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第2話 SA
「んん……く……」
隣から子猫の寝息のような声が聞こえてきた。確認すれば、しきりに体を捩っている宮藤の姿が見えた。何度も座り直しては、大きく足を揺らして、時折体を震わせる。
その姿をみると、だんだんと綾瀬も焦りが募る。綾瀬自身も尿意を我慢していることもあるが、一番は、宮藤が「失敗してしまうかもしれない」ということだった。宮藤の限界が近いのは一目瞭然だった。
「んっあっ……」
車が横を流れるたび、宮藤は恥ずかしそうに体を固めた。外から見ても尿意が限界だと分かる。それを見られるのが恥ずかしいのだろうか。心なしか頬も赤く、脂汗で顔が光るのに妙な色気を感じた。
「……あ! ペットボトルってなかったか?」
綾瀬は思考を切るように口を開いた。
ここに来る前に飲んだペットボトルが残っていれば、最悪そこに出すことも可能だろう。
「お前やばいだろ? とりあえずそいつに出しちまえよ!」
綾瀬は名案だと本気で思っていた。
「……二つ前のとこで、捨てちゃった……」
「……2本とも?まじ?」
泣き出しそうな声でつぶやいた。問いかけに対し宮藤はこくこくと頷いた。
「あっまっ……」
宮藤が目を見開いて、股間を押さえつける。咄嗟に綾瀬は正面に視線を戻した。
(これは見ちゃいけねぇやつだ……)
「うお……」
綾瀬は咄嗟に股間に手を伸ばし押さえ込んだ。綾瀬自身も正直キツかった。ジーンズがぎゅっと腰を締めつけるたび、溜まりきったものが出口までせり上がってくるような感覚に襲われる。
それは先ほどから大きく体を動かしている宮藤なら尚更感じるだろう。
正面を向いたままでも、隣で宮藤が身じろぎする気配だけは分かった。衣擦れに混じって、金属が小さく鳴る。
ボタンでも外したのだろうか。
それでも、宮藤が股間から手を離す気配はなかった。
綾瀬は、横を見てはダメだと言い聞かせる。衣擦れと荒い呼吸が聞こえるなかで宮藤の存在感と尿意が脳を占め始めた。
体の内側では、溜まりきった水分が出口を求めてむずむずと騒いでいる。少しでも気を抜けば、脳の許可なんて待たずに勝手に放水を始めそうだった。
「あ〜っクソ……」
その度に身体をギュッと強張らせて尻をはじめとする下半身全体に力を入れる。
隣からはほとんど話す事ができず、ただ、う、とかアッと喘ぐ宮藤の声が耳に届いてくる。
(バカ……エロいとかそういうのは違えっての……)
綾瀬は大きく深呼吸をする。正面の看板を見ていると、この先800メートルとか書かれたサービスエリアへの分岐への道のりが記されていた。
「お、おい! 宮藤! もう直ぐ到着するぞ!」
綾瀬は助かった、とホッとした顔をして、宮藤の様子を見た。
「ひゃっ! あっほんと?やった……」
見てしまった。
宮藤のジーンズはすでにボタンが外れていた。下着越しに押さえ込んだ手の形が浮き、その周囲は濡れて濃く色づいている。
冷や汗をかきながらも、顔を赤面させる宮藤のすがたは艶めかしい。汗が首筋をつーっと落ちていくのを見て、思わず気を抜いてしまった。
「っ……!?」
綾瀬は腰元に力を入れた。それでは足りずパンツに熱い湿り気が移り、少しずつ広がった。慌てて片手で股間を掴み押さえつける。
(やべ、ちっと出た……)
生暖かい液体がパンツに吸われて、若干服の中の湿度を上げた。
それとともに、自分の陰茎に変化があることに気づいた。
(それはダメだ……)
尿意のせいなのか、それとも今見たもののせいなのか。確かめたくもないのに、ゆるく形が変わり始めていた。
「とりあえず、便所近くに止めるから辛抱してくれ!」
何をして良いかはわからないが、次のサービスエリアに入り、宮藤と自分の便所を間に合わせる。それだけを目標にして、再度運転に集中する。
アクセルを踏む足に気持ちだけを乗せて、滑らかに車線を変え、サービスエリアへ入るための分岐に切り替わる。
「うう、ぐす……」
啜り泣くような宮藤の声が聞こえてくる。
それだけ余裕もないのだろうと隣をチラリと確認する。すでにパンツに広がるシミが広くなり、今もなおその範囲が広がっていく。
限界が近いのだと、直ぐにわかった。
(貴之、漏らしちまうのかな……)
体の奥に悪寒とは違う、ぞくりとした熱が走る。
漏らしたらどんな顔をするんだろうか、と考えたところで、綾瀬はまたそんな自分に嫌気がさした。しかし何度見ても宮藤の顔が、声が、立ち上る汗の匂いが、お前はそういう奴だ、と綾瀬の脳を麻痺させる。
綾瀬はそのままサービスエリアの駐車場に入ると、トイレの建物に一番近い駐車スペースへと向かう。幸い人もほとんどおらず、よくないとわかっているが、そのまま駐車スペースに滑り込むようにして入ると、ブレーキを踏んだ。
