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第2話 金曜日2

「ご無沙汰しています、仁志(ひとし)伯父さん、:茜(あかね)伯母さん」  今日はありがとうございますと挨拶をして席に着くと、二人がにこやかな笑みを向けた。 「夏伊さん、お久しぶり。元気そうで何よりよ」 「はい」 「お鼻は大丈夫? 入院がお誕生日にかかるなんて、大変ねえ」 「はい」 「エレナさんは今年も来ないのか。満(みちる)といい、子供の誕生日も祝えんとは、どうなっているのか」  伯父がため息をつく。 「父のところには姉がいますから。それに母も、このところ具合がよくなってきたようです」  そんな事はない。母は今も変わらず部屋に閉じこもっている。それは伯父も分かっているので、深掘りはしてこなかった。  都心のホテルに併設されたレストラン。敷地には、立地からは想像できないくらいに多様な緑がデザインされていることがよくわかる。  おもてなしに特化した美しさに騒音は似合わない。セミの鳴き声も聞こえない空間に、やや違和感を覚えた。  正直、誕生日を祝って貰いたいとは思っていなかった。平日のディナーも休日のランチも辞退した結果、今年はアフタヌーンティーの約束になった次第だ。  伯父夫婦には世話になっているが、小言ばかりで息が詰まる。進路の話をし、サンドイッチを食べてから、伯父が口を開く。 「ところで、夏伊。最近遊びが過ぎているんじゃないか?」  使用人から話を聞いているぞ、と続く。 「若いのだとは思うが、家のこともあるのだから」  伯母が困り顔で頷く。 「エレナさんも、そういったところが注意できればいいのよね。夏伊さん、寂しいのよね」  夏伊は心中穏やかでないものの、顔にはおくびにも出さず、サンドイッチを一口食べた。  寂しいからセックスしている訳ではない。根本的に道筋が違う。  善き道を知る前の子どもは、実体験を物差しにて正しさを測るほかない。これはただ単に、夏伊の物差しが、ひどく歪んでいるだけだ。  それを実感したのが春だった。睦月を半ば強引に手に入れた途端、己の歪な扉の前に立たされたように思った。それをまだ処理できていない。代わりに、セフレと体を重ねている。  庭園を鳥が飛んでいく。  なんとなく、休みの間に、睦月に会えたらいいと思った。  ヒロが連絡してきたので、うちに来てもらった。 「急にごめんね、むっちゃん」 「いいんだよ。でも、そんなこともあるんだね」  麦茶を出す。  ヒロは夕方から、夏伊の家で勉強する約束をしていたらしい。でも夏伊は帰宅していなくて、近くに住んでいる睦月に連絡してきた次第だ。  約束を忘れたのか、連絡をできていないのか。どちらにしても、しっかり者の夏伊には珍しいことだと言っていた。 「|麗《れい》さん、すみませーん」 「いいよー、気にしないで。もうすぐ唐揚げできるからね」  いきなり母のファーストネームを聞くヒロは強いなと思った。お金持ちの家の人はそんなものなのかもしれないな…。おばちゃーんなどと呼んだりはしないか…。  そんなことを思い巡らしていることは露知らず、当のヒロは本棚を眺めて、おおーとかわーとか歓声を上げて、キッチンでは、油がカラカラと気持ち良い音を立てる。  青じそドレッシングを和えた、大根とにんじんのピーラーサラダに、唐揚げのトッピングにする白髪ネギだれをテーブルに出した。それに、山形のだしを乗せた冷奴。  少しは涼しくなったかなと、リビングのサッシを開ける。  ふと外を見たら、覚えのある人が歩いていた。 「あれ? 夏伊!」  ぴた、と歩みが止まる。  手を振ったら、「睦月」と声が聞こえてきた。 「よかったら夕飯食べていかない? ヒロもいるよ」 「ヒロ? あっ」  ヒロが後ろから声を出す。 「夏伊こんにゃろー、許す! 上がってきて!」  ついでに母さんもベランダに出てきた。 「唐揚げ好きー? よかったら上がってー」  ぺこ、と頭を下げて、夏伊がエントランスに向かっていった。

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