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閑話「クッション」

 俺はつい、教室後方の席に座る箕面に向かって苦笑いをしてしまった。  視線に気づいた箕面は、屈託のない笑顔で「いーだろ! 持ってきた」なんて言う。  奴は椅子から立ち上がると、「ソレ」を両手に持って見せびらかした。  椅子用のクッションだ。  スモーキーな色合いの、ドーナツ型の円座クッションをチョイスしたようだ。  ……伊原に続き、お前もか。  その自慢げな顔を前にすると、ツッコむ気も失せる。 「なんだよー。反応薄いな」 「はいはい、よかったですねえ」  俺のドライな反応が納得いかないのか、箕面はクッションを持ったまま大股で俺の席までやってきた。 「ほら、触り心地いいぞ」 「へー」  俺はそれだけ言って、手元に視線を落とす。  ……今、課題を急ピッチで進めてんだよ!! 忙しいの伝われよ! 「いや、ほら。触ってみ!」 「ああ、もう」  俺はしぶしぶペンを置き、しつこく差し出されるソレをガシガシ触ってみる。  これは……。 「おお。なんか、すべっとしてるな……高級感ある」 「だろ。専門家推奨の低反発仕様だ」  誇らしげに言うけど……その専門家とやらはアテになるのか。  お前、よく分かってないだろ。 「おっ、そうだ。伊原のはどんな感じだろ……」  箕面は思いついたようにそう言って、伊原の席へと目を向けた。自分のと比較したいのか。  このとき、伊原は席を空けていた。  所属する掃除グループの班で、何かトラブルがあったようだ。伊原には直接関係ないことだったらしいが、巻き込まれた彼には同情する。  伊原たちがいまだに教室へ戻ってこないのも、そのせいだろう。 「伊原いないし、一瞬触るぐらい……」  そう言って箕面は、伊原のクッションに触れようとかがみ込み、手を伸ばした。  その様子を見ながら、俺は思った。  あいつ、私物触られるの嫌だったよな。  まあ、触ってもバレなきゃいいだけのことか。  いや、でも。さ。 「触んなよ。人のもん、勝手に」  自分でも驚くくらい、妙に低い声が出てしまった。  ここで「椅子を勝手に借りたお前が言うな」とツッコミが聞こえてきそうだ。  椅子は私物というより備品ではあるが。 「そ、そか。そうだな」  ははは、と気まずそうに笑いながら、箕面は手を引っ込めた。  触らないでいてくれるようだ。  こういうところ、素直だよなあ、こいつ。 「悪い。ちょっと言い方キツかったな……」  罪悪感から謝る俺に、箕面は苦笑した。 「いいよ。まあ、伊原ラブなお前なら、そういうの気になるだろうしなー」 「はあ!?」  ヘラヘラした顔で、さらっと爆弾を投下された気がする。  俺はその言葉に、たまらず噛みついた。 「気持ち悪い言い方すんなよ。友達として当然の感覚だろーが。無許可で人のもん触るとか非常識、ってだけで、バレなきゃいいかとか、そういう問題じゃ――」  俺の長文反発に、少し離れたところにいたハムが噴き出した。  何がおかしい。  次にそばに立っている箕面を見れば、こいつもニヤニヤしてやがる。  俺が座っているせいで、見下ろされる形になっているのが腹立たしい。 「あーもう、分かった分かったって」  手をひらひらさせながら、理解したように頷く箕面。  そのまま退散するように自分の席へ戻っていった。  わかってないだろ!!

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