少し速度を残したまま踏んだブレーキが、二人の身体を前へ押し出し、シートベルトが強く食い込んだ。
「うあっ!?」
「あ! わ、悪い!」
宮藤を咄嗟に見ると目を見開いて、ガクガクと震えていた。慌てて宮藤のシートベルトを解放してやると、運転席から助手席の鍵を開けた。
「ごめん! ドアそのままでいいから!」
「うん、うんっ!」
助手席のドアを開けて、駆け出す宮藤を見る。生まれたての鹿のようにつま先で二、三歩踏み出した後、数秒固まったのちに駆け出して行った。
一人残った綾瀬の鼻に、宮藤自身の甘い香りと、尿の少し湿った香ばしい香りに顔を手で覆った。
「っくう……クソ! 何考えてんだ俺は!」
助手席のドアに手を伸ばして、そのまま勢いよく引けば大きな鈍い音を立てて閉まる。
綾瀬はできるだけ腹を刺激しないようゆっくりと、体を起き上がらせる。座っているときはただ頼もしだけの綾瀬の体格だった。しかし狭い車内を動くには肩幅が邪魔になり、席のヘッドレストに体を取られながらゆっくりと車から出る。
「あっ……!」
綾瀬は咄嗟に股に手を伸ばし強く陰茎を握った。
掌に暖かい液体が広がるのをまた感じる。握り込んでも止まりきらない。掌の中で熱が滲み、指の隙間へじわりと広がった。
(貴之……大丈夫か……)
暫く体を強張らせていたが、やっと波が落ち着き、車の外にでる。
しかし、綾瀬の限界が近かった。一歩でも踏み出すことをためらうほどの尿意に襲われる。股間を抑えていたとしても、少しでも体内の水分が波打てば溢れた分が外にこぼれてしまう。歯を食いしばりながら、トイレの方に視線を向ける。
「アッアッ……ああ……し、んじ……」
綾瀬の目の前にはトイレの前に立ち尽くし、こちらを向く宮藤の姿があった。先ほどトイレに向かった姿を見たが、なぜいまそこに立っているんだ。と疑問を口にする前にそれは起きてしまった。
オレンジ色の街灯の真ん中に、宮藤は立っていた。開いたチャックの隙間から鮮やかな色のパンツが覗いている。
その下が、見る間に濡れた。
ジーンズは街灯の下で黒く色を変え、じわじわと範囲を広げていく。布が抱えきれなくなると、裾を伝った滴がアスファルトへ落ちた。
「ああ、あはは、ああ……」
駐車スペースの白線に溜まったものだけが、薄く黄色く透けて見えた。
綾瀬の心臓が、低く、強く脈打った。
頭では宮藤を助けてやらなくてはと思っている。なのに身体がついてこない。すべてがばらばらだった。
足は迫る尿意に耐えようと強張り、腕は身体を支えるため車から離せない。腰は限界にがくがくと震えている。
それなのに目だけは、宮藤が漏らしていく姿を一から十まで見届けたいとでもいうように、そこからまるで動かなかった。
綾瀬には、おもらしした事実の恥ずかしさに、どうしていいかも分からず、泣きそうに笑う宮藤の顔が、綾瀬にはたまらなかった。
排尿を終えた宮藤は、ほんの少しだけほっとした顔をした。
その表情が、綾瀬には以前アダルトビデオで見た女優の、絶頂直後の顔を思わせた。説明のつかない色気があった。
少なくとも、綾瀬にはそう見えた。
「あ、し…しん、じ?」
困惑した顔で宮藤が近づいてくる。そこで綾瀬は気がついた。
ズボンの中に熱い液体が勢いよくあふれ始め、布の内側で吸いきれない水分が、綾瀬自身にしか聞こえないくぐもった音を立てた。
(アッ……よごれ……っ!)
綾瀬は咄嗟にズボンへ手をかけた。もう止められない。濡れた下着からどうにか引き出し、そのまま地面へ向ける。
「はあ~っ!」
綾瀬は大きく深呼吸しながら解放感に声を漏らした。ばちゃばちゃと尿がアスファルトに当たる音が周囲に響き、綾瀬自身も膀胱が空っぽになるまで排尿を終えた。
「し……信二……」
宮藤が申し訳なさそうにつぶやいた。すらっとした体型の宮藤がよちよちとひよこのように綾瀬の元に歩み寄ってくる。
その姿に思うところもあったが、宮藤の惨状を見て、すっと頭に冷たいものが落ちてくる。
「……とりあえず後ろ。きがえよ」
恥ずかしそうな顔をする宮藤を見て、綾瀬は運転席の扉を閉めた。お互いの全身が電灯の下にあらわになる。宮藤は目を丸くして目をそらした。しばらく何も言わずに、頬をポリポリと掻いた後、綾瀬へと近づく。
「……あのさ、はやくしまいなよ……」
「ああ、わりい」
綾瀬は出したままだったものを、ぐっしょり濡れた下着へ戻した。その後はすぐに宮藤へ手招きをして、後部座席のドアを開けた。
下半身を濡らした男二人が、揃って後部座席へ潜り込む。
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