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第5話 俺の王子様
昼下がり。
テラスに出ると、丸いテーブルの上に三段のスタンドが置かれていた。
サンドイッチ。
焼き菓子。
ケーキ。
「……多くない?」
「アフタヌーンティーだから」
「知ってるけど」
奏真が俺の椅子を引く。
「好きなの食べて」
「全部食べろって言ってないよな?」
「言ってない」
「ほんとに?」
「澪が食べたいだけ」
ちゃんと覚えてる。
そういうところ。
俺は一番上の小さな苺のケーキを取った。
「これ」
「うん」
奏真も同じものを取る。
「また同じの?」
「澪が選んだの食べたい」
「……好きにしろ」
一口。
うまい。
奏真が俺を見る。
「美味しい?」
「うまい」
「よかった」
相変わらず。
俺が食べてるだけなのに嬉しそうだ。
もう一口食べようとしたら、奏真が手を伸ばした。
「動かないで」
「何」
指が頬に触れる。
そのまま。
奏真が自分の指先を舐めた。
「……お前、今舐めた?」
「うん」
「ティッシュ使えよ!」
「甘かった」
「そういう問題じゃない!」
奏真が笑う。
俺の顔が熱い。
視線を逸らした先。
テラスへ続く窓のそばに、大きなクマのぬいぐるみが座っている。
あの遊園地で見たやつ。
そのときは「いらない」って言った。
でも。
後日。
もう一度店の前を通ったとき。
自分から。
「……やっぱり欲しい」
って言った。
奏真は笑っただけで。
勝手に二つ買ったり、もっと大きいのを探したりしなかった。
俺が選んだ一匹だけ。
奏真がクマを見る。
「気に入ってるね」
「……まあ」
「うん」
何か。
言い訳したくなった。
「だって」
「ん?」
「お城が広くて寂しいから」
奏真はニコニコしたまま。
「そうだね」
「……」
それだけ。
「何だよ」
「何が?」
「……何でもない」
分かってるくせに。
絶対。
ぬいぐるみが欲しかっただけって。
でも。
言わない。
余計に恥ずかしくなって、ケーキを口に入れた。
奏真が楽しそうに笑っていた。
****
食べ終わっても。
そのままテラスでのんびりしていた。
風が気持ちいい。
奏真の肩へ少し寄りかかる。
もう。
こうするのにも理由はいらない。
「澪」
「ん?」
「おいで、お姫様」
「姫じゃない!」
奏真が笑う。
「じゃあ王子様」
「はぁ? じゃあお前がお姫様? 笑える」
「ふふ。俺もお前の王子様。安心した?」
「……俺の、お、王子様?」
言ってから。
気づいた。
奏真が嬉しそうに目を細める。
「うん」
「へえ。……ふーん」
何だよ。
その顔。
「おいで。俺のかわいい王子」
「……バカ」
でも。
自分から行った。
奏真の隣へ。
肩を寄せる。
すぐ腰へ腕が回る。
「今日も一緒にいる?」
俺から聞いた。
「もちろん」
「……そっか」
それだけで。
嬉しい。
今は。
こういうことも。
ちゃんと口にできる。
****
夜。
風呂から出る。
「奏真」
「何?」
「髪」
「乾かす?」
「うん」
ソファに座ると、後ろから温かい風が当たった。
指が髪を梳く。
気持ちいい。
「眠い?」
「ちょっと」
「寝てもいいよ」
「まだ寝ない」
「じゃあ、終わるまでここにいて」
「いる」
即答。
やっぱり。
嬉しい。
ドライヤーの音が止まる。
奏真が髪を整える。
俺はその手を掴んだ。
「奏真」
「ん?」
「今日は俺がする」
奏真が止まった。
「……何を?」
「分かってるだろ」
「聞きたい」
「うるさい」
顔が熱くなる。
でも。
逃げない。
「いつも俺ばっかり甘やかされてるから」
「好きでやってる」
「知ってる」
奏真の顔が少し変わる。
「だから今日は俺が甘やかす」
「……嬉しい」
「まだ何もしてない」
「もう嬉しい」
