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第4話 俺に任せて
奏真は、無実だった。
翌日の昼。
当局から説明を受けた。
奏真と国際テロ組織をつなぐ事実はない。
百億円規模の資金移動も、別件の資金ルートと偶然重なって見えていただけだった。
それを聞いた瞬間。
安心より先に。
涙が出た。
よかった。
本当に。
よかった。
でも。
俺が送った。
俺が。
奏真を捕まえさせた。
****
奏真の家の前で。
インターホンを押せずにいた。
帰りたい。
でも。
帰ったら駄目だ。
謝らないと。
そう思っていたら。
扉が開いた。
「澪」
奏真だった。
いつもの顔。
それだけで。
「……ごめん」
涙が落ちた。
「ごめん……奏真」
「澪」
「俺が送った。あのデータ。俺が……」
奏真が手を伸ばす。
反射的に一歩下がった。
「触んな」
手が止まる。
「俺、そんな資格ない」
「……」
「信じてたのに。なのに調べて、隠して、それでお前を捕まえさせて……」
声が震える。
「どうして平気でいられるんだよ」
奏真が静かに俺を見る。
「平気じゃないよ。傷ついてる」
胸が潰れた。
「……やっぱり」
涙が増える。
「ごめん」
奏真が一歩近づいた。
「俺の天使が、そんな悲しい顔してることに」
「……え」
顔を上げる。
「俺、お前に隠して――」
「知ってた」
息が止まる。
「……何を」
「澪が何か調べてること」
「いつから」
「途中から」
「じゃあ、俺がこそこそしてたのも」
「うん」
「何で何も言わなかったんだよ」
奏真が少し困ったように笑う。
「言ったら、澪もっと困るだろ」
「……」
「それ以上に、悲しい顔見たくなかった」
何だよ。
それ。
全部。
許しすぎだろ。
「でも俺、お前を――」
「澪」
頬に触れられる。
今度は逃げなかった。
「俺に任せて」
****
「その前に」
俺は鼻をすすった。
「百億」
「うん」
「何に使ったんだよ」
「ああ。それはね」
奏真が笑った。
****
「……嘘だろ」
車を降りた俺は、その場で固まった。
大きな門。
広い庭。
その奥。
石造りを思わせる大きな邸宅。
二階には、空へ張り出すような広いテラス。
「まるで城じゃないか」
「だって、澪。城に住みたいって」
「憧れるって言ったけど!」
「言ったけど?」
「……」
奏真が俺を見る。
「喜んでくれた?」
そんなの。
決まってる。
「……嬉しいに決まってるだろ!」
気づいたときには。
俺から奏真に抱きついていた。
すぐに腕が背中へ回る。
「よかった」
それだけ。
本当に。
それだけだった。
****
抱きしめられたまま。
また涙が出た。
「俺さ」
「うん」
「お前が百億も何かに使ってて、それを俺にも言ってなくて……」
声が詰まる。
「だから、もしかしたらって」
奏真は黙って聞いている。
「こんなことしてたのに」
「うん」
「俺のために」
「うん」
「……ごめん」
また。
それが出る。
奏真が少し笑う。
「じゃあ」
耳元で。
「その罪悪感、忘れさせてあげる」
胸が跳ねた。
「……そんな簡単に」
「簡単じゃないよ」
額にキスされる。
「だから俺に任せて」
****
まだ家具の少ない寝室。
でも。
ベッドだけは整っていた。
「準備良すぎだろ」
「泊まれるようにしてた」
「俺に内緒で?」
「驚かせたかった」
「驚いたよ」
「成功だな」
「そういう成功じゃない」
笑った。
少し。
本当に。
笑えた。
奏真が頬に触れる。
「澪」
「何」
「悲しいこと、考えないで」
「無理だろ」
「じゃあ邪魔する」
「何それ」
キス。
一度。
もう一度。
長くなる。
「好き」
「……俺も」
まだ胸の奥は痛い。
でも。
奏真の手が背中を撫でる。
服の内側。
肌へ触れる。
「澪」
「ん」
「かわいい」
「今、言う?」
「今だから」
首筋へ唇。
胸元へ。
弱いところを撫でられて。
「あっ♡、まって」
声が漏れた。
奏真が笑う。
「少し戻った」
「何が」
「いつもの澪」
「……バカ」
でも。
少しだけ。
