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それから一週間ほど経ち、すっかり季節は秋に変わった。その間、クロエはほとんど毎日アウレスを抱いた。しかし彼が眠そうにしているときや疲れているようなときは、抱きしめて静かに眠らせた。
二日前にドーレスが来たとき、彼はとてもアウレスのことを心配していたが、普段より顔色がいいことを確認し安堵していた。
「気に入ったのか」
クロエは自分の膝の上に座って、何かに夢中になっているアウレスの手元を覗き込む。彼の手には木で出来た細長い棒が二本と水色の糸があった。糸というにはずいぶん太く、ふわふわと少し毛羽立って見える。
手元に夢中になっているアウレスは小さく頷いただけだった。クロエはアウレスのうなじに鼻先をつけると、たしかめるようにゆっくり舌で舐めた。ビクッとアウレスの体が小さく震える。
「……クロエ」
「ここはお前の匂いが一番濃い」
アウレスは手を止め、恐る恐る後ろを視線を後ろにやる。赤く美しい瞳はアウレスの手元をじっと見つめている。
「毛糸っていう糸を二本の棒を使って編んでいくんだ。そしたら、一枚の布になる」
これは昨日、アウレスが訪問者の老婆から教わったものだった。その老婆はいつも車椅子に乗ってきて、十字架の前で編み物をする。車椅子を押しているのは若い女性だった。
はじめアウレスは老婆が何をしているのかわからなかった。紺色の糸は老婆の膝の上にある丸い塊から伸びており、彼女は二本の棒を持ってその糸を複雑に絡ませていた。
糸は絡んでいくうちに面になる。アウレスには老婆が生き物を作ってるように見えた。糸は複雑に絡んでいるが、面の部分には同じ模様が規則正しく並んでいる。それが魚の鱗のように見えたのだ。
「これはね、編み物っていうのよ」
アウレスが手元を見つめていることに気づいた老婆は、ゆっくりと顔をあげ優しく笑った。丸々と太った老婆の顔はシワだらけで、首がほとんどなかった。
「毛糸っていう糸を編んでいくとね、こうして一枚の布になるの」
老婆が棒を抜き取ると、完全な一枚の布が現れた。細長いその布を老婆は自らの手で背の低い十字架にかけ、両端を軽く結んだ。
「こうしたら、寒くないでしょう」
それはアウレスに対してではなく、十字架の下で眠る誰かに話しているようだった。目の端はうっすら濡れていた。
「これ、よかったらあなたにあげるわ」
老婆は二本の木の棒をアウレスに渡した。
「棒針って言うの。ここは冬になるととても寒いでしょう。これを使って何か編んでみるといいわ」
車椅子を押している女性が、鞄の中から水色の毛糸の塊を取り出した。触ってみると想像通り柔らかかった。これはたしかに暖かいかもしれない。
それからアウレスは老婆に編み方を教えてもらった。
クロエはアウレスが編んで面になった部分を手に取ってみた。ところどころ毛糸が飛び出ていたり、編み具合がゆるかったりきつかったりして、とてもきれいとは言い難かった。
「出来たらどうする」
「まだまだうまくないから、これは自分で使う」
老婆は毛糸で編んだものを誰かにプレゼントすることが好きなのだと話していたが、アウレスは自分の編んだものが他人に渡せるようなものでないことは理解していた。
「なら、私がもらおう」
アウレスは手を止めてクロエを見上げ、すぐに視線を逸らした。
「……お前に渡せるようなものじゃない」
「それは私が決めることだ」
アウレスは編みかけの毛糸をしばらくの間眺め、そのうちまた手を動かしはじめた。
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