本当に。
こいつは。
「そういうの今言うなよ」
「何で?」
「やりにくい!」
奏真が笑う。
俺も笑った。
「じゃあ寝室行く?」
「……うん」
立ち上がろうとした瞬間。
身体がふわっと浮いた。
「ちょ、何してんだよ!」
「運んでる」
「歩ける!」
「いいの。お姫様抱っこ」
「姫じゃないって言っただろ!」
奏真が少し笑う。
「そうだったね」
「……」
「じゃあ、王子様抱っこ」
「なんだよそれ」
言いながら。
降ろせとは言わなかった。
落ちないように、奏真の首へ腕を回す。
顔が熱い。
少しだけ。
奏真の胸へ頬を寄せた。
「……重くない?」
「全然」
「ほんとかよ」
「このままずっと運べる」
「それはいい」
「残念」
そのまま。
寝室へ運ばれた。
****
ベッドに降ろされた瞬間。
今度は俺から奏真の服を掴んだ。
「今日は俺だからな」
「はい」
「途中で勝手にやるなよ」
「努力する」
「努力じゃなくて任せろ」
「はい」
妙に素直。
俺からキスした。
一度。
もう一度。
奏真の頬に触れる。
首筋へ。
胸元へ。
今日は。
俺から。
「奏真」
「うん」
「好き」
「俺も」
「今日は俺がいっぱい言う」
「それ嬉しい」
「だから黙って聞け」
奏真が笑う。
俺も。
少し笑う。
触れるたび。
奏真が嬉しそうにする。
それを見ると。
もっと。
喜ばせたくなる。
「気持ちいい?」
「かなり」
「……そっか」
嬉しい。
自分が甘やかされるのも好き。
でも。
奏真が喜ぶのも。
ちゃんと嬉しい。
キスを重ねる。
少しずつ。
奏真の腕が俺の腰へ回る。
「おい」
「ん?」
「任せるって言っただろ」
「言った」
「じゃあ手」
「ごめん」
離れる。
また触れる。
「奏真」
「……ごめん」
「我慢しろ」
「頑張る」
「だから頑張るな」
笑ってしまった。
「好き」
俺から言う。
「奏真、好き」
「俺も好き」
「今日は俺の番」
「うん」
首筋へキス。
奏真の反応を見る。
また。
嬉しくなる。
もっと。
そう思った瞬間。
奏真と目が合った。
ものすごく。
幸せそうな顔。
「……何」
「澪、かわいいなって」
「今、俺がお前を甘やかしてんだろ!」
「分かってる」
腕が。
また腰へ回る。
今度は。
離れない。
「おい」
「……ごめん」
「何が」
奏真が本気で困ったみたいに笑う。
「もう無理」
「は?」
一瞬だった。
気づけば。
俺が奏真の腕の中。
「おい!」
「ごめん」
「今日は俺がするって言っただろ!」
「分かってる」
「じゃあ戻せ!」
「でも」
奏真が俺を見る。
「甘やかしたい」
「……」
何だよ。
それ。
「澪が一生懸命俺を喜ばせようとしてるの見てたら」
額が触れる。
「もっと澪を幸せにしたくなった」
ずるい。
「……勝手」
「うん」
「今日は俺の番だったのに」
「十分もらったよ」
「まだ途中!」
「もうすごく幸せ」
また。
そんなことを。
普通みたいに言う。
怒れなくなる。
「……バカ」
「好き」
キスされた。
今度は。
奏真から。
****
さっきまで。
俺が触っていたのに。
今は完全に逆だった。
首筋へ唇。
背中を撫でられる。
「っ……」
「澪」
「何」
「好き」
「……俺も」
まだ普通に返せる。
胸元へ。
弱いところを触れられて。
「あっ♡、ちょっと」
身体が跳ねる。
「その顔」
「見るな」
「かわいい」
「それ禁止!」
また同じところ。
「まって……んっ♡、そこ」
声が崩れる。
さっきまで俺が主導していた分。
余計に恥ずかしい。
でも。
嫌じゃない。
奏真は急がず。
何度もキスしながら。
俺の身体をゆっくり慣らしていく。
「奏真」
「うん」
「……もういい」
「進める?」
頷く。
それだけじゃ。
少し足りない。
奏真を見る。
わざと。
少しだけ甘く。
「来て♡」