本当に。
苦しさが遠くなる。
何度もキスされる。
急がず。
ゆっくり。
身体を慣らされていく。
「何考えてる?」
「……ごめんって」
奏真が困ったように笑う。
「じゃあ、まだ足りないな」
「何が」
「俺」
またキス。
「幸せなことだけ考えて」
「そんな器用にできない」
「できるようにする」
触れ方が深くなる。
「っ……ん♡、奏真」
「うん」
「そこ……」
身体が勝手に揺れる。
「好き?」
「……好き」
まだ。
普通に答えられる。
奏真の肩へ腕を回す。
「奏真」
「うん」
「……来て」
少しだけ間を置く。
今度は。
自分から。
「来て♡」
甘く言った。
奏真の目が変わる。
「それ、反則」
「今さら」
身体が重なる。
ゆっくり。
受け入れる。
「っ……」
息を整える。
奏真は急がない。
背中を撫でながら待っている。
「……もういい」
「うん」
少しずつ。
浅く。
動き始める。
擦れるたび。
頭にこびりついていた言葉が。
少しずつ。
薄くなる。
ごめん。
俺のせい。
「澪」
「ん……」
「好き」
「……好き」
まだ返せる。
でも。
同じところを擦られて。
「あっ♡、そこ」
身体が跳ねた。
「澪」
「今、聞くな」
「聞きたい」
「……好き」
奥へ届く。
「っ、ん♡」
言葉が途切れる。
「奏真……」
「ここにいる」
「……うん」
それだけで。
また。
胸があたたかくなる。
「悲しいことは?」
少し考える。
「……まだ、ちょっと」
正直に言う。
奏真が笑う。
「じゃあ、もう少し」
「調子乗るな……」
でも。
離れない。
深くなる。
「っ、あ♡、奏真……」
「うん」
「そこ……好き♡」
思わず出た。
奏真が嬉しそうにする。
「よかった」
「嬉しそうにすんな」
「嬉しいよ」
「何で」
「澪が幸せそうだから」
また。
それ。
俺が笑えば。
嬉しい。
俺が気持ちよければ。
嬉しい。
この人は。
ずっと。
そればっかり。
「奏真」
「うん」
「好き」
また奥へ。
「っ……好き♡」
声が甘く崩れる。
「俺も好き」
動きが強くなる。
「まって……んっ♡、ちょっと」
「澪」
「激しい……」
でも。
腕は離さない。
奏真が耳元で言う。
「まだ、ごめんって考えてる?」
何だったっけ。
本当に。
少し。
分からなくなっている。
「……知らない」
「じゃあ俺のことだけ」
「勝手……」
「うん」
考えるより先に。
口が動く。
「もっと……♡」
今度は。
意図して。
甘く。
奏真の目が細くなる。
「澪」
「何」
「かわいい」
「今は言うな」
「無理」
もっと深く。
「っ、あ♡」
しがみつく。
「奏真……」
「ここにいる」
「好き」
「俺も」
「好き♡」
声が崩れる。
もう。
ごめん。
が。
出てこない。
代わりに。
好きしか出ない。
「奏真……っ」
「うん」
「んっ♡、そこ……もう」
限界が近い。
「澪」
「だ、ダメ……」
「うん」
「いくっ♡」
そこで。
頭の中から。
全部。
消えた。
****
しばらくして。
俺は奏真の腕の中にいた。
身体に力が入らない。
頬も熱い。
でも。
胸の中は。
驚くくらい軽かった。
奏真が俺を見る。
それから。
ふっと。
本当に安心したように笑った。
「……何」
「よかった」
「何が」
髪を撫でられる。
「ほら。俺が言った通りだっただろ」
俺も。
少し笑う。
「……うん」
その一言を聞いた奏真の顔が。
もっと柔らかくなる。
「おいで。俺の天使」
抱き寄せられる。
今度は。
素直に胸へくっついた。
「もう二度と、悲しい思いはさせないから」
「……いや」
少し笑う。
「それは俺のせい……」
奏真が一瞬。
黙った。
それから。
泣きそうなくらい。
優しく笑った。
どきっとした。
「……たとえ、お前のせいでも」
唇が重なる。
短いキス。
俺は。
そのまま。
自分から奏真へ抱きついた。
「……奏真」
「ん?」
「好き」
「俺も」
今度は。
何も考えずに。
ただ。
幸せだった。
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