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Prologue 会社研修を終えて付き合うことになったふたり、その後
【2巻までのあらすじ】
それぞれ視点でご説明
■ 剣持 春彦 (けんもち はるひこ)
大きいほうのリーマン。29歳。身長185センチ、体重72キロ。母親がドイツ人で、色素は薄め。亡くなった資産家の祖父にとても可愛がられていた。営業部の若き部長。
亜紀からの返事がまだない「保留状態」を楽しんでいたつもりだが、2泊の会社研修で、感情的な限界が来た春彦。亜紀を襲うような形になってしまうが、わりと亜紀が「よし、それならそれでどんと来い」みたいなスタンスなので、悩みつつも面白かったりして、いつものクールなペースを保てないでいた。
研修後、自宅に迷子の猫のように迷い込んできた亜紀(実際は、合鍵を使って勝手に入って春彦のベッドで寝ていた)から正式にお付き合いするという返事をもらい、最近はウキウキである、といったあたりでこの3巻に突入する。
前カノは関原心寧。社内では内緒にしているが、秘書課室長の森口レイラは幼いときから一緒に育てられてきた従姉妹。レイラは姉のマナに性格や見かけが似ている。
■ 一ノ瀬 亜紀 (いちのせ あき)
小さいほうのリーマン。27歳。身長159センチ、体重57キロ。趣味は掃除と洗濯、筋トレとジム通い。最近は料理も好き。営業部の主任。風邪薬で死んだように眠る。
春彦に対する気持ちはあるのに、それまで友人同士であったことや、春彦のハイスペック加減から「自分でいいのか」という気持ちが捨てきれないでいた亜紀。努力家だしそれ相応の自信もあるが、いまいち踏み込めないでいた。感覚が大変今風な男で、同性同士であることはその次くらいの課題感である。
会社研修でぐいぐい来る春彦に果敢に立ち向かったり(フェラチオとか)、心寧と話したりして、自分の気持ちを確認。
「ただ絆されたわけではない」ことの証明にように、言わなくてもいいのに緒方専務に春彦との関係を打ち明け、すっきりしたところで春彦のマンションの乗り込み、夜を共にした。
部下で年上の宮島 奏に好かれている。宮島は春彦には自分がゲイであることを伝えているが、亜紀は知らない。
──9月5日(土)天気のよい午前/亜紀視点および作者視点
「なにか俺に隠し事をしていないか。していたら教えてほしい」
春彦が言った。彼らしい、ストレートな物言い。朝日が彼の髪を照らしている。大袈裟でなく、まるで世界が彼の味方をしているみたいに。
──やっぱりだめだ、と亜紀は思った。
自分は、この男にうまく嘘をつき通せるような器用な人間ではない。たとえ罪のない嘘だとしても、「秘密を持っていること」自体を隠せないのだ。相手が春彦でなければ、なんとかなったかもしれない。けれど、見透かすようなこの瞳と、包み込むような愛情が、自分にそれを許してくれない。
「……ある。ごめん」
たぶん俺は、もうすぐ洗いざらい喋っちゃうんだろうな、などと思いながら。彼を騙しているわけではないのに、どうしてこんなに気持ちが重いんだろう?
しかし。春彦は亜紀が想像していたのと違う台詞を言った。
「わかった。でも、別に言わなくていい」
え?
「言わなくて……いいの」と亜紀は思わず聞いてしまった。そもそも「だから秘密」なのに。
「ああ。構わない」と春彦。「だって、それはとても言いにくいことだろうからな」
「え……いや、それは……そうなんだけど」
「これだけ確認させてもらうが、俺以外に付き合いたい奴がいる、とかではないよな? 恋愛的に気になっているとか。具体例を挙げると、宮島を抱きたいとか宮島に抱かれたいとか」
「──ぶっ……宮島? ない。なんで宮島……」
春彦は「まったくもって気にしなくていい、別の場所で使用済みの例だったので使いやすかっただけ」と言うと、黙って待ってくれていた。その問いへのきちんとした回答を。
「それはない。言い切れるよ」
正直に言えば、自分はかなりこの男にハマりかけているのだから。
「ならいい。この世界において、俺にとって重要なのはそれだけだから」
「世界って」
「ただし。条件がある」
「条件? ……条件って、なに?」
「俺にもひとつだけ、亜紀に秘密ができそうなんだよ。もちろん、恋愛的なことじゃなく」
「……なら、俺に『それはイヤ』と言う権利はないと思う……それに、別に、いい」
それはきっと、俺がイヤだと思う種類の秘密じゃないからだ、と亜紀は心のなかだけで言った。その一方で、自分が抱えているのは、もしかしたら春彦がイヤだと思うものかもしれず。そういう意味で、自分のほうがズルい。
「オーケー。じゃあ、そういうことで。あまり深刻になるな。おまえらしくもない」
「ん……」
「それより」
春彦の手のひらが亜紀の頬にあたる。添えるだけのやりかた。
「アザになってないよな? 力加減が……できなくて……あんなの、生まれてこのかた経験がなくて。大丈夫か」
一瞬にして頭に血がのぼる。昨晩のアレのこと。
「だだだだいじょうぶです、俺が言い出したことだし……ぜんぜんへいき」
「おまえ、めちゃくちゃ可愛かった」
「いやあ~あはははは……」
「隣人たちはさっき出掛けたよ。ちょうど見かけた。いまはもう、なにをしても」
「……な、に」
「だから、無理はさせないから、少しだけいいか……」
「え……」
こうなったら抗えない
ゆるゆると継続的に与えられる快感は、徐々に大きくなって、手足に絡み、身体全体を拘束する。亜紀は思考を手放して、ただ甘えることにした。
だってね。いま考えてもしょうがないことだしね。
†
彼らは同じ会社、同じ部署に勤める、付き合って半年になるサラリーマン。部長と主任。
ひとりは新宿に住み、ひとりは立川に住んでいる。お付き合いは順調だが、ここまでお読みいただいた通り、両者にはそれぞれ「存在自体は公開された秘密」がある。秘密の中身は、見えていない。秘密だから。
さて。2巻に続き、先に読者のみなさまにお伝えする。
今回登場する人物たちのほとんどが、「秘密」を持つことになる。
でもね。言うまでもないことかもしれませんが、この物語は完全なハッピーエンドに着地するので、その点についてはご安心を。
だから彼は風邪薬を飲まない 完結編
誰もが誰かのために秘密を持っている
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