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第38話

動物は、細胞を従えている。 体内でも、争いが有り、動物にとって良い細胞と悪い細胞がある。 どちらも生きている、択一の生命なのに、害があるものは、排除されてしまう。 排除する事で、大勢の細胞は、喜び、排除された悪党は、音もなくこの世から消えていなくなる。 しかし、細胞は、細胞を喰うとされているならば、その細胞は、悪役の細胞の組織で生命を保ち、その効能を体内で融合させ、悪党の香りを漂わせる善行の細胞になる。 「♪」 歌を歌っているのは、昨年、漸く、寮生活を辞めさせられた二年の元生徒だ。 「裁縫はね、繊細さが命なんだよ。」 暗い部屋で、小さな電気を灯し、手元には、古ぼけた人型のぬいぐるみ。 小さい頃に、甘やかされて、育っていた証だと言える。 「“ボクに麻酔は、打ってくれないの?”」 ぬいぐるみは、話す。 口なんか、ギタギタにされたキズだらけ。 「テメェに麻酔なんざ要るかよ。」 そう語るのは、その元生徒で違いない。 彼は、ぬいぐるみの存在に支配されている。 縋る先がそこだけなのに、その事実を受け入れようとしないのだ。 「君は、腑が出てしまっていて可哀想だけれど、痛くないから平気でしょ?」 しかし、その彼にも、愛があった。 誰にも気付かれない、素直な愛が。 「“そうだった!ただ怖いだけだった!”」 体は、キズだらけ。 髪は、ボサボサで、笑う口端は、鬱血している。 その元生徒は、誰にでも、ぬいぐるみのように、痛みがないと思われているらしい。 「じゃあ、目を瞑ろう。君には、麻酔が必要ないから、仕方ないよねぇー…。」 完成した縫合作業。 ぬいぐるみの目元を握って、歪んだその顔は、笑っているようにも見える。 大切な、唯一、その元生徒の全てを見ている、生命でなくとも、魂を注ぎ続けている一つの物は、元生徒に答えるように、そう表情を変えて楽しませる。 「………。」 その目元を見つめる元生徒の腹の中は、思い通りにならない苛立ちで、いっぱいだ。 「何で俺、避けられんだろ」 脳の中は、彼にイタズラをした人間の姿が、変わる変わる映し出される。 いつも、それを見て、苛立ちを溜めていて、その中で、誰かと話し、ほんの小さな事に、感情が揺さぶられて、手を出す事を許容されたかのような、気持ちになって、また、避けられる、殴られる、悪循環に至る。 そんな人間。 そんな事が、よく起きる人間。 だから、可哀想なんて言葉を塗り替えるぐらい、敵が多くなってしまった、ただの人間だ。 「……、瑠伊君なら…また、相手してくれるかな…。」 恨み言をボヤく。 まるで、好いてるかのような口振りで。 彼を傷付ける事だけが、彼の出来る接し方。 どれだけ酷い事をしても、許してくれる人を愛している。 「………。」 その彼のように、寛大な心を持つ者だけを求めている。 共依存だと罵られるかもしれない関係性の構築。 歪んだ愛情を受けても、ただただ、愛してほしいのだ。 「……。」 たった一人の、自分だけを。

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