19 / 55
第19話 月曜日2
「ひどい」
恨みがましい目で見つめられてはいるが、まったく怖さを感じられず、笑ってしまった。
「悪い」
「ひどい」
「悪かった」
「嫌だ、許さない」
ティッシュを取って拭ってやると、薄い体が大きく跳ねる。
「着替え、手伝ってやろうか」
「いらない」
でもそこにかかってる制服は取ってほしいと、シェルフを指差された。
ベッドの上に置いてやると、唇を尖らせて、小さくアリガトウと一言。
「あと10分で車が来るぞ。本当に学校に行けるんだな?」
「行けるよ!」
誰のせいであと10分になったんだよ…! と叫ぶ声を後ろに、にやけながらドアを閉めた。
そうだ、聞かなければならないことが、と再度ドアを開ける。
ぎょっとした顔の木之内に、洗濯機の使い方を教えてくれと聞いた。
「…なんで?」
「昨日の後始末をしたタオルを洗いたい」
木之内の顔が、爆発でもしたかと言いたくなるくらいに真っ赤っかになった。
「あとで、回すから、いいよ…!」
「了解」
ドアの向こうから、あああ…と困惑する声が漏れてくる。
笑いを堪えるのが大変つらい。腹が痛い。
無かったことにするのは惜しい、と思ったのは確かだ。
しかし、そもそも合意の行いではなかったし、むしろ責められるだろうと腹を括って朝を迎えたのだが、この展開は想像してなかった。
無かったことにしたい気持ちも当然理解できる。
真面目そうな木之内には、到底受け入れられない大事件だろうから。
泣き言が続く。
「階段がつらい」
「そうみたいだな」
「足が上がらない」
「抱き上げようか」
「謹んで辞退する」
木之内が牛歩で教室に入ると同時に、予鈴が鳴った。
「夏伊、むっちゃん、おはよ!」
ヒロがニコニコと近づいてくる。
「おはよ。昨日はありがとう」
木之内がジュース代を渡すと、どういたしましてとまた笑った。
「夏伊、ありがとね」
「おう、問題ない」
もう至って元気だろと、木之内の腰をトンと叩いたら、スローモーションのようなスピードで、木之内がへたり込んだ。
あ、やってしまった。
「……」
顔は見えないが、明らかに怒っている。
近くの席の子に断って、天板に手をつきながら、木之内が立ち上がった。
「そう、至って元気。大丈夫」
そのまま自席に向かう。
その様子を二人で追っていた。
「むっちゃんに何かした…?」
めちゃくちゃ怒ってない…? とヒロが恐怖に震える。
「何もしていない」
事になっている。
「ホントかね…」
そのツッコミは無視して、夏伊も自分の席に着いた。
車に乗っていくかと提案したが、バスで帰ると言われた。
じゃあ帰ったら連絡をと言うと、何で、と憎まれ口を叩きかけてから、そうだよね、と返される。
木之内は元来、素直な性格なのだろう。夏伊が気にかけていることも、理解している。
分かったと小さく応えて、帰っていった。
「夏伊、今日は?」
にやけながらクラスメイトに予定を聞かれて答える。
「待ち合わせてる」
「マジで相手に事欠かないねー」
「茶化すなよ。また明日」
駅まで車に乗って、電車に乗った。
ともだちにシェアしよう!

