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プロローグ『あなたをみつけた日』

夕方になって、ようやく涼しい風が体育館に入り込んできた。もう十月だというのにまだ夏の残り香がほんのり乗っている。この地方は夏を過ぎると朝晩は冷え込むと聞いていたが、そんな気配はまだない。秋の足音はいつまでも聞こえてこなかった。  大学敷地内にある体育館では、様々な部活がコートを分けて練習をしている。バドミントン、卓球、バレーボール……そして俺がいるバスケ部。練習といっても本格的なものじゃない。今日は人数が少ないから、三人ずつチームを分けてミニゲームをするだけ。  コート内を駆け、パスを受け、レイアップシュート。本日の初得点に、コート外で待機している部員が声を上げ手を叩く。強豪校にはない緩さだから、気楽にプレーできていい。  ピッと笛が鳴る。「はい、交替」と荷物置き場と化したベンチから、恵介先輩が声を張り上げた。  俺たちはさっさとコート外に引き上げる。短時間でも息は上がる。ベンチに置かれたタオルを首にかけ『ほさか』と名前の書かれたペットボトルを取る。ぬるくなったスポーツドリンクで喉を潤した。 「勇斗、先週より良くなってる」  手を上げて恵介先輩が俺に声を投げた。「ありがとうございます」と言い軽く頭を下げる。先輩からのアドバイスで、少しはプレーがマシになったらしい。嬉しいことだ。  なんとなく体育館を見渡す。今日は見学者が多い。OBだったり友人だったり恋人だったり……様々だ。  隣に立つ同期の翔太が声をかけてきた。 「なぁ勇斗。聞いたか?」 「何をだよ」 「今日、恵介先輩の恋人が来てるっぽいぞ」  へぇ、と生返事をする。伊沢恵介は俺の一個上で三年生だ。翔太はコート内に目を向けたまま続ける。 「めちゃくちゃ綺麗な人らしいぞ」 「ふぅん。何学部?俺らと同じ?」 「いや、隣のキャンパス」  ということは、文学部か芸術学部だ。俺たちの通う教育学部は道路を挟んで反対側にキャンパス棟がある。  おぉ、と歓声が上がる。誰かがダンクを決めたらしい。  盛り上がるバスケットコートから、少し視線をずらす。壁際のベンチにぽつんと座る青年の姿に、俺は息を止めた。  淡い金髪は小さなポニーテールにまとめられ、華奢な肩にサイズの合っていないワイシャツがゆったりとかかる。濃い色のジーンズと相まって、どこか浮世離れした印象だ。  目が合ったわけでもないのに、心臓が跳ねる。体育館の中の空気で、彼はあまりにも異質だった。  妖精のようなその人にーー俺は目を離せないでいた。

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