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第4話 春3
図書館の閉館時刻になり、プレートを『閉館』に換える。
そのまま鍵を閉めてそそくさと職員室に行こうとしたら、「話を忘れたのか」と声がした。
「…か、夏伊」
「鍵を開けろ」
「話ならその辺りで」
「セックスの話を聞かれてもいいのか」
鍵を奪われて開錠される。
「入れ」
明らかに怒っている。
仕方なく、中に戻った。
「あのサイトを見ていた理由は?」
「尋問じゃん…」
「そうだよ。答えろ」
夏伊が椅子にどっかりと座って、睦月に鋭い目を向ける。
渋々、向かいの椅子にちんまりとかけた。
「……セ、ックスの…相手、を…探そうと…」
「これまでにそういう相手と会ったことは?」
「な、ないです…」
「本当に?」
「はい…」
つい、敬体で答えてしまう。
はあ、と一息吐いてから、夏伊が口を開いた。
「出会い系で相手を探すのは止めろ。悪い奴ばかりとは言わない。けど、お前みたいなのを食い物にする奴だって混じってる。個人情報もすぐには追えない。病気を移されたらどうする? 怪我させられたら? 暴言を吐く奴もいるぞ。それが無くても、体の相性が合わなかったら? 止めます帰りますって言えるのか? 一人で逃げられるのか?」
「…さすが、場数を踏んだ男は想像力が違うね」
「俺は本気で言ってるぞ」
「…ごめんなさい」
まったく。頭が痛い。夏伊は心中では、立花 清風 の一件があったのに何を考えているんだ、変なことに足を突っ込むとはどういう事だと思っているし、これだから勉強ができる馬鹿はタチが悪いんだと睦月を罵ってすらいる。あの一件については、知らぬ存ぜぬに徹すると決めたので口には出さないが。
「…せめて、それならプロに相手してもらえと言いたいところだが、お前の香りは強いからな」
「……」
夏伊の目が、睦月を見据える。
「…あの雪の日、俺たちが何をしたのかを、お前の口から言え」
胸がバクンと鳴った。
「何も、していないけど」
「隠し事ができないのは好意的に捉えよう。問題は何を隠しているかだ」
「何もしてないって」
「俺はその後の記憶がない。気づいたら家にいて、熱を出して寝込んだ」
「じゃあ熱で忘れてるんじゃないの? 夏伊は普通に家に帰ったんだよ」
「それは俺も思った。告白の同意を得た記憶もないし、振られて帰って、雪で冷えて熱を出して忘れただけだって」
一息ついて、小さな声が発せられる。
「俺は、お前を手ひどく抱かなったかを心配してる」
「えっ」
夏伊の目が、西日が刺す窓を見つめた。明るい色の瞳が、光を受けて煌めいた。
記憶が丸々抜けるなんて、いくら何でもありえない。熱を出すくらい、香りにひどく酔ったことはわかった。
記憶がない間に、酷く扱ったのではないか。辛い思いをさせなかったか。
「……」
夏伊は、本当に優しい奴だな…と、しみじみ思った。
「その心配は、しなくていいよ。そんな風にはされなかったから」
「という事は、セックスはしたんだな」
「え?」
「なにが“何もしてない”だ?」
「いや、あの」
話が違う。
椅子をこちらに寄せて、夏伊が座り直した。
「告白して、セックスして、何も支障がなかったのなら、俺たちの関係は何だ? 少なくとも“ただの友達”じゃないだろう?」
ふいに眼光が鋭く走る。しばらくの沈黙ののち、そうだ、思い出したぞという恐怖のワード。
「睦月、お前、朝になって俺を引っ張って家まで送って行ったな。朦朧とした俺にただの友達だと刷り込んで、何ヶ月も過ごして、そのくせあんなサイトを見て。一体どういう魂胆だ? 説明しろ」
「………帰るね」
立ち上がろうとしたのを、肩を掴まれて力づくで着席させられる。
「隠し事を今すぐ言え。言うまで家には帰さない」
学校が閉まるまでに言わなかったら、俺の家に連れて帰る。吐くまで何日でも監禁するからな、とまで詰められる。睦月は言わない心づもりというより、恐怖で体が固まってしまった。
決死の思いで口を開く。
「い…言わない」
「隠し事があるんだな」
「ない…」
「あるだろ。睦月、俺たちは困り事を一緒に解決してきた仲だろ。黙っていても現状は変わらない。二人で考えよう」
「……」
「睦月」
「………」
「…睦月、せめて、返事を聞かせてくれ。お前を好きなままでいて、いいのか」
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