奏真の目が変わった。
「それ、ずるい」
「お前に言われたくない」
身体が重なる。
ゆっくり。
受け入れる。
「っ……」
肩を掴む。
「大丈夫?」
「……うん」
少し待って。
呼吸を整える。
「もう平気」
動き始める。
浅く。
ゆっくり。
擦れる感覚。
「奏真……」
「ここにいる」
「分かってる」
まだ。
話せる。
でも。
弱いところへ触れて。
「あっ♡、そこ」
反射的に声が出る。
「澪」
「今、聞くな」
「好き?」
「……好き」
普通に。
また。
同じところ。
「んっ♡、好き」
今度は。
勝手に甘くなる。
「俺も好き」
少しずつ。
深くなる。
「奏真……っ」
「うん」
奥へ届く。
「あっ♡、まって」
「止める?」
首を振る。
「違う」
恥ずかしい。
でも。
欲しい。
「……そのまま」
奏真が笑う。
「分かった」
深く。
何度も。
「んっ♡、奏真……」
「うん」
「そこ……好き♡」
身体が勝手に反応する。
余裕が減っていく。
でも。
今日は。
ちゃんと自分から言いたかった。
「奏真」
「何」
「もっとして♡」
意図して。
甘く。
お願いする。
奏真の顔が。
一瞬。
完全に崩れた。
「……それ、ほんと反則」
「知らない」
「澪」
「何」
「好き」
「俺も」
動きが強くなる。
「っ、あ♡、ちょっと……」
「澪」
「激しい……」
でも。
離れたくない。
むしろ。
もっと。
「奏真……」
「うん」
「好き」
「俺も」
「もっと♡」
短く。
今度は。
ほとんど考えずに出た。
奏真の腕に力が入る。
「澪」
「んっ♡」
「幸せ?」
「……幸せ」
迷わず答えた。
その直後。
深く届く。
「あっ♡、ダメ……そこ」
言葉が崩れる。
もう。
考えられない。
「奏真……っ」
「ここにいる」
「好き♡」
快感に崩されて。
甘く漏れる。
「俺も好き」
「んっ♡、もう……」
限界が近い。
「奏真」
「うん」
「だ、ダメ……いくっ♡」
その瞬間。
全部。
幸せでいっぱいになった。
****
しばらくして。
俺は奏真の胸に頬をつけていた。
髪を撫でられている。
気持ちいい。
ものすごく。
「……澪」
「何」
「ごめん」
「何が」
奏真が少し申し訳なさそうに笑う。
「今日は澪がしてくれるって言ってたのに」
「……そうだよ」
思い出した。
身体を少し起こす。
「途中から全部お前じゃん」
「うん。ごめん」
「今日は俺がお前を甘やかしたかったのに」
「すごく嬉しかった」
「だったら最後まで任せろよ」
奏真は少し黙る。
それから。
「つい、甘やかしたくなって」
「……」
本当に。
こいつは。
「また俺ばっかじゃん」
「ごめん」
「……」
「澪?」
顔を覗き込まれる。
俺は目を逸らした。
「……何」
「嬉しそう」
「嬉しくない」
「顔が」
「見るな」
奏真が笑う。
俺も。
我慢できなくなって笑った。
そのまま。
自分から。
奏真の胸へ戻る。
「……今日は許す」
「ありがとう」
「次は本当に俺がやるからな」
「頑張って我慢する」
「我慢じゃなくて任せろ!」
「澪がかわいくなかったらできる」
「じゃあ無理じゃねえか!」
「そうなんだよ。困ってる」
全然。
困ってない顔。
「困ってる顔じゃねえ!」
奏真が笑う。
俺も笑う。
少しして。
奏真の胸へ。
もう少し深くくっつく。
「……奏真」
「ん?」
「明日も一緒にいる?」
「もちろん」
「……そっか」
嬉しい。
ただ。
それだけで。
嬉しい。
奏真の腕が。
俺を包む。
俺はもう。
甘やかされすぎとか。
そんなことは考えなかった。
ここが。
俺の好きな場所だった。
** 過剰溺愛カレシ 〜こんなに愛されていいんですか?〜
(完)
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