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其の壱※

はぁ、この屋敷の主、螢夜(けいや)がため息を吐くとぴくりと目の前の桃色の耳と複数に割れた尻尾が揺れ動いた。 「はぁ…」 「螢夜、どうしたんだい」 二度目のため息を吐くと、桃色が言葉を発した。 カンッと長い煙管を箱に当てると綺麗に中身は落ちる。 彼はどうやら人でないようで、すらりと伸びた爪を螢夜に向けた。 「指を、ささないでくれるか」 「……あぁ、それで?どうしたんだい」 ぷかり、新たな葉に火を点ければ甘いあまい香りはそこに広がり、桃色はそれを深く吸って内を満たした。 「此を見てくれ」 「…それは?」 ふぅー、青鈍色の煙りを吐き出して横目に差し出された物を見れば、ぼろ雑巾がある。 薄紫の布は微かに見覚えがある気はするも、おんぼろに覚えはない。 何をそんなに思い詰めているんだ?螢夜は…なんて正に他人事である。 「それは、も何も、お前の肩掛けだよ」 「……あぁ、私の肩掛けね――‥肩掛けぇ?!」 「そう、お前の」 「……なん、で…人の刃物では切れないはず…っ!まさか…」 「だから、困っているんだろう」 事が始まりは十日前。 螢夜が洗濯物を取り込もうと物干しを訪れた時である。 「え?」 目の前にあったのは着物ではなく、長細い布。 縦に裂かれたそれらは風に揺れ動いた。 夢かと思ったが、見覚えのある柄と確かに干した己の記憶。 そんな日が続いた。螢夜はこんな屋敷にいたずらかと、着物が減るのは困るが放っておいた。 しかし、今朝は少し様子が違った。 一緒に暮らす桃色の狐に言われ肩掛けを干した。 妖狐の羽織る布は特殊な糸で織られている為、人の世にある刃物では傷を付けることは愚か燃やすことも出来ない。 ―――筈だった。 それがしかし、目の前にあるのはぼろ雑巾。 「……鎌鼬であろう」 「かまいたち?」 「……あぁ、三匹で行動する遊び好きな妖怪よ」 「ふぅーん。近頃の此はそいつらの仕業か」 呑気に返事をやれば、ぴんっと耳を立て人型を忘れ始めた狐が声を荒げた。 「……螢夜!なぜ早くに言わないんだ!!」 咎める気迫の強さにびたりと固まった。 いつもののんびりとした桃色からはとんとかけ離れた形相に、やはりこいつは人ではないのだな。と半分冷静な頭が告げる。 「お前や、私の着物だからまだ良いものの、あやつらは人の魂だって切れるのだぞ?」 人の魂は体と糸で結ばれている。それを切られればいとも容易くあの世に行けるのだと桃色は告げた。 「だが、誰かのいたずらかと思っていたんだ」 「……言い訳は、不要。仕置きが必要だな」 ××× 「ぁっ、ぁァ…」 「……喜ばれては、仕置きの意味がないのだが?」 畳に寝転がる螢夜は、先の薄紫の布で口を閉じぬよう結ばれ、両腕を頭上で、足も正座の形で一本づつ結ばれていた。 特殊な糸で織られている布は、人が触れると花火のように妖気を発し、長い時間触れているのは少々宜しくない。 しかしぼろ雑巾になった今、静電気が走る程度。触れた所が多少赤くなるくらいである。 「……螢夜には、此くらいの方が辛いと思ったが、気持ちよいか?」 はだけた着物から桃色の長い指が侵入し、足の付け根を撫でた。 「ぁあっ…!」 螢夜の首が仰け反り、白い喉が露わになる。 「……此方も、結んでやろう」 取り出した薄紫を足の付け根、螢夜の男性器に蝶結びした。 「はぅうっ!?」 びくり、畳の上で魚のように跳ねて震えた。 「……そうか、此方も良いと。此では仕置きにならないな?」 つつ…緩く持ち上がる男性器を爪の先で撫でながら告げる。 びりびりと熱く痺れる刺激を外側から延々と受け、足してそれを擽る爪先。 「ぅ、ふふぅー!」 謝ろうにも発せぬ言葉を、結ばれて吐き出すことが出来ぬ熱を咽び泣きながら首を振ることで伝える。舌先が薄紫に触れる度にびりびりと痺れ感覚が消えていく。 「……謝って欲しい訳でない。肩掛けくらいいくらでもくれてやる」 薄れる思考の中、言葉にどうして?と螢夜は見つめた。 「……なぜだと思う?」 甘い痺れに震えながらまた首を横に動かす。 てっきり、大事な肩掛けを駄目にしたことを怒っているのかと思っていた。 どうやら違ったらしい。 「……言っただろう?鎌鼬は人の魂も切れる。私の知らない所で死なれては困るんだ」 「…ぁ……」 すっと見つめられ滲む視界を拭われる。 そんなことを思っていたとは知らなかった。ひょんなきっかけで暮らすことになったが、人は嫌いなんだと螢夜は勝手に想像していた。 それだけに早く言わなかったことを少しばかり後悔する。 「……口は、外してやろうか?」 「――ぁ…話しを、しなくて、すまん…」 感覚のない舌と唇でなんとか紡ぐ言葉は、きちんとしているだろうか。 不安に見つめていると、そうだな。一言返ってきた。 目蓋を閉じると涙が横に流れていく。安堵と切なさが入り混じった感情的なもの。 「……いつでも、螢夜の涙は美しいな」 手の甲が目尻を撫でる。 人ではないのだがその温もりに安心を覚えてしまう。 「はぁ…」 「……反省しているみたいだな」 頬を撫でる指に擦りよる螢夜。桃色は此の無意識な行動に心惹かれ、口を寄せた。 ××× 螢夜の基本総受け 固定CP今のところはなし

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