう一度唇を重ねる。
触れるたび、澄川の身体は正直に応えた。
今度は、どちらも距離を戻さなかった。
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