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第22話 雨の火曜日1 ★

 今日は家を出るのが遅くなってしまった。しかも梅雨空で車の台数が多く、道路がなかなか動かずに、夏伊が教室に着いたのは、予鈴が鳴る直前だった。  バスも遅れていたようで、その後も続々と生徒が登校する姿が見られる。  前の席は、昨日から空いていた。今日、もう1本後のバスに乗っているのかもしれない。  そう思っていたが、1時間目が始まっても木之内は登校しなかった。  本降りの雨が窓を叩きつける。  2時間目になっても来ないので、メッセージを送ってみた。 「風邪を引いたからやすむ」  最後が平仮名なのは、変換ミスなのかつらいのか。 「見舞いに行こうか」 「だいじょうぶ」  そうか、と3時間目の授業を受けて、休み時間にスマホを見る。 「だいじょばない」  思わず立ち上がった。 「夏伊?」  周りに集まっていたクラスメイトが、次々に声をかけるが、荷物を詰めるのを優先した。 「今日は帰る」  金曜に雨に降られた結果、週末を通して寝込んでいる。  風邪はほとんどなってきたけれど、それとは別の厄介なことが起きていた。  香月からメッセージが来て、つい泣き言を送ってしまった。  返信は来なくてしょげそうになったけど、授業中だと気づいて、また微睡む。そうすると、また体がふわふわとして、熱くなる。  今朝からずっとこれに悩まされていた。  先週は気が乗らなくて抜いてなくて、そのまま風邪を引いたのがいけなかったのか、変な波が体を責め続ける。  何度も息絶え絶えになっているのに、達することができなくて、ずっと膝を擦り合わせてこらえるしか術がない。  泣きながら香月に擦り寄る想像をして、はっと目を覚ます。 「だいじょばない」なんて送るなんて。想像のまんまじゃないか。  大体授業があるのに、そんな言葉を送るなんて。  メッセージを取り消そうとスマホを持ったら、ちょうど電話かかかってきて、通話ボタンを押してしまった。 「あ」 「木之内?」  香月だ…。  その声でまた、出してないのに達したように体が震える。 「……ッ」 「…木之内?」  怪訝そうな声。 「もう…大丈夫。さっきは…ゴメン。気に……しないで……」 「大丈夫じゃないのは分かってる。いま家に向かってるから、欲しいものを教えろ」 「……欲しい……もの……」  香月ですと言えたらいいのだけど、それはさすがにナシだ。 「無糖の…アイスティーと…」 「うん」 「ハーゲンダッツの…イチゴと…」 「うん」 「……」 「……」 「…うっ」 「……」  涙が止まらない。こらえられない嗚咽を、香月が黙って聞いている。 「ひっ、う、う…」 「……他には、何が欲しい?」 「こ……」 「こ?」 「……コンドーム……」  決死の覚悟で発した割には、か細い声しか出なかった。  言ってしまってすぐ、うそうそと被せる。こんなの、聞こえてなくていいと思う。  でも泣いてしまう。 「…木之内」  香月が真剣そうな声を出すから、慌ててウソだよと言う。冗談だから。  無かったことにしただろうと怒られると思った。なのに香月は優しい。 「よく言えたな。すぐに行くから」  それで安心して、わっと泣き出してしまった。

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