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「泉さん、それってどういう意味ですか?」
家に帰って、一人でゆっくり考えた。
泉さんが今日言っていたこと、これまでに言ってくれたこと、牧や石井さんが言ってたこと……。
泉さんの隣にいる自分を想像してみる。
……心がじんわり温かくなった。
と同時に、今の自分のままじゃ嫌だと思った。
きっと、泉さんならこのままの僕でいいと言ってくれるはず。でも、僕が嫌なんだ。
泉さんからもらった、自分で考える時間を無駄にしたくない。泉さんと出会って知った、思ったことを素直に言える喜びを行動にも移したい。
——自分に素直に生きたい。
それが僕がたどり着いた答えだった。
翌日、開店してすぐ、泉さんに会いにお店へ行った。
泉さんは「おはよう」と笑顔で迎えてくれ、何も言わなくても、コーヒーを淹れてくれた。
「今日は、クリスマスを意識してみました」
そう言いながら、コーヒーを机に置いてくれた。
マグカップに口を近付けると、オレンジのような爽やかな香りが鼻に抜ける。酸味はあるけど、尖った感じはしなくて、むしろ心地いい酸味だった。あとから、キャラメルのようなほろ苦い甘さが続く。
「僕、深刻な顔してましたか?」
「うん、してた」と、泉さんは少し笑いながらカウンターから出てきて、僕の隣に座った。
泉さんが淹れてくれるコーヒーから、僕にどんな気持ちになってほしいと思っているのか、すっかり伝わるようになっていた。
泉さんが意味を込めてくれた通りに、僕の心は柔らかくなった。
「泉さん、僕、内定辞退しようと思ってます」
「うん」
「自分の心に素直になります」
「うん」
「僕、泉さんの隣にいたいです。大好きなんです」
そのまま言葉を続けた。
「泉さんのことも、コーヒーも、この街も、全部好きなんです。全部手に入れたいって思ってしまいました」
……今までの自分なら、傲慢な考えだと切り捨てていたに違いない。
でも、この気持ちは本物だった。
「あはは! 欲張りな子だなぁ」と泉さんが豪快に笑う。
「……だめですか?」
「ううん、いいと思う。線になってる」
そう言いながら、泉さんは僕の手を優しく握った。
僕もその手を握り返した。
「じゃあさ、桃ちゃん、うちで働く?」
「……え? 僕、コーヒーのこと何も……」
「最初は誰だって分かんないことだらけじゃない?」
泉さんのその言葉は、コーヒーのことだけじゃなく、僕たちの関係も同じなんだと、僕を安心させてくれているような気がした。
僕は大丈夫だと思った。
泉さんの隣でなら、絶対大丈夫。
「はい、よろしくお願いします」
僕がそう言うと、泉さんはにっこり笑って、立ち上がり、僕の前に来た。
そして、両手を広げ、「おいで」と言った。
僕は泉さんの胸にゆっくりと全身を預けた。
少し身体を離して、泉さんは僕の顔を見て言った。
「じゃあ、これからは、桃ちゃんに遠慮しなくていいね」
「泉さん、それってどういう意味ですか?」
「桃ちゃんが思ってる意味でいいよ」
「……ずるいです」
「ん、もう一回」
完
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