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市川先生×夏樹(第4話)

 九月九日。市川の誕生日が来た。  夏樹は近所で人気のケーキ屋でケーキを買って、市川の自宅に向かった。ケーキを買う時、ふと「ロウソクって何本必要なんだろう」と疑問に思ったが、二十歳を過ぎてロウソク立てるなんてガキっぽいかもと思い直し、買うのを断念した。 「おー、夏樹! よく来たな!」  市川が満面の笑みで迎え入れてくれる。  その純粋な笑顔を見たら、胸がチクリと痛んだ。手造りケーキ、作れなくてすみません。 「先生、誕生日おめでとうございます」  罪悪感をごまかすように、夏樹は市川にケーキの箱を差し出した。 「うん、サンキュー! さてさて、どんなケーキを作ってくれたのかな~……」  ワクワクしながら箱を開ける市川。  だが中を見た瞬間、その顔から笑みが消えた。 「あれ? なんだ。このケーキ、夏樹の手作りじゃないじゃん」 「……しょうがないでしょ。オーブンが故障してたんだから」 「なんだよ~! 楽しみにしてたのにー!」  だから、すみませんってば……と、心の中で謝る。 「……しかもロウソクも買ってきてないし。まさかお前、俺が何歳か知らないわけ?」 「知りませんよ。そんなの一度も聞いてないし」 「二年生の体育の授業を受け持つ時に自己紹介しただろ~! 大学卒業してすぐにあの高校で働き始めて、今年で五年目になるってさー!」  ということは、若くて二十七歳ということか。もっとも、浪人や留年をしていたら、それより一、二歳老けている計算になるが。 「……すみません。体育の授業嫌いだったんで、聞いてませんでした」 「……だろうな。お前、一回目の授業から上の空だったし」 「嫌いな授業はやる気になれないんですよ。しょうがないじゃないですか」 「でも、俺が受け持ってる授業をハッキリ『嫌い』って言われるとなんか傷つくわ。俺、これでも授業はみんなが楽しめるように工夫してるつもりなんだけどな」  市川が長い溜息をつく。

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