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第10話

短編 小さな助手の内緒話 「よいしょ……」 アシェが両手で大事に抱えていた木箱を、古道具屋の店頭にそっと下ろした。 「重かっただろう。助かった」 アシェは額に薄く汗をかいて、やり遂げたような顔でこちらを見上げてくる。木箱を下ろし、その頭を軽く撫でてやると、アシェは嬉しそうに目を細めた。 「ヴァルドさんのが重いよ」 「そうでもない。店主、約束の品を持ってきたぞ!」 先日捕まえた盗賊の盗品の中に、街の古道具屋の品が複数紛れていることがわかった。今日はその品を店主に届けるため、店を訪れている。今回は、大事な品を運ぶ助手としてアシェにもついてきてもらっている。盗品をリストと照らし合わせる手伝いをしてくれたのも、この小さな助手だ。 「おお、これはこれは。騎士団長さんに、可愛い助手さんまで!」 店の奥から、白髭の店主が顔を出した。 届けた盗品を確認しながら、店主は何度も頭を下げる。 「いやあ、助かりました。盗まれた時はもう戻らないとばかり……ありがとうございます。そうだ、小さな助手さん。奥にガラスケースがある。そこから一つ好きなものを選んで持っていきなさい」 「えっ、いいの……?」 アシェがぱあっと顔を輝かせ、俺の顔を窺うように見てくる。 「……店主の厚意だ。甘えておけ。オレは最終的な書類の確認をしてくる」 「うん! ヴァルドさんに似合う物、探してくるね」 「オレのじゃなくていい」  自分の好きな物を探して欲しいんだがな。アシェは嬉しそうに目を輝かせて、小道具屋の中へ向かった。 「第三騎士団の雰囲気が和やかになったと聞きましてね。あの子のおかげですかな?」 「……」 「おっと。失言でしたか……」 「いや。その通りだと思ってな。……さて、余談が過ぎたな。この書類の内容に間違いがなければ、ここにサインを――」     「物がたくさんだ……」 小道具屋の中は外から見るより広くて、たくさんの品物が置かれている。色とりどりの小瓶に、古い海図、怖い顔のお面に剥製まで置いてある。怖い顔のお面はヴァルドさんの部屋に置いてあったら、眠れなくなりそうだ。部屋にあることを想像して、ぷるぷると顔を横に振ってからもう少し奥へと進んだ。机の上には、羽ペンにインクスタンド、文鎮も置いてある。執務室に置いてあるものとよく似ている。 「これかな……?」 小さなガラスケースにはいくつものブローチが飾られていた。その中でも目を引いたのは、羽根のデザイン。かっこいいヴァルドさんに似合いそうだ。店主さんに伝えてみよう。ヴァルドさん達の元に戻ろうとしたところで、ふと古い書物が目に入る。 「本もあるんだ!」 三冊の見たことのないタイトルに胸を躍らせる。一つは背表紙に何かマークが書かれている。見たことがあるような気がするけど……。 「どんな本だろう。ちょっとだけ、見てもいいかな」 マークが書かれている本を手に取ってみる。本読むの、大好き。本を読んでいたおかげで、ぼくは嫌なことを忘れることができたんだ。 ヴァルドさんもこの本を気に入ってくれたら、一緒に読んで、面白かったところをお話しできるかもしれない。わくわくしながらぱらりと本をめくってみる。するとそこには―― 「え、……わわっ!」 密着した男の人同士の挿絵が飛び込んできた。泣いている男の子が、がっしりした身体の男の人に抱きしめられている。服は、着ていない。めくってもめくっても、出てくる挿絵は似たようなものばかりだ。もっと説明できないようなものばかりで、顔が熱くなり、頭から湯気が出てくる感覚がした。たまらず本を閉じる。これをヴァルドさんと一緒に読もうとしていたなんて……。背表紙に書いてあるこのマーク、思い出した。これは―― 「いいの見つかったかな?」 「ひゃ、わぁっ!」 店主さんだ。思わず本を後ろ手に隠す。これはぼくがまだ見ちゃダメなものだ。背表紙のマークは年齢制限のマーク。十五歳にならないとだめなもの。悪い子でごめんなさい……。 「驚かせてしまったかい?」 「あ、いえ……ぼく……」 本のことはなんだか恥ずかしくなって伝えることは出来なかった。店主さんに再び欲しい物を聞かれて、羽根のブローチを指さす。ヴァルドさんに似合いそうだ。 「よしよし。構わんよ。今つけてみるかい?」 「ううん。ヴァルドさんに、似合うと思うから……」 「アシェ、オレのじゃなくていい。自分が好きな物を選んでくれ」 ヴァルドさんが遠くから顔を出していた。なんとなく恥ずかしくなってうつむいてしまう。 「騎士団長さんにはちゃんと国から金がいくからいいんだよ」 「店主……」 ヴァルドさんは呆れたようにため息をつく。店主さんはガラスケースから羽根のブローチを出して、ぼくの胸元につけてくれる。 「話は聞いたよ。君も盗品を照らし合わせるのを手伝ってくれたんだってな。立派な騎士団の助手さんだ」 「あ、ありがとうございます……」 胸元に羽根のブローチがきらりと輝いていた。本のことは一旦忘れよう。心の中でごめんなさいと謝る。十五歳になってからちゃんと勉強しよう……。       アシェはふらふらと顔を赤くしたまま、入口の方へと向かっていた。アシェの様子がおかしかったな。何か隠しているようだったが……。ふと成人マークのついた書物が目に入る。 本好きのアシェだ。本を見つけたら何であろうと中身を確認するだろうな。一冊手に取り、ぱらりと本をめくる。 「これが原因か」 「あぁ。それも高値で売れるんですよ。あまり手に入らない品物で。貴重な品なんです」 「ちゃんと管理しておいてくれ」 こんなところに子供が来ることは想定していなかっただろうな。店主は首を傾げている。 この国では、性別を問わず愛し合い、添い遂げることは珍しくない。法的にも等しく認められている。しかし―― 「アシェにはまだ早い」 まだ、五年待たないといけないんだからな。       胸元に輝く羽根ブローチ。見ていたら元気が湧いてくる。かっこよくなった気分だ。 「羽根ブローチ、似合うな」 「えへへ。ヴァルドさんに似合うって思ったんだけどな」 「他に良いものはあったか?」 どきり。ヴァルドさんにはもしかしてバレているのかな……。 「な、何にもないよ。うぅ……」 ヴァルドさんはくすりと笑った。もしバレていたなら、意地悪だ。また顔が一段と熱くなる。五年経ったらあの本の話をしよう。 その時は最後のページの二人は、幸せそうに笑っていたことを伝えるんだ。

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