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第1話

「コーヒーに砂糖なんて邪道だ」  あいつ、桑原浩之こと、ヒロが言っていた。  ヒロが言うには、コーヒーの美味さが、砂糖が入るだけで無くなるとのことだ。  俺、佐々木怜はコーヒーに砂糖を二杯入れる。  甘いコーヒー好きな俺にはよくわからない主張だ。  美味いコーヒーはいい香りだってするし、砂糖を入れたからって美味いコーヒーだっていう評価は変わらない。  人それぞれ好きに味わえばいいと俺は思っている。  俺はパソコンのキーボードを叩きながら、砂糖を二杯入れたコーヒーを飲む。  ビジネスチャットやメールを使いながら、俺は在宅ワークをしている。  今は主に不動産関係のデータ入力をやっている。  クライアントが変わるたび、連絡方法が変わるのが難点といえば、難点だ。  だいたい、ヒートを起こすたび仕事にならなくなるから、俺は在宅ワークを選んだ。  女性の月経と同様に一ヵ月に一回ほど来る。  女性には生理休暇があるが、男にはそんなものは無い。  妊娠できるという特性はあるが、ヒートには配慮がない。  身分証や健康診断でしっかり第二の性として管理されているのに、そのへんはおざなりだ。  妊娠できるΩは希少種だからか。  出産休暇は与えられているが、ヒート休暇はない。  なんともバランスが悪い社会だ。  午後六時。  そろそろビジネスチャットで今日の進捗報告書を送ろう。  あと一時間もすればヒロも帰ってくるだろう。  ……残業や接待がなければ。  ヒロは一流商社のエリートサラリーマンだ。  二十代後半で課長になった将来の有望株。  見た目も眉目秀麗であり、時間があればジム通いをしているので、筋肉もある。  ……今以上モテるのは困るが。  そのヒロが帰宅するなら、俺は夕食をつくらないといけない。  そもそも同棲する時に、家事の役割分担を二人で決めたのだ。  炊事は俺。掃除はヒロが休みの時にやり、洗濯は一週間交代。  家族と一緒の頃から、たまに料理を作っていたし、一人暮らしも長かったので、簡単な料理はできる。好きかどうかは別として。  その時、LINEの知らせが届く。  ヒロからだ。 『今日は残業なしで家に帰る』  一行だけ。  せめて、もう少し言葉がないだろうか。  可愛らしいスタンプ一つないし。  お疲れ様の一言ぐらいあってもいい。  まぁ、ヒロは常に人に対し、塩対応が普通なのだけど。  同棲している俺にまで、塩対応しなくてもいいと常々思っている。  一時間で作れる料理か。  そうだ。  昨日ひき肉を買っておいたから、ハンバーグにしよう。  玉ねぎも、パン粉もあったな。  それをトマトで煮込もう。  俺はパソコンをシャットダウンし、キッチンへ急ぐ。  冷蔵庫やキッチンの引き出しから材料を取り出す。  ヒロが帰ってくるまでに、米も研いで炊いておこう。  玉ねぎを刻んで、それを耐熱容器に入れてレンジでチン。  ボウルに牛乳とパン粉を混ぜてふやかし、ひき肉、卵、塩、こしょう、レンジで加熱して冷ました玉ねぎを入れる。  あとはよくこれをこね、空気を抜いて、ハンバーグ型に成形。  きっちり火が通るまで焼いて、今度は煮込みソースを作るのに、トマト缶とケチャップ、ウスターソース、コンソメ、砂糖を入れる。  これで十分ほど煮込み、ソースにとろみがつくほど煮詰めれば完成だ。  出来上がった煮込みハンバーグに、昨日買ったレタスを切って、サラダにする。  米が炊ければ完成だ。  さて、それまで音楽でも聴きながら待っていようか。  ヒロの好きなOfficial髭男dismの曲をYoutubeで流す。  それをキッチンで聴く。  ボーカルの声がたまらなくいい。

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