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エピローグ

 決戦から王都に帰還して数日後。負傷したベネディクトは自身の宿舎で静養していた。王は王宮での静養を勧めたが、彼は他の負傷兵と同じ扱いを望み、それを固辞した。宿舎には食堂があり、同僚もいて、医師の定期的な訪問もあって、療養するのに何ひとつ不自由はなかった。  そしてそんな彼を毎日のように見舞う者がいた。 「ベネディクト卿、もう起きて大丈夫なの? 今日はベリーを摘んできたわ」 「シャルロッテ様。私のような一介の騎士を毎日見舞わずとも……」  王妹シャルロッテは戦後処理で忙しくなかなか来られない兄に代わり、毎日のように騎士を見舞っていた。 「あなたは一介の騎士などではないわ。この国で最も栄誉ある“第一の騎士(ファースト・ナイト)”よ」  ベネディクトは帰還後、王を守った最大の功績を讃えられ、“第一の騎士”の称号を賜ることになっていた。 「王をお守りできたことこそ、私には十分すぎる褒賞です」 「何を言っているの。兄上を守ってくれて感謝しているわ」 「はは……それは騎士ならば当然のこと……」  言いながら、ベネディクトはラインハルトと同じ、妹姫の蜂蜜色の髪と琥珀色の瞳に目を細めた。  ――あの方に、会いたい。  だがここは騎士たちの宿舎。王が自ら足を運ぶには不自然な場所だった。シャルロッテも市井の服を着、フードを被り、身分がわからないようにしている。 「そう言えば。今日は兄上、あなたを見舞えるかもしれないって言ってたわ」  シャルロッテがふと思い出したように、言った。 「え……本当ですか?」 「ええ。やっと戦後処理が一段落しそうなんですって」 「それは……よかった」 「ふふ……兄上も随分あなたのことを気にかけていたから、元気な姿を見せてあげて?」 「はい。ありがとうございます」  ベネディクトは待ち遠しそうに微笑んだ。  空が夕焼けに染まる頃。宿舎の窓から庭園を見下ろしていたベネディクトは、茶褐色のマントとフードを纏った長身の者が城の方からこちらへ向かって歩いて来るのを認めた。  ――あの背格好。もしや陛下……?  ベネディクトがその人物を注視すると、フードに納まりきらなかった蜂蜜色の髪が夕陽に輝くのを見た。  ――間違いない。陛下だ。  ベネディクトは急いで階下へと向かった。   「陛下!」 「ベ……ベン! 君、駆けたりして大丈夫なのか?」  小走りでこちらに向かって来るベネディクトに気づいたラインハルトは驚いて尋ねた。 「ええ。これしきの怪我、大したことはありません」  近くまで来ると、ベネディクトが答える。本音を言えば、まだ痛みがあった。だが脚を怪我したわけではないのだから、駆けることはできる。 「……ベン。これまで君に会いに来ることができずにすまなかった」 「お気になさらずに。貴方がお忙しいのはわかっています」 「はは……」  ラインハルトは笑いかけて、すぐに真顔になった。 「……君が起き上がれるようになったことを知らなかったから宿舎に出向いたが、君が歩けるなら……その、私の部屋に来ないか?」 「……はい。では、お伺いします」  二人は喜びを隠し切れない様子で、連れだって城へと歩き出した。  王の私室に入って扉を閉めると、夕陽の橙色の光に染まった室内で、二人は感慨深くお互いを見つめた。二人とも、生きて帰ってきたのだ。 「ベン……やっと、二人になれた」  ラインハルトが言い、ベネディクトが笑う。そしてごく自然に互いを引き寄せ、堰を切ったように唇を重ねた。  夢中で口づけるうちにやがて息が苦しくなって、二人は一旦離れる。愛おしそうに間近で見つめ合う中、ふいにラインハルトはベネディクトの肩の怪我に目をやると、痛ましげにそっと撫でた。 「あのときは私を庇ってくれて、ありがとう」 「私は貴方の騎士ですから」  騎士の言葉に王は微笑んだ後、痛みを耐えるような顔をした。 「あの瞬間、お前を失うかと思った」 「陛下を守れたのなら本望でした」  ラインハルトが声を震わせて言うと、ベネディクトは穏やかに返し、続けた。 「……ライ、俺は生涯あなたの傍にいて、あなたを守るよ」 「……ベン、私も決して君を失いたくない」  二人はどちらからともなく再び唇を重ねた。  その後の言葉は、必要なかった。  -Fin-

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