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 夕方は朝よりも風が冷たかった。青とオレンジが混ざり合った空を眺めているうちに、日が沈み夜になった。夜に来る訪問者も稀にいるが、寒さを感じたアウレスはいつもより早く家の中へと戻った。  夕食を摂りシャワーを浴びたあと、ベッドに入る前に、部屋着の上からブランケットを肩にかけているアウレスをクロエは不思議そうに見た。 「寒いのか」 「……苦手なんだ」  寒いというのはアウレスにとって一人であることを意味している。自由と意思を奪う壁や床の冷たさを思い出してしまうからだ。  特にこの夏から秋への季節の変わり目が苦手だった。森に囲まれたこのあたりは気温の差が激しい。つい昨日までは暖かく穏やかだったのに、突然身を切るような寒さに襲われる。鳥や野犬の鳴き声が聞こえなくなり、急にひとりぼっちになったような気分になる。 「寒いと人間はどうなる」 「体を壊す」  あと、心も。アウレスは口の中でつぶやいた。ベッドに入り、ブランケットの先をぎゅっと掴む。先にベッドに入っていたクロエはアウレスの手を掴み、その手の甲を覆うように自分の手を重ねる。 「たしかに冷えているな」  クロエの手から体温が移り、少しずつアウレスの手が温かくなる。 「お前はずいぶん温かいな」 「魔族の体温は四十度前後だ」 「……夏は暑そうだ」 「体温くらい、いくらでも変えられる」  クロエに与えられた温度はアウレスの手を伝い、体の真ん中のほうへと広がっていく。全身を覆っていた分厚いガラスが、その熱でゆっくりと溶けて体の外へと流れ出ていくような気がした。 「眠いか?」 「少し」  目を覚まさなければならないことはわかっていた。眠ってしまってはクロエに抱かれることができない。けれども、その体温に包み込まれていることが心地よくて、アウレスはうつらうつらしながら、クロエの胸元にすっぽりとおさまった。  クロエは何も言わずにアウレスを抱きしめた。その手は背中に回されたまま動かない。 「……抱かないのか」    意識を保とうとわざと声をかける。願いを叶えるためには対価を払わなければならない。 「無理にする必要はない」 「お前は変わってる」 「なぜそう思う」 「……俺の知ってる魔族はもっと強引だ」  いや、それは人間も同じか。と思い直す。 「抱かれたいのか?」 「……わからない。でも……今は、もう少し、このままがいい……」  他人と同じ場所で眠るとき、アウレスは起きているときよりも神経を研ぎ澄ませる必要があった。誰かといてゆっくり眠れたことなど一度もない。すべては自分自身を守るためだった。  それが今、会って間もない魔族と同じ布団の中で眠りにつこうとしている。そんな自分がおかしく思えて、けれどもそれ以上にこの心地よさを手放したくなかった。  アウレスはゆっくりと瞼を閉じ、クロエの腕の中で眠りについた。

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