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其の貳
「……螢夜、家の結界が―――ぁ?」
「おっ、ぉぃ!やめっ、ひや!」
自分のかけた結界に歪み感じ、桃色は彼がいるであろう台所へ近寄れば、なにやらよからぬ声が奥から聞こえ、不信に眉を顰め、たんっ!勢い良く襖を開ける。
不信に思う桃色の前には、うずくまり肩を震わせ袖で声を抑える螢夜がいた。
「…螢夜?」
「ぁっ、のきぁ…ふっ、どうかしたのか?」
どうかしているのは自分であろう?そんな目を向けた。
変わらず小さく震えている男に近づくとバッと腕を掴み上げ、引き立たせる。
「ぁっ、ぁ!」
ぼろん、ぼろん、下に落ちていく何か。
もぞもぞそれらは地面で蠢きなにやら騒ぎだす。
(おいっ!見つかったんじゃねえか)
(んー?まだ張れてないよ。だってあの狐だよ?)
(でも、いきなり来たらめいわ―――)
黄色と灰色をした何かは身を寄せている。
桃色はそれを確認すると目を鋭く細め螢夜に訪ねた「これをどうした?」と。
怒りを滲みだす相手に急に身体は強張り冷や汗は流れ、目を彷徨わせる。
どくどく激しい脈拍の中、ごくんと唾を吞み込んで、覚悟を決め相手を見据えた。
「お前の古くからの友人だと言っていたので、中に入れた」
「…螢夜、わかっているか?」
「わっ、わかってる!家へは俺かお前が導かない限り、入れない」
そう。前回の鎌鼬の一件から、桃色が敷地内に結界を張ったのだ。家の主と結界を張った本人が招かない限り妖怪は入れないようにと。
「…螢夜、そのお前がほいほいと招き入れては、意味がないだろう」
「そ、そうだけど…でも…」
ちらり、地面を見るとハッとそれらは話し合いを止め、小さな身体で見上げてきた。
小さく丸く、こんな健気な姿で懇願されては、桃色の名前を言われては、通さない訳にはいかないと思わないか?心の中で呟き、螢夜もまた、彼らと同じく桃色を見上げたら。
「久方ぶりだな!お前が身を寄せていると聞いて遊びに来た」
「……」
「たかやが一人は恥ずかしいからと、連れられた。しかしまぁ、お前の嫁はかなりよい顔をしているな?身体も声も…」
「「!」」
舌舐めずりされ、小さいのに妙な色気があり、途端くらり…眩暈を起こし立っていられなくなる。
桃色が気付いて支えるよう背中側から螢夜に腕を回した。
「すまん」
「おい、螢夜にそれを使うな」
「んー?なんのこと?」
小さな手を頭の後ろで組んでぷい、黄色は余所を向いた。その背中は愉快に揺れている。
「…はぁ。螢夜、大丈夫か?」
すいっ、顎に手をかけ斜め後ろに向けた桃色は顔色を伺い見た。
すると、どうしてだろう。
とろり潤む目元、ゆるり繰り返す熱の籠る呼吸。夜伽の時のような螢夜が出来上がっていた。
「なぁ、知り合いなんだろう?」
「……あぁ」
「折角だから、お茶くらい飲んでいってもらおうよ」
「けいや、よい子だね?」
「ふぁっ…」
不意に大きくなった黄色が着物の合わせから手を差し込み、螢夜の肌を撫でる。
桃色とは違う細身の手にすりり、撫でられるだけで甘い痺れがじわじわ広がっていく。
「おい!」
腕を掴み引っ張り出そうとする桃色だが螢夜が何故か悶えている。
「ぁっ、んんっ…ひっぱら、な…」
「けいやは、少し痛いほうが、気持ちよいのだな?」
着物の中でどうなっているのかわからない。しかし、それがまたいやらしさを膨らませ身体は熱を上げる。
「はっ、んぁ…」
「…ちっ、だからお前らを入れたくなかったんだ」
「ら!?俺は何もしてないだろ!」
未だに小さい灰色は螢夜に負けぬほどに赤くなっていた。目の前で行われているそれに一人恥ずかしさや照れを表していたのだ。
「さっきから静かだと思っていたけど、なんだい?君は生娘か?」
「きむっ…!おれ―――」
「お前ら、もう帰れや!」
「ひゃんっ!」
おさまらない話に、呆れる桃色だった。
×××
螢夜
人であるが、人でないモノも見える。家主。桃色の妖狐と訳あって暮らしている。
桃色(妖狐)
のきぁと螢夜にまたに呼ばれる。訳あって螢夜の家に暮らしている。
最近の悩みは古い友人がこの家に住まいそうなこと。
黄色(飛縁魔)
本来は女の姿で男を誘惑する妖怪である。
友人の家主に手を出して面白がっている。
上手いこと居候になれないかと企て中。
灰色(麒麟)
力は強いが性格は優しい。一度怒ると手を付けられない。
友人らが一触即発しそうではらはらしている。
螢夜はいい人だから一緒に住みたい。
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