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第6話

 今日も社長室、この日に終わらせる仕事は片付いた。 「社長、コーヒー如何ですか?」 「ああ、もらう」  水瀬はコーヒ―を入れ戻って来ると私の手元に置いた。 「有難う」  香り立つコーヒーの香りを嗅ぎ一口。今日はブラックか。まだ疲れている訳じゃなさそうだ。豆の味がダイレクトに感じられ美味い。側にいて欲しい。それは伝えたが肝心なことを伝えていない。一週間何をしても水瀬。自宅で寛いでいるときも水瀬の事ばかり。私の答えはもう出てていた。 「水瀬」 「はい社長なにか」  私はソファに腰かけ水瀬も前に座らせる。本当に私でいいのか? 一回り以上も離れたこんな親父に。 「あのな……この前の事だけど」  水瀬の顔色が変わる。眼鏡越しその目は真っすぐで目を逸らせない。私はゆっくりと話しだした。 「私はこの歳だ……お前はまだ若い。相手ならいくらでもいると思う。それでも水瀬、お前は私を選ぶのか?」  水瀬は暫く黙って考えている。やはりこの答えを伝えるのは間違いか。 「社長、歳なんて関係ないです。俺は社長が好きなんです。社長じゃなきゃダメなんです。」 「水瀬……」  眼鏡越しの瞳は真っすぐ私を見続ける。あの日の事は二度と忘れないだろう。方法は間違っていたのかもしれない。が、そこまで追い込んだのは他でもない私。 「この一週間ぞっとお前の事が頭から離れない」 「隼人さん」 「何をしていてもお前の事ばかりだ……」  仕事はなんとか割り切れてしまうが、しそれでも頭の隅には水瀬がいる。休日会わない日なんてもっと手に負えない。これが愛していると言う事なんのなら……。 「本当に私でいいのか?」  水瀬は私の言葉を聞いて徐に立ち上がる。そして私の隣に来て抱きしめた。 「貴方の他にいないんです」  抱きしめられた腕は僅かに震えている。私は覚悟を決めた。 「私はお前とこれから先も一緒にいたいと思った。仕事だけではなくて」 「隼人さん」  この歳になってこんな真面目に人に告白する日が来るなんて、ちょっと前に自分では考えられない。 「水瀬……いや渉……私もお前を愛している」    瞬間水瀬は眼鏡を外し私に激しい口付けをする。 「んんっ……ん」  暫く口内を良いようにされ、離されると水瀬はこう言った。 「やっと報われた……貴方に愛してると言って頂けて俺は嬉しいです」 「一緒に生きて欲しい」  年甲斐もなくそんな台詞良く言えたものだと思うが、水瀬が喜ぶ顔が見たい。その思惑通り水瀬の顔はパッと明るくなった。 「勿論です」  私たちは静かに抱き合いながら二人の時間を過ごす。そう言えば私はずっと受けなのだろうか? 訊きたいが怖くて訊けない。どちらにせよ水瀬渉。私の大事な存在になったのは間違いない。 「今夜家に飲みに来るか?」  初めての誘いに水瀬は目を輝かせて勿論と答えた。どれくらい一緒にいられるかは分からないが、私も地に足をつけて一人の人間の為に生きるのも悪くない。そう本心で思えた。 END           

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