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第20話 祭りの光と影
光の川に目を奪われたのは少年宦官だけではなかった。
帝もまた。
色とりどりの灯篭が流されていく。
帝は位の低い皇子の頃に何度かお忍びで、祭りを見に行ったが、その時はこの光の川にこんなにも圧倒されたりはしなかった。
「なんて綺麗なんでしょう。ああ、素敵」
はしゃぐ少年宦官の声が透き通る。
少女の声よりも透る、その声も、少女にしては背の高いその身体も。
長い手足が踊るように動くのも。
それら全てが帝に魔法をかけていた。
世界が美しいと思えてしまうように。
そんなはずはないのに。
帝は黙って、少年宦官の腰を支え、落ちないようにして、祭りのために造られた川の桟橋から灯篭を流すのを手伝ってやった。
願いを込めて、人々は灯篭を流す。
「何を願った?」
帝は聞いてしまった。
愛玩品にまで堕とされ、寝所と小さな空しかない庭に閉じ込められた少年宦官が望むものなど、知らない方が良いとわかっているのに。
自由?
それとも、もう生きなくても良いこと?
どの道、その願いのどこにも帝がいるべきでは無い、とわかってた。
大将軍の愛玩宦官ならば、自由になることよりも、本当に叶うならば、大将軍と出会わなかったのとを願うだろう。
あの抱いて楽しんだ侯爵家の愛玩宦官ならば、愛玩宦官にならずにすんだ世界線を望むだろう。
愛玩宦官達には未来などない。
身体すら変えられ、身分を剥ぎ取られて。
過去を変えられることならば望むだろうが、それが無い彼らにもう、願いはない。
せめて。
主人を死ぬ前に殺したい、くらいの願いはあるだろうけども。
「来年も祭りに連れて行って下さるといいなと」
少年宦官が簡単に言ったから、帝は言葉を失った。
「オレがか?」
帝の声は震えてたかもしれない。
少年宦官は遠ざかる灯篭を見つめるのに夢中で、気付かない。
「はい?」
聞こえなかったらしい。
祭りの興奮で少年宦官は自分が何を言ってるのかもわかってない。
本来なら主人相手に何かを望むことすら不相応だとわかっているのに。
祭りの光と、帝の姿がいつもと違うことが、少年宦官の常に張り詰めてた心を緩めていた。
「幸せです。なんて綺麗なんでしょう」
少年宦官はまた笑った。
帝は少年宦官を抱き寄せていた。
ただ、そっと。
二人は黙って光の川をみていた。
「来年も連れてきてやる」
帝は言った。
少年宦官の望む未来に自分がいた事がこれ程までに嬉しいとは思わなかった。
何も望めない立場の愛玩宦官が、ただ祭りにまた来ることを夢見だけだとしても、少年宦官の手を引く自分がそこにいたことが嬉しすぎた。
少年宦官は夢見るように光を見つめていた。
何も聞こえなかったとしても。
帝にはこの瞬間が美しすぎた。
世界が美しくみえた。
そんな訳がないのに。
あるはずがない。
ないのだ。
光の中に立つ二人を。
闇から見ているモノがいた。
「あれは」
軋むような声だった。
少年宦官の少女のような姿。
あの眼差し、横顔、唇のカタチ。
細い首、淡い髪の色。
踊るように動く手の指のしなやかさ。
色とりどりの灯篭のあかりに照らされて、浮かび上がるように闇に花咲く、少年宦官の姿を、食い入るようにそれは見ていた。
それは侯爵だった。
「ご主人様・・・もうお許し・・・くだ・・」
そう泣く愛玩宦官をまた激しく突き上げて、痙攣させた。
祭りで華やぐ桟橋の光とは別に、桟橋の傍の橋の下の闇では淫らな光景が繰り広げられていた。
祭りの客相手に娼婦や男娼が客の相手をしていた。
最下層の、普段ならば宿にも泊まらず路地裏で立ったまま抱かれる連中が、祭りで客を漁ってここで金を稼いでいる。
淫らな声が聞こえ、はだけた身体があちこちで繋がりあっているのが暗闇に微かに見える。
祭りのもうひとつの顔だ。
町の娼館も今日は賑わっているだろう。
男達が快楽に狂う日でもある。
だが、この暗がりの中でまさか侯爵が、自分の愛玩宦官を犯しているとは誰も思わないだろう。
娼館で高級娼婦でも高級男娼でもいくらでも買える侯爵が、なんなら豪華な屋敷で美しい側室でも妾でも抱ける侯爵がこんな暗がりで、下層の民に混じり、高級品である愛玩宦官を犯していた。
