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17 俺以外を見るのは許さないから

「真介……」  俺はカクテルをテーブルに置き、真介と見つめ合う。  あの話を聞いた直後だと、真介への見方ががらりと変わってしまった。  確かに、真介がしたことは許されることではない。  けれど、全て幼少期の、親に捨てられたトラウマから、愛を過剰に求めてしまう心理からくるものだったとしたら?  俺は。  真介が踵を返して店から出て行こうとする。  俺はどうしたい。  本当に、真介への気持ちは、全部が全部、偽物だったのか?  今まで真介と過ごした時間は……。  あれだけのことをされたというのに、蘇るのは真介との楽しい時間ばかりだった。  いつも振り回されていたけれど、検索履歴から分かるように、あれも俺の気を引きたいばかりにしたことだったなら。  俺は店のドアが閉まろうとするのを見て、立ち上がって叫んだ。 「真介!待て!」  真介がびくりと肩を震わせて、すりガラスの向こうで振り返る。  俺はテーブルにあったお金を店員に押し付けると、ドアを開き、真介を思い切り一発叩いた。 「っ……」  顔を歪めた真介を、今度は思い切りきつく抱き締める。 「凌平……?」 「バカ野郎。いつもいつも、勝手すぎるんだよ。俺がどんな気持ちか、考えたことあるのか?お前の策略にハマって、こっちはお前のことしか考えられなくなってしまったんだよ。責任取れよ。逃げるのはゆる……んぅっ」  許さないからな、と言い切ろうとしたのに、語尾は奪うような口付けで掻き消されてしまった。 「ん、んぅっ」  舌先が絡め取られ、息もできないほど激しいキスを繰り返される。  そして、束の間息継ぎをするタイミングで、真介は耳元で囁いた。 「くそっ、抱きてえな。今すぐ」 「っ……だ、抱きたきゃ抱けばいいだろ」  羞恥心をかなぐり捨てて言えば、真介は言質は取ったと言わんばかりに、俺の手を強く引っ張って自宅の方へと歩き始める。  俺はこの後が怖いような、楽しみなような気持ちで胸が高鳴るのを抑えられなかった。 「し、真介。まだここ、玄関」  ドアが閉まるなり、真介は俺の服を剥ぎ取ると、胸の飾りを口に含んでくる。 「あっ」 「うるせぇ。こっちは凌平が本当に俺のこと、俺と同じくらいに好きかいつも気が気じゃなかったんだ。もう我慢しなくていいなら、食うしかないだろ」 「ひぁっ、ちょっ……いたっ」  真介は本当に俺を物理的に食らいそうな勢いで、強く噛みついてくる。  かと思えば、絶妙な加減で力を抜くと、舌先で舐めしゃぶり始める。 「ぁっ、ぁぅ……」 「お前、本当にこれで塩原と付き合ってたのか?こんなに感じやすくてどうやってヤッたんだ」 「っ、てな……い」 「え」  真介がぽかんとして動きを止める。  俺は中途半端に止められたせいか、熱を持て余しながら睨んだ。 「やってねえよ!お前が初めてなんだから、嫉妬する必要なんてどこに……ひぁっ!?」  だから最後まで言わせろ、と頭の片隅で思いつつも、真介の唇で愛されてしまっては続きが言えるはずもなく。 「なら、大人しく全部食わせろ」 「ぁっ、待って、せめてベッド……やぁっ」  真介は本当に我慢の限界が来ていたらしく、問答無用で俺の中を掻き回し始めた。 「ぁっ、なに、これ。そこ、へん」 「ここか?」 「やっ、そこ、ばっかり、やめっ」  ピンポイントで奥のある場所を刺激され続けて、俺は気が狂いぐらいに何度もイッた。 「やっ、待って、おかしくなる」 「もっとおかしくなれ」 「やぁあっ」  真介の責め苦は、本当に俺がおかしくなるほど、いや、おかしくなってもまるで終わりがなかった。  気を失いながらも、俺は真介の愛に溺れるのをこの上なく幸せに感じていた。 「本当に、もういいの?」 「ああ、あんまり入れ過ぎると凌平のスマホ、動作重いし充電保たないからな」 「……」  激しく愛された後、俺は真介とベッドの中にいた。  真介がふいに俺のスマートフォンを操作し始めたため覗き込むと、今まで入れていたいくつかの監視アプリを削除し始めていた。 「よし、これで残すところは位置情報だけだな」  真介が最後の一つを消そうとしたのを、俺は手を伸ばして止める。 「凌平?消せないだろ」  俺は怪訝そうにする真介に対し、口元を歪めて囁いた。 「え、本気で言ってる?」  俺の台詞を聞いた真介は、心底驚いた顔をしている。  まさか俺がそんなことを言うとは思わなかったのだろう。 「もちろん」 「凌平、お前も大概だな」  真介は呆れたように笑うと、今度は自分のスマートフォンを操作し始める。  俺はそれを横目にしながら、口元が緩むのを抑えられなかった。 「今、真介は……っと。バイト先か」  翌朝、俺は自宅でゴロゴロしながら、スマートフォンを操作して真介の居場所を確認する。  実は、俺が真介に提案したのは、こういうことだった。  さらには、今まで真介がやっていたように、今度は俺が真介のスマートフォンを監視して、やり取りを探っている。 「メッセージ履歴は……っと。女の名前発見。バイト先の先輩か。真介、最近モテ始めたもんな」  真介の方は素っ気ない態度を貫いているが、その先輩はしつこく食い下がっている。  俺はニヤリと笑い、遠隔操作でその先輩をブロックした。  一人満足気に頷いていると、そのタイミングで真介から着信が来た。 