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隨ャ荳?ゥア

幼い日の記憶。 俺が小学1年生の時だったと思う。 夏休みを利用して母方の実家に行った。 あまりに遠い片田舎なので、俺が長距離移動に耐えられるまでずっと帰省していなかったらしい。 出迎えてくれた祖父母はそれはそれは歓迎してくれた。 ゲームもない、テレビのチャンネルもたったの4つ。 そんな場所で貴重な夏休みを過ごすのは嫌だった。 けれど、地元の子供たちが遊びに入れてくれた。 虫や魚なんかの生き物や草木を使った遊びの面白さを彼らは沢山教えてくれて、まったく飽きることがなかった。 可能ならまた来たいとさえ思った。 そんな活発で親切な彼らが恐れているものがあった。 山だ。 祖父母宅がある場所は盆地だが、そこから数km行ったところに山があった。 熊や猪がいて危ない。 俺の母や父はそう言って、山には入らないようにと俺に注意したが、子供たちは”あそこにはハッシャクサマがいて、気に入った子供を連れて行ってしまう”と恐れていた。 当時、怪談に疎かった俺は”ハッシャクサマ”が何なのかわからず、何をそんなに恐れているのだろうと思っていた。 田舎の夏休みは短い。 地元の子供たちの通う学校が一足先に始まった。 父の仕事はとっくに始まっていたため、父は東京に帰ったが、母と俺は残ることにした。 「久々に帰省したんだから、どうせなら悠佑の夏休みが終わるまでいたらいいよ」と父が言ったためだ。 祖父母の家に残れることは嬉しかった。 けれど、皆が学校に戻ってしまってからの日中は至極暇だった。 それでも、下校すれば一緒に遊んでくれるから、都会の自宅で過ごす夏休みよりはうんと楽しかった。 ある日、ふとあの山に行ってみようかと思った。 あまりに暇すぎたのと、高い木にもやすやすと上るような逞しい地元の子たちが恐れるあの山に登れば、自分がヒーローみたいになれると思った。 家を出て、ジリジリとつむじを焦がすのではないかというくらい容赦ない日差しに、山に行こうと思ったことを後悔する。 でも、今を逃したらずっと先延ばしにしそうだったので重い足を引きずって山に入った。 中は静かで薄暗く、すこしひんやりとしていた。 これだけ涼しければ探索も楽そうだと俄然やる気が出てきてずんずん進んだ。 子供だけでなく大人も山に入ることを避けていたようで、道は背丈ほどの高さの草だらけの獣道だった。 どれくらい進んだころだろうか、俺は違和感に気づき足を止めた。 ガサガサという自分が草をかき分ける音が止まっても、周囲のガサガサという音は消えない。 やっぱり、誰かいる。 いや、”なにか”がいる。 俺は耳を澄ませた。 不意に『ぽ、ぽ』という音が聞こえてきた。 人の口から出ているようにも、人ではない何かから出る音のようにも感じる、不思議な音だった。 「なに!?誰!!」 大声で呼びかけても、『ぽ』としか返ってこない。 なんだか不安になった俺は、元来た道を走って戻ろうとした。 来たときは上り坂だった道を、無我夢中で駆け下りる。 思ったよりもスピードが出て、足がもつれそうになったところに木の根っこが引っかかって、すごい勢いで転びそうになった。 目を閉じて衝撃をやり過ごそうとしたが、その前に大きな何かにぶつかった。 人のようにやや弾力はあるが、温かくはない。 何か芯のあるクッションのような感覚。 顔を上げると、頭上の遥か先に男の顔があった。 精巧な顔立ちではあるものの青白く、不気味に長い黒髪をだらりと下ろしており、異様につばの広い帽子を被っていた。 明らかにこの世のものではない。 目が合うと、そいつは『ぽ、ぽ』と音を発した。 「なっ、なんだよお前!! 離せ!!」 奴を押しのけるが、異様に背の高いそいつがよろめくことはなく、俺が今度は後ろに倒れ、尻もちをついた。 こいつが、子供たちが恐れていた”ハッシャクサマ”なのだろうか。 「お前がハッシャクサマか?」 キッとそいつを睨み上げたが、そいつは首を捻るような動作をし『ぽ?』と音を立てる。 怖い…、が、俺に危害を加えるようには見えない。 むしろでかいだけの間抜けな化け物に見えた。 そいつを避けてそのまま下山しようとした。 『闖ア譛ャ謔 菴 』 「…は?」 そいつから”ぽ”以外の声(正確には音?)が聞こえて、俺は振り返った。 奴は俺を指さし、もう一度『闖ア譛ャ謔 菴(ヒシモトユウスケ) 』と言った。 絶対、菱本悠佑と言った。 絶対に。 菱本悠佑は俺の本名だ。 「うわあぁぁぁぁ!!!」 俺は絶叫した。 すっと奴の長い腕が俺の頭に巻き付いた。 それから記憶がない。 目が覚めると病院にいた。 田舎にたった1つの町立病院のベッドで眠っていた。 後から聞いた話では、俺がいないと気付いた祖父が探し回り、山の入り口で倒れている俺を見つけたらしい。 俺は後に、自分が見た”ハッシャクサマ”の話をした。 もしかしたら「嘘をつくな」と怒られるかもしれないと思ったが、怖くて不安で眠れなくて、俺は祖父に言った。 祖父は血相を変えてお寺のお坊さんを呼び、お祓いを受けた。 そのおかげもあってか、今日までまたあいつに会うことはなかった。

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