街娼たちでさえ、はだけはしても服を着てるのに、愛玩宦官は全裸に剥かれ、それを服を着たままの侯爵が犯していた。
橋の柱に手をつかされ、暗がりの中でも白く浮かび上がる身体を何度もそらし、突き上げられ、それでも何度も達していた。
暗がりの向こうには、明るい光と灯篭流しに興じる人々がいる。
その光景が見える、一番明かりに近い場所で愛玩宦官は侯爵に犯されていた。
愛玩宦官は泣いていた。
愛玩宦官達は皆、裸を主人以外に見られることを嫌う。
その切断面を誰にも見せたくないのだ。
暗がりでハッキリとは見えなくても、こうされてることは屈辱だった。
「あまり声を出すと見られるぞ、ここを見られたくないのだろ?」
後ろから貫きながら、切断面を指でなぞり侯爵は何度も囁いてきたのだ。
一応侯爵の手で覆い隠してはくれている。
金持ち貴族が子飼いの少年を、野外で犯す遊びをしている、と見ていてる者は思うだろう。
そういう良くない遊びは、確かに祭りの夜には良くあって、貴族が祭りに連れて行った愛妾に【お仕置】 としてそうしているのは、祭りの暗黒面ではあった。
でも、貴重品である愛玩宦官をまさか高位の侯爵がここで犯しているのとは誰も思わないだろう。
「お前は誰とでもして、どこででも乱れる、いやらしい身体なんだ。だからこうしてやる。」
侯爵はまた、愛玩宦官が帝に抱かれたことを罰するためにそうしていたのだった。
そうされても感じるしかない身体にさらに侯爵は苛虐した。
「ここも色んな人に見てもらい、なんなら舐めてもらうか?」
切断面を指でなぞりながら言い、泣いて許しをこう愛玩宦官を責め立てていた侯爵は、その時、見てしまったのだった。
暗がりから。
虐めるのに夢中だったはずなのに。
遠く離れたソレがまるで近くのように目に飛び混んできた。
桟橋にいるソレ。
その花のようなソレ、は父親の下で淫らに喘いでいたアレに似ていた。
あまりにも。
今後ろから貫き犯し罰している人形とも。
汚れてない、自分だけのモノにするはずだった、アレとも似ていた。
まだ幼い【弟】だったモノにも。
抱いてる人形が痙攣し、中を締め付け、それが心地良くて呻いたが、目はそこから離せなかった。
長く探し続けていると、目は自動的に探し続けたものを見つけ克明に写し出すのだと、侯爵は知った。
くるりと踊るように動き、父親の【いやらしい道具】とも【弟】とも【人形】とも違って、ソレは綻ぶように笑っていた。
その軽やかさと鮮やかさに目を奪われた。
人形の首を締めながら達した。
これ程欲しいことはなくて。
人形の中でそれが動きになった。
おゆるし
おゆるし
ああっ
ああっ
人に見られることを恐れ、あれほどまでに声を殺してた人形がもう止められなくなっていた。
侯爵は困ったように、ずっと後ろで控えてた護衛達に声をかけた。
そう、彼らは離れることすら許されてなかったのだ。
まだ痙攣する愛玩宦官の中で動きながら。
「あれを調べろ。どこの誰かを」
指さした。
花のような少年宦官は、後ろ姿しか分からない貴族の男に連れられていた。
二人は川辺を離れようとしていた。
逃がせなかった。
護衛の一人が音もなく消えた。
侯爵は、また突き上げはじめる。
「 」
弟の名前を呼んだ。
「女になっていたのか。見つからないはずだ」
確信していた。
今度は優しく動き始めた。
細い首筋に優しく唇を落とす。
弟の身代わりとして、愛玩宦官を使い始める。
「 」
「 」
優しく何度も名前を呼んで、中に入ったまま、萎えることのないそこを使って鎮めようとする。
ああ。
探した。
やっとやっと。
手に入れる。
囁きながら、優しく優しく腰を使った。
弟にそうしてやろうと思っていた通りに。
突然与えられた優しさに愛玩宦官は壊れたように感じ切り、もう声を殺すことも出来なくなっていた。
ゆるし
ゆるし
ああっ!!!
透き通る声が闇に響いた。
他の嬌声よりも浅ましい闇の中でそれは響いた。
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