「え、もうバレた?」  俺はすぐさま通話ボタンをタップして出る。  お互いに、何があっても秒で通話に出るのが鉄則だ。 「凌平、今晩何食べたい?」  何だ、気づいたわけではないのか。  ほっとしながら、俺はメニューを頭に思い描く。 「うーん、真介の得意料理は?」 「和食、中華、洋食、イタリアン、フレンチ……」 「え!?ストップストップ!マジで全部!?」 「ああ、言ってなかったか。俺、親が作る料理嫌いだし、孤児院の料理死ぬほど不味かったから、食べたいものを自分で作るうちに、何でも作れるようになった」 「マジか……最強すぎる」 「だろ?で、何が食べたい?」 「じゃあ……」  その時、俺のスマートフォンがメッセージの受信で鳴動した。  ちらりと見ると、土田からだった。  実は土田からはメッセージで謝罪を受けていて、今度からは純粋に友達として映画研究サークルに入らないかと誘われている。  俺は後で返信することにして、そのメニューを口にした。 「本当にこれ、全部食べるのか?」  真介は帰宅すると、俺が注文したメニューを手早く作り、食卓に並べて苦笑いする。 「たへるよ、だっれ、せっかくならようしょく、わしょく、全部食べたいじゃん?」 「口から溢れてるぞ」  真介は呆れ返りながらも、当然のように溢れた食べ物を拾い上げて口に運ぶ。 「っ……」  その指遣いと舌の動きがやけに扇情的で、俺は息を飲んで凝視する。 「何だよ、じっと見て。今更これくらいで煽られてるのか?あんなことした仲なのに」  真介が流し目で俺を見る。  やっぱり意図的にやっていたらしい。 「し、真介っ……」  俺はしてやられた、と思って真介を睨みながらも、これだからこの男を嫌いになることはできないと実感した。  いくらネットでマインドコントロールとか、人に好かれる方法とか調べて実践したところで、その人に本来の才能がなければ効果があるわけがない。  真介にもともと人心掌握の能力が兼ね備わっているのだと気づいたのは、真介の企みに気づいた後もこういうことを自然としてしまうからだ。  それも、俺が夢中になる方法をかなり巧みに心得られてしまっている。 「真介、お前は俺がどこまでお前に夢中になったら気が済むんだ?」  聞いても仕方ないことだと思いつつも尋ねれば、真介はにっと嫌味なぐらいカッコいい顔で笑いながら、俺の体を抱き上げた。 「うわ、と……」  俺の手からスプーンが転がり落ちる。 「真介、まだ食事……んぅっ、ちょっ……やっ」  真介は俺の細やかな抵抗を綺麗に無視して、というよりも抑え込んで、俺の体を弄り始める。 「凌平が、俺以外を一切見なくなるまでかな?」 「それって、もうそうなってるんじゃ……んぅ……ひぁっ」  真介の手が直にそこを触れ、絶妙な加減で上下に動き始めて、それから先は意味もない音ばかりを口から出す羽目になる。 「まだまだ、そうじゃないだろ?」  真介が言うのは、物理的な意味だとしたら、何て強欲なのだろう。  本来ならばぞっとするところなのかもしれないが、俺からすれば、そこまで愛されていることが背筋が震えるくらいに嬉しい。 「それなら、真介だって……やっ」 「ん?」  密かな反撃のつもりで口にしようとしても、真介が手を止めないせいか、上手く言葉が紡げず、息が上がった。 「何だよ、言ってみろ」 「やっ、……止めないと、言えなっ……ひぁあっ」 「まあ、言わなくても分かるけどな。凌平、嫉妬してるんだろ?俺が最近、モテてきてるから」  睨みつけることで答えれば、真介は満足げに笑いながら続ける。 「本当はお前以外の連絡先一切いらないんだが、わざと連絡先交換していってるんだ」 「な、何でそんなこと……」 「凌平が嫉妬して、一つずつ連絡先消していくのが楽しいから」  この男は、何て性格をしているんだ。  と思いつつも、恨む気持ちよりもとっくに遥かに愛する気持ちが凌駕してしまっていて、その性格さえも狂おしいくらいに愛しい。 「それから、気づいていないだろうが……」  真介は自分のスマートフォンを操作した後に、俺のスマートフォンを触ってこちらに画面を見せる。 「俺もまだ凌平のスマートフォン見てるから。ほら、ちゃんと断っておいたぞ」 「あっ」  やられた。  真介は土田に勝手に断りの返事を送りつけていた。  既読も既についていて、落ち込んでいるスタンプが土田から送られてきた。 「真介、土田さんとはもう別にそんなんじゃ……ひぁあっ」 「知ってる。次に名前呼んだら、連絡先消すからな」 「ちょっとまっ……やっ、まだそこまで入りきれな……ぁああっ」  真介は俺の制止を物ともせず、いやむしろいっそ制止を了承と捉えて、突き入れてくる。  俺はまともに考えられなくなるまで愛されながらも、密かな反撃のつもりで真介の首に腕を回して、その唇にむしゃぶりつく。  真介が目を見開いた後に、それ以上の反撃をするべく動き出すのを、俺は全身で受け止めながら、だからーーと思う。  これほどまで深く愛してくれるから、この男を愛するのはやめられないんだ。  でも、今度は俺の方が、もっともっと、真介が嫌になるくらいに長く、深く、愛し続ける。  俺は真介が驚き喜ぶ顔を思い浮かべながら、意識が飛ぶのに身を任せた。

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