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一生続けてよ、心理学概論

 年末年始は実家に帰省していた。  帰省といっても県内だけど。優くんも、大学もバイトも休みだから帰省すると言っていたし、何となく俺も。    実家に着く前に、近くの花屋に寄った。何の花を買おうか一瞬迷ったけど、店で目についたものを何本か選んだ。優くんのお店に通いまくっているおかげで、花を見繕うというスキルが身についていることに気がついた。    母さんは「朝陽が花⁈ 気持ち悪!」と最低な一言を吐きながらも、顔が綻んでいるのが分かった。やっぱり花の力ってすごいな。  「気持ち悪いってなんだよ」と笑って返すと、「いやぁ、でもありがとうね。もしかして恋人の影響?」と悪ガキのような顔をしている母さんも嬉しそうだった。  「まぁ、そんな感じ」とぶっきらぼうに返すと、「いつか連れてきてね」と言ってくれた。  二週間の冬休み、去年はあっという間だったはずなのに、今年はやたら長く感じた。    優くんにこんなに会えないのは初めてのことで、地元の友達と飲んでいても、気づいたらいつも優くんからの連絡を待っていた。  俺の中で、優くんの存在がこんなにも大きくなっていたのか……そんなことを実感した冬休みだった。    休み明けの『心理学概論』を待っていられなかった。まぁ、明日の二限なんだけど。  月曜日の朝、講義前に優くんのバイト先の花屋に寄った。  エプロンを着て、開店準備をする愛おしすぎる姿があった。   「優くん、あけましておめでとうございます」 「あ、竹内くん、おはよう。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」    ふふっと笑いながら、丁寧すぎる挨拶をしてくれた。   「忙しいときにすみません、挨拶だけでもと思って寄っちゃいました」 「全然だよ、わざわざありがとう。お土産、明日渡すね」 「え! 嬉しい。俺もお土産あるのでお楽しみに」 「うん、じゃあ明日ね」 「はい、また明日。バイト頑張ってください」    そう言って俺は店をあとにし、大学へ向かった。    クリスマスに手を繋いで以来の再会だった。気まずくなくて安心したけど、優くんは至っていつも通りで、それはそれで不安になった。    やっぱ、好きなのって俺だけ?    朝から会えて嬉しいはずなのに、一日中悶々としてしまった。  翌日、昨日からの不安な気持ちは消えなかった。  暗い顔になってないか、一応意識しながら教室に入った。    今日は優くんの方が先に席に着いていた。レジュメに目を通している優くんに、   「おはようございます」と声をかけると、顔を上げ、「おはよう、竹内くん」と、パッと笑顔が咲いた。    その笑顔を見た瞬間、不安は隅っこで縮こまった。   これなんだよ、いつもこの笑顔見たら全部どうでもよくなる。どうでもよくはないけど、なんというか、今を大事にしようという気になる。    講義は残り五分、俺の脳内ではすでに優くんと学食へ行っていた。  そんな時、教授は学生たちの注意を促すように「皆さんにお知らせします」と、いつもより大きな声で話し始めた。  「この講義なんですが、諸事情により次週が最終となります。次週、期末考査の課題を提示しますので必ず出席してください」という内容だった。    ……マジかよ。終わった。  優くんと毎週、合法的に会える場所がなくなる。 「そうなんだー。かなり回数少ないよね。……って、おーい? 竹内くん?」    俺は、絶望のなかにいた。どうしよう、来週以降の未来が途絶えた……。   「あ、はい……そうですね……少なすぎっすね」 「ね、面白かったのに、残念」  と少し口を尖らせたのも束の間、  「まぁ、仕方ないかっ」と、すんなり受け入れた優くん。    もっと寂しがってほしかった。『毎週ここに来るのが楽しみになったんだよね』って言ってたじゃないか! 俺の顔はきっと分かりやすく拗ねていたんだろう。    優くんは「ねぇ、なになに?」と茶化すように笑っていた。 「なんでもないです! 学食行きましょう。席なくなっちゃう」    誤魔化すように、目を合わせず早口で言った。  学食で昼食を済ませ、中庭のベンチでお土産交換をすることになった。    優くんは「ど定番だけど……えびせんでーす」  と袋を両手で、すっと差し出してくれた。  ど定番だとは知らなかったけど、何となくその県のイメージがあった。   「えびせんめっちゃ好きです、ありがとうございます。じゃあ、俺からはこれです」と袋を手渡すと、優くんはワクワクした顔で「見ていーい?」と聞いてから、外袋から中身を取り出す。   「わぁ! 可愛い!」と目を丸くして喜んでくれた。   「姪っ子たちと水族館行ってきて、そこで買いました」    俺がお土産として渡したのは、海の生き物たちの可愛らしいイラストが転写されたマシュマロ。   「そういえば、お姉さんいるって言ってたもんね。姪っ子さんいくつ?」 「もうすぐ四歳です。めちゃくちゃませてるんですけど、可愛いです」 「いいなー。僕は一人っ子だし、親戚の中でも一番下で、実家帰るとまだ子供扱いされるんだよ」と少しぷくっと頬を膨らませた。かわいい。子供のときからずっとこんな調子で可愛いまま、成長したんだろうな。   「でも、両親と友達に久しぶりに会えて良い時間だったな」と冬休みを振り返る優くん。   「よかったっすね! たまには親にも顔見せないとですよね。……そういえば、優くんは就職こっちでするんですか? 地元?」 「こっちだよ。そういえば、就活の話とか全くしてなかったもんね」 「いつ決まったんですか?」 「十二月中旬ごろだったかな。すごく悩んでね、内定先には結構待っててもらったんだけど……」    悩んでたなんて、全然知らなかったな。その頃の俺は、どうやって優くんのクリスマスを勝ち取るか、それしか考えてなかった。    でも、こっちで就職すると聞いて、俺は心底安心した。  同じ地域に住んでいれば、会おうと思えばいつだって会える。    ——会おうと思えば……?    一方通行の気持ちじゃ、成立しない仮定じゃね。    どうすんの、来週以降。

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